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Concerts/Live ShowsNo. 333

#1402 鈴木昭男 + ロードリ・デイヴィス

text by Shuhei Hosokawa  細川周平
photo by Yoshikazu Inoue  井上嘉和

2025年12月22日  @京都 CLUB METRO

鈴木昭男 (音器)
ロードリ・デイヴィス Rhodri Davies  (harp)


楽器が発明される前

ちょうどその日は冬至に当たった。ゆず湯の代わりにアキオン(昭男の音)をいただいて、耳もからだも温ったまった。ほっこり満足のひとときだった。

会場のクラブメトロは地下駅へ下りる階段の踊り場から入る。構造上のブラインド・スペースに作られた密室で、6,70人収容、天井は低く壁の吸音がきつい。大音量のスピーカーで歌い踊るには困らないが、演奏を聴き込むには向いていないはずだ。そう思っていた。その「鳴りの悪い」空間をアコースティックできっちり鳴らす(馴らす)のだから、二人の芸アートは傑出していると妙に感心した。

ロードリ・デイヴィスはウェールズ出身のハープ奏者で、この楽器でたぶんただ一人、即興シーンで活躍してきた。通常の上品な奏法を離れ、弦を指や掌で叩き撥き擦り、マレットや弓を使う。しかしどう弾いても、ガット弦は耳にやわらかく、純正調に調律された音から外れることはなく、耳ざわりはよい。角の立った音にはなりようがない。楽器の歴史で教わる古代ギリシアやエジプトのリラも、基本音は変わらないだろうと空想がはたらく。金属弦の代表楽器ピアノが扱いしだいで攻撃的で、楽音の領域を超えていくのと対照的だ。

第一部のソロは手持ちの竪琴(ブレイハープ)をプラグにつないで、優雅なステレオタイプを破壊するようなアクトで、楽器の潜在力を紹介しつつ、DJ向きの空間の響きを試しているようだった。時々脇に置いた印刷物を目で追っていたが、作曲コンポジションを奏していたのかもしれない。ロードリはあるインタビューで、塩見允枝子の「外に出て風を感じろ、風の速度変化を観察しそのパターンを記憶しろ」と指示のある作品「風の音楽」について熱心に語っている。風の音を演奏したという楽器のギリシア神話的起源に立ち還れという意味を含む。あいにくスピーカー音は倍音(響きの奥行き)を含まず、時に音量で威嚇するようで興味を失いかけたが、最後、プラグを外して微小音をおそらく意図せず、数秒響かせたのにはぐっと惹きつけられた。彼は初めての場所柄を読み違えたと理解した。

対する鈴木昭男は、管と打の楽器の祖先に遡るような「音器」を試し弾きしている。演奏用に特別に製造された「楽器」ではなく、創作楽器でもない。日用品を吹いたり叩いてたまたまその音が気に入ると、音の種類と広がりと奥行きを増すよう工夫して、人に聴かせる音器に成長する。この日の最初は穴のあいた石の笛で、吹けばホイッスルやチューニングの笛のような音がする。ドレミに調律すればオカリナになりそうだ。この日は小石に息を吹き込んでつくり出す音に、演者が喉を振るわせ息をからだに共鳴させる声を重ねたのが聴きどころだった。この発声音はモンゴルのホーミーに近いが、その技術を応用しているというより、ウーウーという動物のうなり声に近く、気管の音響特性を試しつつ、喉笛を鳴らしているという方が近い。そこで石笛と喉笛の二重奏と洒落て呼ぶ。

次の音器は小豆を入れたドロップの缶で、振るとカシャカシャ、マラカスのような音がする。次にギザギザの入った棒を擦り合わせてギロのようなシャカシャカ音をつくり出した。手鏡をスポンジのようなもので擦るとキュッキュッと音がし、二本の木筒を叩けばクラーベに似る。座っていた木箱(カホン)をたたいたり、へりを擦ったり、お手玉のようなモノをぶつけてジャラジャラ音を立てたり、箱の上に落とすとドシャンと音がする。細長いブリキ看板を揺らすと、ブヨンブヨンとテレビマンガの効果音のように聴こえた。どれもラテンアメリカの打楽器はすぐその先にありそうだ。

言語以前のオノマトペで表すしかない音に耳が集中する。モノには音がある。この平凡な真理を証明することが、音器パフォーマンスの美学と聴こえてくる。後で昭男さんに話を伺うと、個々のモノ=音器の由来を教えてくれた。どれも発見と愛着の品々で、どんなブリキ板でもよいわけではない。それは丹後ちりめんの廃工場から譲られたそうで、印刷された「第二工場」の文字はやたら目に入った。解体工事の落とし物である。ドロップ缶は台湾で入手したのだそうだ。音器の演奏とは、既存のモノに手を添えて語らせる(物語らせる)ことに他ならない。

第二部はデュオ。探り合いで始まり数分後には対話が成立し、音器の微細な音(物音)に、グランドピアノの大きさの近代楽器ハープが、あたかも古代楽器のように持続音と単発音で反応した。瞬間ごとの遭遇のほかに、ゆったり流れる深海流のような音量の変化や緩急に同調すると、緊張や興奮とは反対に気持ちは緩み、セラピーのような心地よさが感じられた。「ほっこり」の本質である。

アンコールに鈴木昭男創案中唯一「楽器」と公認され、名前を持つアナラポスが取り出され、他の楽器との珍しい共演を果たした。それは糸電話の体裁で受話器の代わりに金属の筒を取り付け、プーと吹いたりピュンピュンと太い糸を共鳴させる楽器で、ハープが思いがけないほど親密に重なった。原始的なアキオンに工業製品の楽器が引っ張られ、思いがけず元始の音を取り戻した。

細川周平

細川周平 Shuhei Hosokawa 京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター所長、国際日本文化研究センター名誉教授。専門は音楽、日系ブラジル文化。主著に『遠きにありてつくるもの』(みすず書房、2009年度読売文学賞受賞)、『近代日本の音楽百年』全4巻(岩波書店、第33回ミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞)。編著に『ニュー・ジャズ・スタディーズ-ジャズ研究の新たな領域へ』(アルテスパブリッシング)、『民謡からみた世界音楽 -うたの地脈を探る』( ミネルヴァ書房)、『音と耳から考える 歴史・身体・テクノロジー』(アルテスパブリッシング)など。令和2年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

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