Reflection of Music Vol. 102 田村夏樹・藤井郷子「あれもこれも2025」
田村夏樹・藤井郷子「あれもこれも2025」 @新宿ピットイン 2025.2.02
Satoko Fujii & Natsuki „Aremo Koremo 2025“ @Shinjuku PIT INN, February 02, 2025
photo & text by Kazue Yokoi 横井一江
年初めに毎年足を運んでいる田村夏樹・藤井郷子の昼夜ぶっ通しライヴ「あれもこれも」。10回目となる今年だが、新宿ピットインの改装工事があった関係で2月2日の開催となった。
最初のステージは結成27年目になる「Satoko Fujii Orchestra東京」、一年に一回ここで見ることがいつの間にか慣例になって随分経つ。アンサンブルと各々自由に展開するソロによる絶妙な構成はこのオーケストラならではのもの。今回は全てここで初めて聴く曲だったこともあってか新鮮だ。田村の曲では、紙コップを叩いたり、割り箸?にそれを被せてクルクル回して音を出したかと思えば、ガムテープを使って音を出したり、ということも。ここで悪ノリをしたのが吉田隆一、ガムテープを自分にぐるぐる巻きつけて動き、最後は芋虫のように床に転がってしまう。藤井作品の間にこのようなハプニング込みの田村作品をやってしまうのもこのオーケストラのユニークなところで懐の広さを感じる。観客も面白がっていた。
続いて「この5人」[天鼓、中村としまる、アキオ ジェイムス、田村、藤井]。異色の顔合わせのようだが、天鼓は昨年の「あれもこれも」で「This is it!」にゲスト参加しており、天鼓、藤井、中村としまるのトリオでも演奏を試みている。天鼓が自在に繰り出すヴォイス、中村としまるのノー・インプット・ミキシング・ボードが出す独特のサウンドが他の楽器演奏者と有機的に絡み、ほぐれる様は即興演奏ならではの面白さ。1部最後は変則トリオ「This is It!」[田村、藤井、井谷享志]。このトリオのキモは井谷享志だと私は勝手に思っている。彼はドラムセットだけでなく、思いがけないものをステージに持ち込む。2年前はパイプ椅子を叩いて音を出したのでびっくりしたが、今回は古い洗濯たらい。それを叩いたり、弦で擦って音を出すだけではなく、中に豆を入れて効果音のように鳴らした。それは藤井や田村の特殊奏法との相性もよく、楽音にないサウンドによって空間的に広がりのある音表現となる。ちなみに井谷が豆を使ったり、最後に鬼の仮面をつけて演奏したのは翌2月3日が節分だったからだ。
2部はすずえりと藤井のデュオで始まった。毎年「あれもこれも」では何かしら新しい出会いがある。昨年は『ホワット・ハプンド・ゼア』(Libra Records) として1月下旬にライヴ盤がリリースされた灰野敬二と田村とのデュオだった。今年はなんと言ってもすずえりと藤井の初共演。このふたりは昨年メールス・フェスティヴァルの会場で知り合った。とはいえ、全くタイプの異なるふたりなので、まさか共演する日が来るとは思わなかった。すずえりは自作装置とピアノでパフォーマンスを行っているが、果たして藤井のピアノとの共演はどうなるのか興味津々。すずえりの自作装置と弦の部分にアッタチメントが付けられたピアノを特殊奏法も交えて弾く藤井によって繰り出されるサウンドが耳を拓く。すずえりがひとりで自作装置とピアノで演奏するのとは異なり、ピアニストがそこに居ることでサウンドインスタレーションと即興演奏の狭間にある音響が会場に広がった。また聴きたいと思わせるサウンドだったので、再演を期待しよう。
次は昨年『Nat Jim』(Libra Records) をリリースしたジム・ブラックと田村とのデュオ。ジム・ブラックをライヴで見るのは随分と久しぶりだ。瞬発力があり、切れ味のよいドラムは聞いていて気持ちがいい。自在に音を出す田村のトランペットと相待って、バリエーションに豊む演奏が展開していく。翌日、藤井も含めた「Nat Jim Sat」に竹村一哲が加わった特別ユニットでも新宿ピットインで演奏したが、それを観そびれてしまったことを後悔している。ライヴ音源がCD化されることを期待したい。トリは例年通り「お年玉バンド」[巻上公一、広瀬淳二、ナスノミツル、芳垣安洋、田村、藤井]が田村の曲を演奏。今年もステージ上での打ち合わせから入る。この企画は盛り沢山なので、リハーサルをする時間がないことからこうなったようだ。それもまたパフォーマンスのうちと考えればよい。ミュージシャン同士の会話が頭に残っているので、他のステージとは少し違った聴き方になる。あのやり取りからこのような展開になるのか、と余計な事も考えつつ観ていた。今年も例年どおり百戦錬磨の顔ぶれによる個性が織りなす演奏で締めくくられたのだった。
田村・藤井のLibra Recordsからは、灰野敬二と田村の『ホワット・ハプンド・ゼア』以外にも、藤井と弦楽器アンサンブルとのプロジェクトGEN[向島ゆり子 (vln)、加藤綾子(vln)、波多野敦子 (viola, elevtronics)、吉野弘志 (b)、藤井 (p)、堀越明 (ds)]による初アルバム『標高1100メートル』が1月下旬に出た他、藤井郷子 東京トリオによる『ドリーム・ア・ドリーム』が3月30日にリリースされたばかり。今年も二人がどのような活動をしていくのか眼が離せない。
2025年2月2日 新宿ピットイン
【1部】
1) Satoko Fujii Orchestra Tokyo
早坂紗知 (as), 泉邦宏 (as), 松本健一 (ts), 藤原大輔 (ts), 吉田隆一 (bs), 田村夏樹 (tp), 福本佳仁 (tp), 渡辺隆雄 (tp), 城谷雄策 (tp), 高橋保行 (tb), 古池寿浩 (tb), 永田利樹 (b), 堀越彰 (ds)
2) この5人
天鼓 (voice), 中村としまる (no input mixing board), 田村夏樹 (tp), 藤井郷子(p), アキオ ジェイムス (ds)
3) This is It!
田村夏樹 (tp), 藤井郷子 (p), 井谷享志 (per)
【2部】
4) すずえり (自作楽器、他), 藤井郷子 (p)
5) NatJim Duo
ジム・ブラック (ds), 田村夏樹 (tp)-
6) お年玉バンド
巻上公一 (voice), 田村夏樹 (tp), 広瀬淳二 (ts), 藤井郷子 (p), ナスノミツル (b), 芳垣安洋 (ds)
広瀬淳二、ジム・ブラック、巻上公一、ナスノミツル、井谷享志、中村としまる、芳垣安洋、This is it!、すずえり、Satoko Fujii Orchestra Tokyo、天鼓、アキオ ジェイムス、Jim Black