#1068 3/5 すみだ平和記念祭2019 マックス・リヒター・プロジェクト クリスチャン・ヤルヴィ サウンド・エクスペリエンス 2019《メモリー・ハウス》

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2019年3月5日(火)@すみだトリフォニーホール

Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代
Photos by Koichi Miura 三浦興一

<プログラム>
リヒャルト・シュトラウス:交響詩《ツァラストラはかく語りき》op.30
マックス・リヒター:メモリー・ハウス(2002 / 2014) *日本初演
 1.1908年のプレリュード [弦楽合奏]  2.ヨーロッパ、雨の後 [チェロ、ピアノ]  3.詩人マリア(1913年) [弦楽合奏]  4.ライカの旅 [エレクトロニクス]  5.双子(プラハ) [ピアノ連弾]  6.サラエボ [ソプラノ、管弦楽]  7.アンドラーシュ [ピアノ]  8.無題(フィギュア) [ヴァイオリン、チェロ、チェレスタ、エレクトロニクス]  9.スケッチブック [弦楽四重奏]  10.ノヴェンバー [ヴァイオリン、弦楽合奏]  11.ヤンのノートブック [チェンバロ]  12.アルべニータ(11歳) [ソプラノ、管弦楽]  13.庭(1973年)/室内 [チェロ、チェンバロ、エレクトロニクス]  14.人物のいる風景(1922年) [管弦楽]  15.フラグメント [無伴奏ヴァイオリン]  16.ベルリン日誌 [ソプラノ、オルガン、弦楽四重奏]  17.エンバース [ヴァイオリン、チェロ、ピアノ]  18.最後の日々 [管弦楽]

<出演>
マックス・リヒター(Max Richter):作曲/ピアノ/エレクトロニクス
クリスチャン・ヤルヴィ(Kristjan Jaervi):指揮
マリ・サムエルセン(Mari Samuelsen):ヴァイオリン
グレイス・デヴィッドソン(Grace Davidson):ソプラノ
新日本フィルハーモニー交響楽団(New Japan Philharmonic)


日本では2017年以来となるクリスチャン・ヤルヴィ『サウンド・エクスペリエンス』。今回は『すみだ平和記念祭』企画にも組み込まれた、15年ぶりに来日するマックス・リヒター・プロジェクトの一部も兼ねることとなり、さらにスケール感を増した。マックス・リヒターを一躍有名にした『メモリー・ハウス』の日本初演でもある。ヤルヴィが目指すのはクラシック音楽体験の解放であり、スノッブに偏った価値観の転換である。「それは宇宙飛行士のように一旦外へ出ないと見えないもの」とは本人の弁。リヒターの『メモリー・ハウス』も20世紀を政治・音楽・文化・個人史の総体として現代という視点からサーヴェイするもの(1999年から2000年という作曲時期にも注目されたい)—鍵は「俯瞰」である。

哲学的な思索の反映である『ツァラストラ』にはそもそも完成などあるはずもないのだ、というのがヤルヴィの見解。よって『2001年世界の旅』のテーマとしてあまりにも有名になってしまったこの曲は、彼にとっては絶好の解体素材でもある。いかようにも新しい解釈を示唆でき、聴衆に違和感をもたせることができるのだ。パウゼを置く箇所も意表をつく。そこから今まで見えていなかったパースペクティヴが拓け、楽曲の枝葉が新鮮な騒めきをみせる。切り口を替え、これでもかと可能性を提示する(押しつけではない)。パイプオルガンや金管も洗練された響きを聴かせ、轟音で圧するよりも想像力の余地を一寸残してくれる。

休憩を挟み、いよいよマックス・リヒターの登場である。チェレスタ、ピアノ、モーグが並び、リヒター自身がこれらを担当しながら壮大な時空間を現出させる。雨音の効果音が冒頭から効果的に挿入され、ロシアの詩人マリア・ツヴェターエワ(第3曲)や、前衛音楽の代名詞ともいえるジョン・ケージ(第8曲)の録音肉声など、ポスト・クラシックならではのサンプリング的手法がちりばめられる。ミニマリスティックな音型は記憶領域への内攻を後押し、レリーフのように顔を出す主題は点在するさまざまな時空を「いま」へ手繰りよせる導線の役割を果たす。入念な楽曲構造と拮抗するように、ヴァイオリン・ソロをはじめ、アコースティック・パートにも超絶技巧を要する箇所が多い。それらを全く嫌味なくナチュラルな調和へと持ちこむところに各ソリストの力量が滲む。全18曲を通してあらゆる人知を総動員。表現手段の差異を横軸に共存させ、その変遷の在り様をシャッフルして組み込み、顕在化させることで目にみえない壮大な何か挑むかような高揚感を与えてくれる。その目にみえない何かこそ、音楽の未来であり平和であるのだろう。所要時間約80分はなるほど長いが、金管が加勢し、エレクトロニクスで低音が増幅された終曲は凄まじい起爆力。驚きのなかにも、新たな地平が更新されていることを確信するのである。(*文中敬称略)


©K.Miura

<関連リンク>
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-22016/

伏谷佳代

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。幼少時よりクラシック音楽に親しみ、欧州滞在時 (ポルトガル・ドイツ・イタリア) に各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評、演奏会プログラムの執筆、翻訳などを手がける。

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