#1398 八木美知依 TALON 〜 Hyper-Koto Ensemble Vol. 6
text & photo by Kazue Yokoi 横井一江
2025年12月6日 @新宿ピットイン
MICHIYO YAGI TALON
八木美知依(エレクトリック二十一絃箏、歌)
磯貝真紀(二十一絃箏、十七絃箏、歌)
高橋弘子(エレクトリック十八絃箏、歌)
奥野楽(箏、十七絃箏、歌)
【曲目】
第一部
序章 – 八木美知依 作曲(新作初演)
Caprine – 八木美知依 作曲
蜻蛉 – 八木美知依 作曲(新作初演)
梅干しジャム – 八木美知依 作曲(新作初演)
梅雨寒 – 八木美知依 作曲(新作初演)
第二部
「ローズマリーの赤ちゃん」のテーマ – クシシュトフ・コメダ作曲
桃の実 – 八木美知依 作詞・作曲
Mirage – 八木美知依 作曲(新作初演)
ずいずいずっころばし – わらべうた、八木美知依 編曲(新作初演)
Caprine Ⅱ – 八木美知依 作曲(新作初演)
アンコール
Drunk Dragon – 八木美知依 作曲
ハイパー箏奏者として多方面で活躍、独自の活動で評価も高い八木美知依は、長年に亘って箏アンサンブルの可能性も追求してきた。2018年には箏カルテット「Talon」(猛禽類の爪という意味)を結成、自らの企画でリサイタルを行う他、藤倉大がアーティスティック・ディレクターを務めるボンクリ・フェスにも出演するなど着実に活動を続けている。
今回の公演では一曲を除いて、八木が新たに書き下ろした7曲を含むオリジナル曲によるプログラムで、4種類の箏を用いて演奏した。第一部は箏の絃を弓引きし、弦楽器によるアンサンブルのような響きをも持たせた<序章>から、高橋弘子のエレクトリック18絃箏が刻むベースサウンドに八木のエレクトリック21絃箏などを重ねる<Caprine>へと続く。この曲は八木と共に2024年にメールス・フェスティヴァルに出演した高橋が、日野浩志郎「goat」によるステージを観て、このような曲を演りたいと言い出したことから八木が作曲したという。高橋の弾くミニマル・テクノ的なリズムに支えられた曲構造に「goat」の演奏からインスパイアされたものが窺える。goat(ヤギ)に対してcaprine(ヤギの、あるいはヤギに似たといった類似性を表す形容詞)とは上手くタイトルをつけたものだ。続く<蜻蛉>や<梅干しジャム>は重なり合う箏の響きの中からメロディが立ち上がってくる異なった曲想の作品で、箏らしい表現も垣間見え、現代的でありながらも和的な世界を創造。<梅雨寒>はその旋律と高音の美しい響きが印象的な作品だった。
第二部は八木のソロ演奏で始まった。演奏したのはポーランドを代表するジャズ・ピアニストで映画音楽も多く手がけたクシシュトフ・コメダ作曲による映画『ローズマリーの赤ちゃん」のテーマ。ホラー映画ではあるが主役のミア・ファローが歌うテーマ曲は印象的だ。そのフラジャイルな世界を八木は箏の深い響きをもって描く。続いて、ボンクリ・フェスで初演された<桃の実>、当初は25絃箏を含む楽器編成だったが、今回はそのパートを21絃箏で演奏。スリリングな展開あり、唄と演奏の掛け合いありの作品だが、再演だけに完成度の高い演奏だった。そして、共鳴する絃の響きが美しく、重奏的な演奏の中からミステリアスな世界が立ち現れる<Mirage>。八木の思い切ったアレンジによる<ずいずいずっころばし>は、オリエンタルな導入部分からハイテンポのテーマ、またストップ・アンド・ゴーを取り入れた展開と掛け合いが面白い。エンディングは<Caprine Ⅱ>、そしてアンコールは本田珠也 (ds)、須川崇志 (b) とのトリオのために書いた曲<Drunk Dragon>のカルテット・バージョンで締め括った。
八木は演奏に当たって、箏は音程が狂いやすい楽器だが、そのピッチのズレを微分音としてポジティブに捉えていること、箏の持つ倍音、そしてアンサンブルでは奏でる音が共鳴する効果を活かしたいと考えていると述べている。Talonのメンバーも共演歴の長い磯貝真紀や高橋弘子に新たに奥野楽が加わったことで少し若返った。伝統の中に落ち着くのではなく、八木が探求している現代の音楽としての箏アンサンブルのひとつのマイルストーンとなる公演だった。今年、箏アンサンブルでのCDリリースも予定されており、カルテットでのさらなる活躍を期待したい。
八木美知依, クシシュトフ・コメダ, Talon, 磯貝真紀, 高橋弘子, 奥野楽, 箏アンサンブル, ローズマリーの赤ちゃん
