#1421『Polyphonia~森定道広によるポリフォニー作品に焦点を当てた新グループ、初公演』
text & photo: Ring Okazaki 岡崎凛
日時: 2026年7月18日(土)開場15:00/開演16:00
会場: Studio T-BONE
大阪市浪速区木津川1-2-6 児島ビル1F
Polyphonia:
Kouta Yunaka(由中小唄/vocal)
Nobuko Tsugami(津上信子/flute)
Akiko Furuyama(古山晶子/clarinet, soprano sax.)
Noriko Hino(樋野展子/soprano sax.)
Rabito Arimoto(有本羅人/trumpet, bass clarinet)
Yuichiro Tamagaki(玉垣有一郎/trombone)
Suomi Morishita(森下周央彌/guitar)
Yoshiki Kato(加藤吉樹/oud)
Yukari Sekiya(関谷友加里/piano)
Takehiro Kinouchi(木内健弘/contrabass)
Michihiro Morisada(森定道広/conductor)

「Polyphonia」は、関西拠点で活動するコントラバス奏者、森定道広が発案し、ジャズや即興などに取り組むミュージシャンを中心に結成された。フライヤーには「ルネサンスからバロック期にかけて書かれたポリフォニー作品を中心に演奏するために結成されたグループ」という説明がある。
今回が初めての「Polyphonia」のコンサートであり、今後も関西での演奏が予定されている。
この日の演奏作品の作曲家は次の5人:
カルロ・ジェズアルド(Carlo Gesualdo/イタリア)
トーマス・モーリー(Thomas Morley/イギリス)
ウィリアム・バード(William Byrd/イギリス)
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach/ドイツ)
ヨーゼフ・アントン・ブルックナー(Joseph Anton Bruckner/オーストリア)

森定氏によれば、もともとはJ.S.バッハの〈マタイ受難曲〉を演奏する目的でグループを結成したのだが、バッハ以前の作品の自由な発想もたいへん興味深く、ルネサンス期の作品も演奏していきたいという考えになったのだという。長調、短調の概念などが完全に定まる以前の西洋音楽の面白さについても言及があった。
音楽歴史の中で、J.S.バッハ(1685年~1750年)以前とそれ以降という区切りの大きさについて特に考えることもなく、ルネサンス期の作曲家について一人も知らなかった自分にとって、今回の公演での森定氏の曲解説は非常に興味深かった。森定氏の雑談を交えた音楽談義をリラックスして聴き、珍しい楽器編成でクラシック音楽に触れるというだけでも貴重だったが、クラシック初心者にとって興味の入り口となる話にあれこれと出会えるコンサートだった。

「お待ちかねのバッハです」という言葉の後に少しトークタイムがあり、くつろいだムードになったところで始まった〈マタイ受難曲〉からのパートは、コントラバスが弾く低い音で始まり、次第に緊迫感が高まっていく。ピアノが激しく何度も打ち鳴らす音が強烈であり、ギターとウードの掛け合いが面白い。続くブルックナーの〈アヴェ・マリア〉は穏やかで神々しい曲。管楽器のアンサンブルが美しい。
とりわけ印象深かったのは、イタリアの作曲家、カルロ・ジェズアルド(1566年頃〜1613年)が妻を殺害したという逸話などがユーモラスに語られた後、ストラヴィンスキーによって彼が注目を浴び、その後どんどん評価が高まっていったという話だった。半音の多用、転調など、当時としては極めて珍しい作曲を行ったジェズアルドの話が終わると、彼の曲が演奏され、血なまぐさい逸話の対極にあるような、穏やかで美しい調べに出会う。続いて〈マタイ受難曲〉より、コラールとアリアを一つずつ演奏。
コンサートの1部が終わって休憩後、2部で演じられたのはグループの即興演奏だった。森定氏の指揮はなく、全員が波打つように即興に入り込んでいった。今演奏したばかりの古い西洋音楽の刺激を吸収して、そこから解き放たれるような音に聴き入った。
数百年の音楽歴史を超えて共有される「古楽の調べ」に取り組むジャズ音楽家たちが日本でも増えてきているのかもしれない。ふだんはジャズ系の音楽を演奏しながら、一方で〈マタイ受難曲〉を演じるという目標に進み、さらにバッハ以前の音楽に取り組む音楽家たちが関西に登場したことに嬉しい驚きを感じている。彼らが民族音楽やクラシックに傾倒し、人脈が広がっていくことに、大きな可能性の広がりを期待したい。欧州にもルネサンス期の音楽に魅せられるジャズ系の音楽家は多いようだ。これが国際的な交流につながれば、いっそう豊かな音楽との出会いが生れることだろう。
最後に、一部のメンバーになるが、この日のコンサートの出演者たちの表情を紹介したい。




