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Concerts/Live ShowsNo. 325

#1362 MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス 『コレスポンデンス』

text by 剛田武 Takeshi Goda
Photography by Kei Murata, Courtesy of MODE.

MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス
会期:2025年4月26日(土)〜6月29日(日)
会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/MOTPlus-correspondences/

 

Question:変化する時代におけるアートのパワーとは?
(2025年4月25日 東京都現代美術館におけるプレス・カンファレンスにて)

Answer 1 : ステファン・クラスニアンスキー(Stephan Crasneanscki)from サウンドウォーク・コレクティヴ(Soundwalk Collective)
コスポンデンス=往復書簡とは、日常の出来事を手紙にしたためて相手に伝えること。目の前の世界や身の回りの世界で何が起こっているのか、例えば環境問題などの出来事が取り込まれていくのは自然なこと。同時に自分たちがなぜアートをやるのか、何故詩を書くのか、アーティストであることの意味とは、ということを問いかけ続けていく。そして自分たちが関心を持ったことや感じたことをシェアするだけだ。アートによって説教や指導をするのではない。自分たちが考えているものを見せることによって、観る人がそれぞれ持ち帰りたいなら持ち帰ってもらえればいい。私たちの作品が観る人それぞれにインスピレーションを与えてFood For Soul(考えるための糧)になればいいと思っている。

Answer 2:パティ・スミス(Patti Smith)
社会におけるアーティストの役割や責任とは何かとよく聞かれる。個人的には、アーティストが責任を持てるのは第一に作品だと思う。自分の作品がなるべく良いものに、なるべく素敵なものになるように努力して、それを世界に提示する。社会的な責任とはアーティストだけにあるのではなく、例えばジャーナリスト、母親、パン屋、街の清掃員であろうと、この世のひとりひとりにある。もしかしたらアーティストは言葉を持たない人に言葉を与えたり、歌にならないものを歌にしたりする力を持っていて、その役割を果たすことはあるかもしれない。しかしこの世界を変えられるのはひとりひとりの人間だ。アーティストを高尚な存在と考える人もいるが、私は個々の人々を讃えたい。いつも言うようにPeople Have The Power(人々が力を持つ)だ。ひとりひとりが力を合わせなければ何も変わらない。私は自分にできることをするだけ。みんながそれぞれ自分のできることをやってほしい。

パリからニューヨークへ向かう飛行機で隣りの席になったことがきっかけで始まったというサウンドウォーク・コレクティヴとパティ・スミスの10年に亘るコラボレーションのエキシビジョンが、東京都現代美術館が実験的なプロジェクトを展開する場として新たに企画した「MOT Plusプロジェクト」の第一弾として、地下にある企画展示室で開催されている。2023-4年に制作された映像と音と詩から成るプロジェクト『コレスポンデンス』をメインに、パティが愛読する太宰治の『人間失格』にオマージュを捧げた絵やローマ教皇フランシスコが亡くなった日に描いた花など、来日してから制作された作品を含む絵画やオブジェを展示。通常の美術展のつもりで静的アートだけを鑑賞するとしたら1時間もかからずに観終わってしまうかもしれない。

この作品展の肝は、巨大な壁面に投影される『コレスポンデンス』の8つの映像と、フィールド・レコーディングによるサウンドとパティの朗読に身を委ねて時間を過ごすことで、自分なりの思索と創造の糧とすることにある。作品には、原発・戦争・宗教・環境破壊・災害など社会性の高いテーマが描かれているが、それをどのように解釈し受容するもしくは拒否するかは受け手の自由であり権利でもある。刺激されて何か行動を起こすもよし、ただ映像や音声の迫力や美しさに陶酔するもよし。それはライヴ・パフォーマンスについても同じである。つまり筆者は「People Have The Power」とは人々が力を合わせて世界を変えろという意味ではなく、ひとりひとりが違うからこそ世界は美しい、という意味だと受け取った訳である。アートのパワーは人々のパワーに通じている。(2025年4月30日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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