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Concerts/Live ShowsNo. 340

#1422 Ben van Gelder & Reinier Baas (ベン・ヴァン・ゲルダー&レイ二エル・バース) 岡山公演

text & photo at the concert: Ring Okazaki 岡崎 凛

2026年7月29日(水) 岡山市・蔭凉寺(Inryoji-temple in Okayama City)
open 17:00 / start 18:30
「NewYork Contemporary Cool Jazz」/
Ben van Gelder (ベン・ヴァン・ゲルダー): alto sax
Reinier Baas (レイ二エル・バース) : guitar

Ben van Gelder and Reinier Baas
Ben van GelderとReinier Baasはオランダから来日し、7月26日(日) ~8月1日(土) 静岡市、京都市、岡山市、東京都でのツアーを行った。
このうちの岡山市、蔭凉寺(いんりょうじ)のコンサートに行き、リハーサルから見学し、開演前にOffice Zooの川上浩平氏と出演者の2人に短いインタビューを行った。
2人はオランダ出身で米国のジャズシーンとのつながりが深いが、欧州ジャズシーンの最新の部分を掘り下げ、母国の音楽歴史との融合の中で発展させていくような音楽家でもある。今回の公演では、ジョン・コルトレーン曲が演奏されて旧知の馴染み深いサウンドに出会ったと思ったら、その先には全く初めて出会う風景が広がっていた。サックスとギターが描く細かな波紋を追うような体験があった。

二人が奏でる音に、まるで肌に触れるような感触がある。レイニエルのギターが紡ぎ出す音の複雑な変化に魅了され、聴き耳を立てて追わずにいられなくなる。その不思議なギターソロを真横で聴くサックス奏者の表情には、深い共感と信頼が満ちているように思えた。そのギターに応えるサックスの音も、細やかな変化を繰り返し、柔らかな光に満ちては陰りを宿らせる。
彼らのデュオを聴くということは、二人の音楽探求の生々しい現場に立ち会うことであるようだ。リラックスして音楽に浸るひと時もあったが、聴き耳を立て、目の前で生れる音楽の変容を隅々まで体感したいという思いにかられた。

レイニエルとゲルダーや、彼らの共演仲間であるドラマーのジェフ・バラードの曲などのオリジナル曲のほかに、セロニアス・モンクの〈work〉やカルロス・ジョビンの〈How Insensitive〉のように著名な曲が演奏された。耳馴染みのいい曲を聴くのは嬉しかったが、この公演でとりわけ貴重だったのは、2人が描き続ける微細な絵を延々と眺めるような時間だった。その詳細は水の泡のように記憶から抜け落ちていくのだが、それでもなお、その体験が愛おしく思えてくる。このコンサートを、蔭凉寺本堂内の音響環境で聴くことができたのも、とても幸運だった。デュオの奏でる音と落ち着いた色の和室の内装、演奏する二人の表情が一つに溶け合う体験は、忘れられないものになった。

ベン・ヴァン・ゲルダーの2023年のアルバム『Manifold』、レイニエル・バースの2024年作『Relief Party』はどちらも興味深い作品である。2人のライブが始まる前の短いインタビューの機会に、2つのアルバムの両方に参加するピアニスト、Kit Downes (キット・ダウンズ) について彼らに話した。彼らが2人ともキット・ダウンズと共演していることは、それだけで世界のジャズシーンの最先端を行く存在だと判断できる、というのが自分の考えである。もちろんこれらのアルバムには、キット・ダウンズが共演者であるということ以外に、興味深い点がたくさんある。できることなら、ベンとレイニエルの二人にそれぞれの近作アルバムに関して詳しく語ってもらいたかったが、自分の英語力ではコンサートの開演直前にそこまでの話を進められなかった。2人のアルバムとその共演者への賛辞を告げる程度で話を切り上げた。
(リハーサル時の写真にベン・ヴァン・ゲルダーの姿がないのは、撮影時に彼がステージ横の襖の奥でサックスを吹いていたためで、その姿をカメラに収められなかった)

この夜に聴いたのは、上記のアルバムのように多数の出演者が加わるものではなく、2人だけのコンサートだ。しかしこのデュオは、彼らのイマジネーションの源泉となっているのではないかと思った。2人が出会ったのは、あるインタビューの情報によれば2009年頃で、デュオ活動の始まる数年前に遡る。米国でのプロデビューの早かったゲルダーと、彼より4歳年上のレイニエルは、かなり若いころに米国で知り合い、これまでデュオライブを200~300回くらいこなし、数えきれないという。二人の関係は、ただ相性がいいという言葉では収まり切らないだろう。互いにインスピレーションを与え、それぞれの音楽活動の糧とする関係ではないかと想像している。


コンサート会場の物販用テーブルに並んでいた2024年リリースのアルバム『This Is Water』のCDとLPはバンドキャンプでも試聴、購入ができるようだ。1曲目のタイトル曲は、今回のデュオ・コンサートの重要テーマを体現したような作品である。

『This Is Water』はYouTubeでも聴くことができる。(2026年8月現在)

https://youtu.be/E9kOJL5ck9I?si=B1n6rzy6H695njF_

コンサートの前の出演者の二人へのインタビューで、彼らの母国のジャズ歴史について触れると、オランダが誇る1942年生まれのレジェンド・ドラマー、Han Bennink(ハン・ベニンク)について話が及んだ。「オランダのミュージシャンは、即興とユーモアを大切にするんだ」とゲルダーは語った。「オランダのジャズ歴史はハン・ベニンクとともに始まったと言ってもいい」という彼の言葉を聞くと、あらためてこのレジェンドの過去作品をもっと聴いておきたいという気持ちが湧いた。
2人のアルバム『This Is Water』には、彼の参加曲が収められている。また3人の共演する最近の動画では、Han Benninkがカホンとシンバルを叩く姿が収められ、シンプルだがエッジの効いた演奏で若い二人を盛り立てている。

主催者のコンサート情報より出演者紹介:
Ben van Gelder ベン・ヴァン・ゲルダー:alto sax 
オランダ出身のアルトサックス奏者。
17歳でニューヨークに移り住み、10年間にわたり世界で最も進歩的なアーティストたちとコラボレーションし研鑽を積む。彼は先進的な考えを持つ仲間たち(サム・ハリス、クレイグ・ウェインリブ、リック・ロサト、ピーター・シュラム)とクインテットを結成し自身の名義で3枚のアルバムをレコーディングしてヨーロッパ、日本、そしてアメリカで精力的にツアーを行う。
特に日本ツァーにはマーク・ターナーをゲストに迎えて来日し演奏は各地で好評を博した。
ニューヨーク滞在中は芸術的卓越性を育み才能の跳躍台として知られる「ジャズ・ギャラリー」と強い絆を築き公演を通して様々なグループやレパートリーを試み、デイヴィッド・ビニー、マーク・ターナー、アンブローズ・アキンムシーレ、ベン・ストリートなど多くの現代ジャズの精鋭たちと演奏やレコーディングを行ってきた。
また、彼はジャズ・ギャラリーから作曲の委嘱を受け、抽象画家フランティシェク・クプカの絵画にインスピレーションを得た作品『Among Verticals』をレコーディングし発表する。この作品は世界中のメディアで称費を浴びる。
楽曲は、グラミー賞を受賞したメトロポール管弦楽団、スイス・ジャズ・オーケストラ、コンセルトヘボウ・ジャズ・オーケストラなど、いくつかの大規模なアンサンブルによって編曲および演奏される。
デロイト・ジャズ・アワード、全米芸術振興基金ゴールドアワード、そして兄ギデオンとのデュオでプリンセス・クリスティーナ・コンクールなど、数々の賞を受賞してる。最近では、アムステルダムのBIMHUISから初の作曲依頼を受ける。
オランダに戻ってからは自身のカルテットを率いるほか、ギタリストのライナー・バースと頻繁に共演しており、メトロポール・オーケストラとのライブ録音によるアルバム『SMASH HITS』と『Mokum in Hi-Fi』をリリースしている。
現在はオランダで作曲や演奏活動の他に教育にも熱心で、アムステルダム音楽院の教授を務めている。
アルトサックスの権威として国際的に認められ、その独特なサウンド、叙情性、そして作曲への独自のアプローチは、同業者や批評家から高く評価されいる。
彼の音楽はジャズの伝統に深く根ざしながらも、他の多くの音楽ジャンルや領域を包含しており特に視覚芸術は彼の音楽活動において重要な役割を果たし、しばしば作曲の枠組みとして用いられている。

Reinier Baas: レイニエル・バース:guitar
1985年オランダ生まれのギタリスト/作曲家。
2010年にアムステルダム音楽院を最優秀の成績で卒業。
2013年の『Mosty Improvized Indie Music』と2016年作「Reinier Baas vs. Princess Discombobulatrix』の2作はともに名誉あるエジソン賞(オランダで最も権威のある音楽賞)を受賞している。
“彼の音楽は「予測不可能でありながら、全体的な形式に安心感がある」という特徴を持っている”とニューヨーク・シティ・ジャズ・レコード誌の解説には記されている。彼の音楽は特別な方法で構成されている。不可解なハーモニーはバルトークやストラヴィンスキーを彷彿とさせるが、構造が崩れヒップホップのリズムが突如として力強く響きそして全てが激しい流れと即興のカコフォニーへと変化した後、音楽は厳粛で整然とした形式へと戻る。
現在、バースはハモンド・トリオ「DEADEYE」と、ベンジャミン・ハーマン率いるパンク/ジャズ・グループ「BUGHOUSE」のメンバーとして活動している。相棒のベン・ヴァン・ゲルダーとはデュオで定期的に活動しており、伝説のドラマー、ハン・ベニンクやジェフ・バラードをゲストに迎えることもある。作曲家としては、ピュナレロ交響楽団、メトロポール管弦楽団、西ドイツ放送交響楽団ビッグパンドのために作品を書いた他、ノースシー・ジャズ・フェスティバル、ロイヤル・コンセルトヘボウ、ビムハウス、南チロル・ジャズ・フェスティバル、ノヴェンバー・ミュージックのための委嘱作品も書いている。またソリストとして、「メトロポール管弦楽団」「国立ユース管弦楽団」「国立ユース・ジャズ・オーケストラ」「コンセルトヘボウ・ジャズ・オーケストラ」「WDR ビッグ・パンド」「CVAコンサート・ビッグ・バンド」「ニュー・ロッテルダム・ジャズ・オーケストラ」などと共演している。
バースは、ルイス・コール、デイヴィッド・ビニー、フエンサンタ、コリー・スマイス、マルタ・ワレリス、ハンス・ティーウェン、ラモン・ヴァッ、ノラ・フィッシャー、ジェシー・ファン・ルラー、メアリー・ハルバーソン、グレゴリー・ポーターなど、多くの著名なミュージシャンと共演しいる。
演奏や作曲の他に教育者としても高い評価を得ており、アムステルダム音楽院とバーゼル・ジャズキャンパスで教鞭を執っている他にオランダ・ユース・ジャズ・オーケストラ(NJJO)の2025/26年度生の芸術監兼指揮者も務めている。


以下は今回のコンサートのフライヤー。この岡山公演の開催に尽力していた平井康嗣氏、Office Zooの川上浩平氏、蔭凉寺住職の篠原真祐氏に、今回の取材で非常にお世話になったことを、最後に記しておきたい。

Okayama flyer for Ben van Gelder & Reinier Baas

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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