#1078 宅Shoomy朱美×北田学×鈴木ちほ
2019年5月6日(月) 台東区・なってるハウス
Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
Akemi Shoomy Taku 宅Shoomy朱美 (p, vocal, voice)
Manabu Kitada 北田学 (cl, bcl)
Chiho Suzuki 鈴木ちほ (bandoneon)
1. – 2. 即興
3. Coração Vagabundo (Caetano Veloso)
4. – 5. 即興
6. So in Love (Cole Porter)
7. まわる まわる 目がまわる (宅Shoomy朱美)
宅シューミー朱美とバンドネオンの鈴木ちほとは何度も共演しており、また、クラリネット・バスクラリネットの北田学と鈴木とのコラボレーションも多い。だが、シューミーと北田との顔合わせは、去る2月に、阿佐ヶ谷のYellow Visionにおいてこのトリオでの演奏で実現したばかり。結節点は鈴木である。
それもあってか、この日の共演は互いの手探りからはじまった。シューミーがピアノの内部に手を伸ばし、北田がバスクラに静かに息を吹き込み、鈴木は蛇腹で息をする。間合いを縮める瞬間はほどなくして急に到来した。北田のブロウを合図にして一気に三者が噛み合った。北田は音価を長くしてうねり、鈴木はそれに呼応して連続的に音を変えることでサウンドの空気を醸成し、そしてシューミーは強いタッチでリズムを創出した。
有機的な結合を互いに見出すと、ここからの展開は多様となる。北田は刺すようなクラリネットで潮目を変えることも試みる。シューミーは音を散らし、リズムを自在に出し入れする。共有するサウンドに三者三様に働きかけ、それが刺激剤となったり、相互の連携となったり、また全体の向きを変えさせたりもする。
2曲目は鈴木の創る和音と蛇腹の深呼吸からはじまった。先とは違い、異なる二者間のシンクロが次々にできてゆく面白さがある。シューミーのスキャットと高いヴォイスのような北田のクラとが、また、空気に色付けする鈴木のバンドネオンとが。その鈴木はやがて蝶のように周囲を飛びまわり、シューミーのピアノは空気に亀裂を入れんとした。
即興から曲へ。ブラジルのカエターノ・ヴェローゾによる「Coração Vagabundo(移り気な心)」では、諦念も混じったようなヴォイスで、シューミーが哀しみを展開した。たとえば、十数年前のシューミーバンドによるアルバム『Requiem』(地底レコード、2006年)でも聴くことができるやさぐれ感と暖かみとが、いまではさらに熟成されている。北田がかすれたクラでその世界に入った。
セカンドセットは、三者とも滞留よりも前への駆動を選んだ。ボディランゲージのような北田のバスクラがシューミーのヴォイスと絡み合う。それもあってか、次はシューミーと北田とのデュオとなった。バスクラの発する重音に呼応してか、シューミーはピアノとヴォイスとで複雑な多層を提示した。踊るふたり、どちらがどちらに追走しているとも言えないコラボレーションでありみごとだ。続いての鈴木とシューミーとのデュオでは、ものがたるヴォイスと両手での内部奏法に対して、鈴木が和音を交えて聴き惚れる旋律を展開した。
そしてスタンダード「So in Love」。シューミーとギターの加藤崇之との「夢Duo」による『蝉時雨 / Chorus of Cicadas』(Wildcat House、2018年)における演奏がそうであったように、これは何なのだろうと驚いてしまう底無しの抒情がある。普通の弾き語りとは異なる。絶えず重ねてゆく和音での強度をもったピアノを先行させ、そこに深いヴォイスを別文脈であるかのように追従させることによる独特さか。ピアノの残響にバンドネオンの濁りが重なった。また、バスクラが説得力を持って意思に形を与えた。やはり加藤とのデュオ『夢』(アケタズディスク、1991年)ではシューミーはピアノを弾いておらず、そこからの四半世紀で表現の独自性が大きく増したことがわかる。
最後は「まわる まわる 目がまわる」で締めくくられたのだが、このユーモアが次の機会に向けて緊張を解放させるように思えた。
このような邂逅は、ライヴハウスにおける即興シーンでは頻繁に行われている。しかし、無作為の組み合わせゲームではない。そこにはひとつひとつが結わえられてきた縁を見出すことができる。開かれた可能性がその都度立ち現れるのを目撃することもできる。誰にも似ていないこの三者のように、傑出した即興演奏家であればなおのことだ。
この日の共演の結果か、埼玉県の山猫軒におけるシューミー、鈴木とベースの西嶋徹とのセッション(2019/6/1)に、北田が加わることとなった。最近は鈴木がシューミーのヴォイストレーニングを受けている。北田もティム・バーンをはじめ多くの異色の音楽家との共演を積み重ねている。次の縁がどのようなかたちに成長してゆくのか、楽しみでならない。
(文中敬称略)