#1364 Evening with Polish Jazz ポーランド・ジャズ・ナイト
*本稿は、昨年10月に投稿されたものですが、編集部の手違いで掲載されませんでした。投稿者の申し出を受け、改めて掲載するものです。投稿者と読者の皆さまにお詫びいたします。(編集部)
text & photo: Toshio Tsunemi 常見登志夫
Evening with Polish Jazz
2024年10月25日(火)東京・代官山“晴れたら空に豆まいて”
Immortal Onion[ジェモヴィト・クリメク Ziemowit Klimek(b,moog), トミル・シピョウェク Tomir Śpiołek(p,syn), ヴォイテク・ヴァルミヤク Wojciech Warmijak(ds)] ミハウ・ヤン・チェシェルスキ Michał Jan Ciesielski(ts)
①Screens ②ZOZI ③Thinium ④Digital Relations ⑤OK Boomer ⑥Bitter Habits ⑦Orange Moons ⑧Intensity ⑨IA[Information Architecture](Encore)
ポーランドの現代ジャズを紹介するイベント、「Evening with Polish Jazz」(2024年10月25日(火)、東京・代官山“晴れたら空に豆まいて”)に参加する機会を得た。
イベントは、ポーランドのグダニスク出身のピアノ・トリオ、イモータル・オニオン Immortal Onion(“不滅の玉ねぎ”の意。2016年結成)とテナーサックス奏者、ミハウ・ヤン・チェシェルスキ(Michał Jan Ciesielski)によるライブ演奏(初来日だそうだ)と、首都ワルシャワのジャズクラブ、SPATIF(スパティフ)の芸術監督兼共同オーナー/プロデューサーのバルトウォミェイ・パズラ(DJ ZURA)氏による、現代ポーランド・ジャズ・シーンをテーマにしたトークショー、DJの3部構成。
第1部のパズラ氏のトークショーには残念ながら参加できなかったが、ポーランド広報文化センターからの招待メールには「ワルシャワの現代ジャズや即興音楽シーンについて、コンサートや音楽イベントの主催者・プロモーターとしての視点から、独自の洞察をお届けします。また、SPATIFクラブやJazz Stateコンサートシリーズ、Dwa
Domyスタジオに集うミュージシャンたちについても語ります。厳選された演奏家の録音を聴きながら、ポーランド・ジャズの歴史に触れる貴重なひとときをお楽しみください!」とあり、かなり有益な情報が発信されたのは確か。
会場はほぼ満席。客層はほとんどが欧米人で、日本人は1割くらいしかおらず、英語やポーランド語?が飛び交っていた。
冒頭でイモータル・オニオンを“ピアノ・トリオ”と紹介したが、ジャズの即興要素を主体に、フュージョン、エレクトロニカなど多様なジャンルを取り入れたインストゥルメンタル・バンド、と呼んだ方が正しいかもしれない。
日本でもディスクユニオン等で彼らのデビュー・アルバム『Ocelot of Salvation』(2017年)や、U Know Me Recordsレーベルからリリースされた『XD [Experience
Design]』(2020年)が手に入るが、いずれも「ジャズ」にジャンル分けされている。
(アルバムのすべての楽曲はレーベル・サイドよりYoutubeにオフィシャルにアップされている。Youtubeでは、かなり以前のステージ音源も聴ける)
今回のライブは、ミハウ・ヤン・チェシェルスキが録音に参加したアルバム『Screens』(2022年)からの選曲がほとんどである(下記の①②④~⑦)。
オープニングの〈Screens〉は、プログラミングされたシンセのゆったりしたサウンドにベース、ドラムスが加わり、テナーの生音が少しずつ加わっていく。ピアノにもベースにもビブラートなどの電気的なエフェクトがかかっていて、バンドの紹介プロフィールにあった「E.S.T.からインスパイア」された影響が感じられる。ドラムン・ベースの展開(変拍子もどんどん変わっていく)や急速調のテナーがスリリングだ。
〈ZOZI〉もプログラミングされたリズムやストリングスに生のベースやドラムス、ムーグ(moog)を重ねたり、テーマを吹くテナーには自らのオーバーダブを重ねたり、と壮大な世界観を見せる。
ダンサブルな〈Digital Relations〉ではテナーが短いリフを繰り返しながら、シンセやムーグが色彩を重ねていく。
スローなアコースティックなピアノとテナーで始まった〈OK Boomer〉も、まもなくドラムン・ベースの激しいリズムに乗り、フリー・モードの展開となった。10分以上の長尺ナンバー〈Bitter Habits〉では、短いテーマ(冒頭ではテナーによる)を、様々な楽器、そして同じ楽器でも電気的に音色を変えて繰り返す。曲の後半では、これまで強調されていたリズムを抑え、クリメク(b)によるムーグ、シピョウェク(p)によるシンセ、ミハウ(ts)によるプログラミングの音色が幾重にも交差し、色鮮やかな世界が広がった。
いずれも演奏が終わったとたん、陶酔しきったような観客が、一瞬の間をおいて、すさまじい拍手と歓声を上げていた。
改めてYoutubeに上げられた曲を聴いた。オーディエンスの多くが熱狂したステージを体感した後だからかもしれないが、かなり整った印象で、爽やかささえ感じられた。聴く機会が少ないポーランドの若手アーチストによるジャズだが、今は気軽に聴ける環境にある。
JazzTokyoでは5年ほど前に市之瀬浩盟氏がImmortal Onionの2枚目のCD作品、『XD experience design』をレビューしている。
イモータル・オニオン、ポーランド・ジャズ、ミハウ・ヤン・チェシェルスキ#2025 『IMMORTAL ONION / XD experience design』『イモータル・オニオン/XD エクスペリエンセ・デザイン』