#1027 ジョー・フォンダ×永田利樹
2018年9月4日(火) 渋谷 メアリージェーン
Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
Joe Fonda (b, vo)
Toshiki Nagata 永田利樹 (b)
Natsuki Tamura 田村夏樹 (tp)
Sachi Hayasaka 早坂紗知 (ss, as)
1. 永田 ソロ
2. フォンダ ソロ
3. 永田・フォンダ デュオ
4. 永田・田村 デュオ
5. フォンダ・早坂 デュオ~田村・永田が加わる
ジョー・フォンダの初来日が実現した。リーダー作の他に、アンソニー・ブラクストンとの共演作も多く作ってきたベーシストである。今回のツアーは藤井郷子との共演が中心だが、この日は、同じベーシストの永田利樹と組むという変わった趣向となった。また、ゲストとして、田村夏樹(トランペット)の他に、予告にはなかった早坂紗知(サックス)が加わった。台風にも関わらず、多くの観客が集まった。
ふたりのベーシストの個性の違いは、想定を超えるほど高いコントラストとなってあらわれた。一番手の永田利樹は、極めて固く重いソロを弾いた。弦に大きな運動エネルギーを与えて振動させているさなかに野蛮にも弓を衝突させ、さらに重いパルスを創出した。続くジョー・フォンダのベースソロは、どちらかと言えば柔らかく、豊かな音価を持っており、「歌」に魅せられるものだった。片や重力との闘い、片や中空の飛翔である。
そのフォンダは、オーネット・コールマンの「Turnaround」をはじめと終わりに引用した。演奏前に店内にチャールス・ミンガスが流れており、同席していた藤井郷子が、(かつて師事した)ポール・ブレイの初リーダー作はミンガスとの共演だということを口にした。ブレイは「Turnaround」の印象深い録音を残している。それゆえフォンダがインスピレーションを得たのかと勘ぐったのではあったが、演奏後に訊くと、明にブレイを意識してのことではなかったようだ。しかし、間接的であれ、個人史の蓄積は演奏に表出してくるものだ。
永田・フォンダのベースデュオとなった。ふたりは対照的な個性を提示しながら、明らかに愉しんでいた。弓弾き、指弾きとお互いに呼応して形を変更し続け、それは文字通りの対話にみえた。フォンダは、「All the Things You Are」も引用しながら、弦を押さえ、もう片方の手でその近くを弾くことで、高音の跳躍する音を披露した。
ここでフォンダがいったん退き、田村夏樹が永田と対峙する。田村は非常に微妙にピッチを変えながら、達人ならではの深く突き刺すような音をしばらく放ち、やがて、グロウルして歌うかのような感覚で、サウンドを外に開いた。このような衒いのない幅広さが田村の魅力に違いない。永田もそれに応じた。
最後に、サプライズゲストの早坂紗知とフォンダとのデュオが始まった。驚いたことに、フォンダはフルートを吹いた。その音の貌もフォンダ自身のベースと似ているのだから、不思議なものである。彼はフルートを縦笛のようにも使った。一方の早坂は、内奥から沸いて出てくる活力と艶やかさを振りまき、ソプラノとアルトを吹いた。また、その同時2本吹きにより、さらにサウンドが力とユーモアを持った。
ここで、観客席の背後の暗闇から田村の艶っぽいトランペットが参入する。予期せぬことだったこともあり、なんて良い音なのだろうと思わせる。続いて永田も加わり、カルテットとなった。
フォンダは、つい先ごろ亡くなったピアノの巨匠ランディ・ウェストンに捧げる即興歌を歌った。
6 feet 9 /
Randy Weston has gone /
We will miss you…
演奏後、フォンダは、愛情と哀惜の念を隠すことなく筆者に語った。―――ウェストンは尊敬すべき人として仰ぎ見るだけでなく文字通り大きな人だった。6フィート9?(※2メートルくらい)いや本当の身長は知らないし、7フィート以上あったのかもな。共演することは叶わなかったよ、と。
4人の自由人により発せられた位相の異なる音が重なり、干渉し、動かしあうバイブレーションのような音楽だった。
(文中敬称略)