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#1411 ドキュメンタリー映画『カウント・ベイシー』

text by Yoko Takemura  竹村洋子

原題:Count Basie : Through His Own Eyes
監督:ジェレミー・マー
制作;EAGLE ROCK ENTERTAMENT LTD、
2018年 イギリス 75分
字幕:山口三平
配給:ディスクユニオン
配給協力:ALFAZBET


映画の概要については、既にJTのニュース、5月15日で告知済みなので、ここでは簡単な紹介だけとさせて頂く。

アメリカを代表する、ビッグバンド・ファンのみならず、ジャズ・ファンなら誰もが知るジャズ界の巨匠カウント・ベイシーの伝記映画である。

映画は、ベイシーが生前に残した言葉で語られ、ファンの方の中にも読まれた方は多いと思うが、アルバート・マレイが書いたベイシーの口述伝記『グッド・モーニング・ブルース:Good Morning Blues 』(Random House, NY 1984) のストーリーとほぼ同じ構成での進行となっている。映画の中では音楽的なことも勿論紹介されていくが、どちらかというと、カウント・ベイシーの人となり、プライベートな部分が多く紹介されており、未発表だった映像も多い。

まず、映画の冒頭に、一人娘、ダイアン嬢とキャサリン夫人が登場したのに大変驚ろかされた。ダイアン嬢(1944~2022)のことは今までほとんど知られていなかった。筆者も、障害を持ったお嬢さんがいて、ベイシーの全遺産は彼女が受け継ぎ、彼女はラトガース大学のベイシー・スタディに寄付し、数年前に訃報を耳にしたことくらいしか知らなかった。映像は家庭用のホームビデオで撮影したものだろう。とても明るい楽しい雰囲気で、この映像を通してベイシーの温かさを改めて感じたものだ。

そして、ベイシーがイギリス旅行中電車の中で、回想録を書きはじめるという、『グッド・モーニング・ブルース』の書き出しと同じように、ベイシーの子供時代から1980年代のベイシーの晩年まで、ベイシー・サウンドと共にストーリーが展開していく。

ベイシーのプライベート面、特に映画の後半に多く見られるダイアン嬢についての場面には涙が溢れる。生まれたばかりの娘を抱くベイシーの写真、その後、脳性麻痺と診断され、言葉も喋れず、歩くこともできなかったダイアン嬢にベイシーとキャサリン夫人は普通の人と同じように接し、特別な施設にも入れずに育て上げた。ベイシーのダイアン嬢に当てた数々のバースデイカードや手紙の映像にも心打たれる。家族の絆の強さを見せつけられる。

またキャサリン夫人の公民権運動についても多く語られているのにも驚かされた。これはベイシーは人種差別の中で生き抜いてきたベイシー本人が直接公にしたくなかった事実なのだろう。

音楽に関しては各時代の代表曲が、途切れることなく、きちんと収められている。

ジェレミー・マー監督は音楽とミュージシャンに関するドキュメンタリーを多く手がけているようだが、このドキュメンタリーはただ単純にベイシーの生涯を描いたものではない。また、誰かを扱ったドキュメンタリーで、多くの人たちが主人公を褒め称えるようなものとは違い、もっと奥が深い。

元バンドメンバーのハロルド・ジョーンズ(ds)、ジョン・ウィリアムズ(bs)、グレッグ・フィールド(ds)、現在のベイシー・バンドのリーダーであるスコッティ・バーンハート(tp)、クインシー・ジョーンズ、ベイシー存命中から現在までバンドのマネージャーを務めているディー・アスキュー女史や親友たち、ジャズ評論家のゲイリー・ギディンズ氏などがコメントしているが、それぞれのコメンテイターの言葉には、ベイシーに対する尊敬と愛が溢れている。

特に、筆者の心を動かしたのは、ジョン・ウィリアムスの「ベイシーは偉大な音楽家というだけではなく、サイコロジスト(心理学者)だった。」という一言だった。

ベイシーは、ほぼ同時代を生きたピカソやマティスといった画家と同等の偉大な画家(アーティスト)だったと思う。バンドメンバーはそれぞれ違うカラー(色彩)を持つ。バンドの各セクション、トランペット、トロンボーン、サックス、リズム・セクションもそれぞれ違うカラーを持つ。それぞれのカラーををベイシーは巧く使い、ユニークで巨大な絵画=音楽=ベイシー・サウンドを創り出した。

バンドメンバー、聴衆、世の中の人たちの動き、家族、それぞれが何を考えどうやったら、人の心を動かせる演奏ができるかを常に考えていたのだと思う。ろくに学校も出ていない少年は、のちに世界中の人の心も動かせるような極めてユニークで偉大なミュージシャンになった。非常にスマートかつ暖かい人間味に溢れる人だったのが映画を通してよく分かる。同時にアメリカ社会の歴史、文化もよく描写されており、理解が深まった。

75分の作品だが、見終わったあと、2時間以上の、いやもっと長時間の映画を観た気分だった。読者の皆さんは、まもなく刊行される自伝本の『グッド・モーニング・ブルース』(DU Books) を併せてお読みになると、さらにカウント・ベイシーという人と、その(アメリカ社会と文化を含む)バックグラウンドがよくお分かりになるかと思う。

最後に、今回の映画公開に尽力してくださったDIWの坂本涼子さん、他スタッフの方々に、心からお礼を申し上げます。DVD発売が楽しみです。

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

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