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Concerts/Live ShowsNo. 231

#958 芳垣安洋8days -day3 芳垣安洋(ds) 細海魚(key) 伊賀航(b) 吉田隆一(bs)

芳垣安洋8days【day3 芳垣安洋(ds) 細海魚(key) 伊賀航(b) 吉田隆一(bs)】
2017年6月7日(水)荻窪ベルベットサン

Reported by 安藤誠 Makoto Ando

芳垣安洋 – ds
細海魚 – key
伊賀航 – b
吉田隆一 – bs

ROVOやOrquesta Libre、最近では大友良英・不破大輔とのショローCLUBといったプロジェクトで精力的に活動している芳垣安洋dsが、6月に荻窪ベルベットサンと新宿ピットインで8daysを敢行。その3日目となったこの日は、細野晴臣や星野源をはじめオルタナポップ勢との共演も多い伊賀航b、Blacksheep主宰の吉田隆一bs、細海魚org,pとのカルテット(ちなみにライブ当日現在のグループ名は「仮称チェッカーズ」とのこと)。本稿では、数多くのロック&ポップ系ミュージシャンとのセッションを始め、エクスペリメンタル/アンビエントのシーンでもその名を知られる異能のキーボード奏者、細海魚にフォーカスして当日のレポートをお届けする。

最近ではおおはた雄一のサポートなどを通じて、芳垣との共演の機会を増やしている細海だが、その活動領域は多岐にわたる。2014年からメンバーとして在籍するb-flower〜Livingstone Daisyに於いては、無駄を削ぎ落とした音作りでグループ全体の世界観を支え、山口洋率いるHEATWAVEでは、時にアコーディオンも駆使したドライヴ感溢れるプレイでバンドサウンドの重要な一翼を担うだけでなく、アレンジ等も担当(ちなみに芳垣も参加したNO NUKES JAZZ ORCHESTRAは山口作による名作「満月の夕」を取り上げている)。この他にも数々の硬派なアーティストからの絶大な信頼を得て、90年代以降のロックシーンにおける名バイプレイヤーとして存在感を発揮してきた。

その一方、豪EXTREMEから繭(Maju)、独Mille Plateauxからはneina名義でのアンビエント作品をリリース。ラップトップから生成されるノイズの断片や、フィールドレコーディングされた自然音を組み合わせたサウンドは、深海や外宇宙といった異世界を想起させながらも、どこか人肌の温もりを感じさせる彼独特のものだ。また、山口との共作「Speechless」「Eagle Talk」といった作品では、こうした音響実験と、シンガーやポエトリー・リーディングが吐露する情動を一体化して表現。細海魚名義での最新作「とこしえ」では、アコースティックギターを軸としたオーガニックなサウンドに回帰するなど、キーボーディストの枠にとらわれない音づくりを探求している。

さて、各ジャンルの猛者が揃った当日のライブ。事前の予想では、吉田のバリトンを前面に押し立てたジャズ・ファンク的な展開、あるいはその真逆の、メンバー全員が渾然一体となったアブストラクトな即興演奏を勝手に思い描いていたのだが、そうした見立てはいい意味で裏切られた。エリントンやマイルスのナンバーを素材として、芳垣・伊賀が生み出す精緻かつ緩急自在なグルーヴに重ね合わせるように、細海が1曲毎にハモンドとウーリッツァーでアンサンブルの前景を描いていく。その筆致は時に凶暴なまでに荒々しく、時に細密画のように精緻。重低音で空間を切り裂く吉田のサックスとの絡み合いもまた実にスリリングだ。

アップテンポな曲では身体と頭を激しくを揺さぶりながらハモンドを弾き倒す細海だが、白眉は多種多様なアナログエフェクトを操りながら、独自のノートを紡ぎ出していくウーリッツァーでのプレイ。歪みきる一歩手前でコントロールされたその音色は、この楽器のポテンシャルを極限まで引き出すかのような、まさに彼の独壇場といった演奏である(上記「Speechless」やHEATWAVEのライブ盤「land of music “the Rising”」では、この日のライブとほぼ同様のセッテイングによるスペイシーかつ多層的なサウンドが存分に堪能できる)。

疾風怒濤のファンクネスと静寂を行き来する2時間余りを締めくくったのは、ジミ・ヘンドリクス「ヘイ・ジョー」のガヴァ−。演奏後もまだまだ余力を残した風情でもあったこの4人の手練れたちが、もっと存分に暴れ尽くしたらどうなるのだろう。そんな今後の期待を抱かずにはいられない一夜だった。

安藤誠

あんどう・まこと 街を回遊しながらダンスと音楽の即興セッションを楽しむイベント『LAND FES』ディレクター。

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