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Concerts/Live ShowsNo. 333

#1401 トーマス・モーガン・ベース・ソロ&トミーカ・リード・カルテット

text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2025年12月14日(日)神楽坂・赤城神社あかぎホール

トーマス・モーガン&トミーカ・リード・カルテット
1.トーマス・モーガン・ベース・ソロ
トーマス・モーガン (double bass, the WOODS programmed by Thomas Morgan)
2.トミーカ・リード・カルテット
トミーカ・リード (cello)
メアリー・ハルヴァーソン (guitar)
ジェイソン・レブキ (double bass)
トマ・フジワラ (drums)


ダブル・ビルでもあり、あかぎホールの100人足らずのチケットは発売まもなくソールド・アウトとなった。トーマスとトミーカの比率は4:6くらいかと思っていたが、専門家の意見ではトミーカのファンはさらに多いだろうとのこと。しかし、トーマスを聴きに来た知り合いはトミーカの存在を知らなかったと言い、やはり4:6くらいだったのではないか。
トーマス・モーガンのセット。トーマスが着流しで現れたのには驚いた。パートナーが日本人で日本贔屓だからか、あるいは神社での演奏だからか。50分間休みなくピチカートだけで無心にただ弾き続けた。超絶技巧を披瀝することもなく、感情の昂りを見せることもなく。そのまれにみるイマジネーションの豊かさと集中力の強さは最盛期のキース・ジャレットの演奏を思い出させた。一瞬ポーズを置いた最後の5分ほどの曲は、話題のヴァーチャル・インストゥルメントWOODSとの共演だった。
新作CD冒頭の<Around You is a Forest>(森に囲まれて)。西アフリカの民族楽器の明るい音がトーマスを取り囲む。約1時間の演奏を終えると静かに頭を下げてその場をあとにした。ところで、トーマスは楽器を自宅から持ち出さず現地でレンタルする主義だが、弾き慣れない楽器を使った1時間のソロ演奏は相当チャレンジングだと思う。ブリッジの調整にいちばん苦労すると言っていたが、そういうハンデを微塵も見せない演奏はさすがだった。

2部のトミーカ・リードのカルテットはフロントのふたり、チェロのトミーカとギターのメアリー・ハルヴァーソンが女性。トミーカがアフリカン・アメリカンでドラムスのトマ・フジワラはジャパニーズ・アメリカン。ジャズ、とくにインプロ系の場合、ジェンダーや出自を知ることは差別とは関係なく無駄にはならない。
スペースを確保するためにステージを置かない平場のセッティングだったため立って観ようと最後列の席を選んだのだが、それでも座って演奏するフロントのふたりを目視することはできなかった。バンドの背後にも席を一列設けるほどの混みようだったったから。数日後にFacebookに書き付けた日記風の感想文を引用してみる。「(メアリーは)当時は “メガネ女子” のニックネームで呼ばれていたが、今やダウンビート誌の批評家投票でトップを張る人気、実力随一のギタリストに成長(ジャージーで登場したのはいかにもダウンタウン系らしい?)。リーダーのトミーカもマッカーサー賞に輝く才女。演奏を聴いているとこれくらいなら日本のバンドも、と思っていたが徐々にギア・アップ、アンコールを聴き終えて、“参りました!”。例えるなら4色の飴の棒を複雑により合わせて完成した1本の飴の棒を切断すると断面は複雑怪奇。その複雑さ、緻密さ、密度の濃さは尋常ではないといったところ。リズムはキープしながらジャズをベースにハイパーになったりアヴァンになったりまれにファンキーさをみせたり微妙に表情を変えていく。こういうコンテンポラリーなジャズの人気を支えているのはいわゆるWASPだろうが、それにしてもアメリカのジャズは底知れぬ深さを持っている」。一人ひとりの頭抜けたスキルと音楽性で音楽が複雑・緻密に綾織りされ寸分の乱れもなく表情を変えながら展開されていく。そのスリルと高揚感は例えようもない。
終演後のサイン会には長蛇の列ができていた。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。最新刊に訳書『キース・ジャレットの真実』(DU BOOKS)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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