#1091 フローリアン・ヴァルター Japan Tour 2019

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Text & Photos by 剛田武  Takeshi Goda

2019年7月15日(月)東京・高円寺4th ”brilliant sea”
Florian Walter × 山崎正明/Tintin Patrone/阿保船/Yasu/Whipp!!

2019年7月24日(水)東京・千駄木Bar Isshee ”TUBES & WIRES”
Florian Walter×沖縄電子少女彩/UH(内田静男×橋本孝之)/森田潤

今年の5月終わりにフローリアン・ヴァルターからメッセージがきた。「7月に日本ツアーを予定しているので、共演ミュージシャンや会場についてアドバイスが欲しい」とのこと。本誌コントリビューターの齊藤聡氏や過去2回の来日で知り合ったミュージシャン達にも同じ連絡をしていた。彼らの尽力の結果、後述するように筆者が提案したイベントを含めほぼオフ日なしの12公演がブッキングされた。ヴァルターによれば本誌の記事が役に立ち、スムーズにブッキングが出来たとのこと。まだ余り知られていない有望な若手ミュージシャンを日本に紹介する活動もJazzTokyoの目的のひとつ。フローリアン・ヴァルターの日本での活動に微力ながら貢献できていることは、いちコントリビューターの筆者にとっても嬉しい限りである。今回の来日ツアーで筆者が観覧したふたつのコンサートのレポートをお届けしよう。

2019年7月15日(月)東京・高円寺4th
“brilliant sea”
開場 17:30 開演 18:00

Florian Walter x 山崎正明
Tintin Patrone
阿保船
Yasu
Whipp!!

フローリアン・ヴァルターの3回目の日本ツアーの初日。二年前2017年11月の初来日時も出演した高円寺4thは、ジャンルやスタイルに拘らずユニークな音楽家が集う地下音楽の拠点のひとつ。この日は同じドイツ出身のティンティン・パトローンも出演し、ダブル来日アーティストの興味深いイベントになった。所用で会場に到着するのが遅れ、残念ながらYasuとWhipp!!のライヴは見逃した。

●Tintin Patrone

松戸でレジデンス滞在中のドイツ・ハンブルグ出身の作曲家/音楽家/パフォーマー。トロンボーンを音源にしたアンビエント演奏。深い低音のロングトーンをループしエフェクターで変化させ、重層的なマルチフォニックサウンドを創出する。体温の低いストイックな演奏は、会場の効き過ぎの冷房と相俟ってクールな感触だが、エフェクターのツマミを弄る裸足の指が可愛らしかった。フローリアンの話では彼女のパフォーマンスはインスタレーション中心で、毎回異っているとのこと。別のスタイルのライヴも観てみたいものだ。

 

●阿呆船

鈴木峻(vo,g,ts)と栗原優(ds)のデュオ・阿呆船(Foolish Ship)を観るのは2013年1月以来6年半ぶり。2000年前後の東京アンダーグラウンド・シーンを牽引した伝説のバンドが今も活動中であることが素晴らしい。コードもメロディも無視して掻き鳴らされるギターとフリークトーンだらけのテナーサックス、リズムキープ不要の凛とした打音の響きで音楽を導くドラム、混沌の中にメランコリックな叙情をたたえたヴォーカル。乱調の美学を体現する彼らこそ、地下音楽最高のメロディメーカーと呼ばれるべきだろう。

 

●Florian Walter(as) x 山崎正明(g)

山崎正明は東京で活動する即興ギタリスト。フローリアンとは昨年の日本ツアーで共演している。エフェクターをふたつ繋いだだけのシンプルなセッティングだが、ヴォリューム調整とディレイを効果的に使ったドローンプレイは、即興演奏にありがちな無味乾燥なノン・イディオマティック物音ではなく、温かい血が流れたエモーショナルなサウンドである。ヴァルターはブレスノイズや高速タンギングを使い、超ハイスピード・フレーズを連発しつつも、トリッキーなプレイは控えめに、ギターとのコンビネーションを心得た演奏。山崎が先ほどのティンティンの演奏を許可を得て録音したカセットレコーダーを再生しながらギターの弦に擦り付けるプレイを見せる。初来日時にヴァルターがマイクロカセットレコーダーで自分の演奏を録音しひとり二重奏を試みていたことを思い出すが、山崎はそれを意識したのかどうか?

物販で初来日時に売り切れた2012年の7インチシングルとジャズトリオSuper Jazz Sandwichの最新アルバムを購入。クリス・ピッツィオコスとのデュオ音源7インチシングルが完成したが、現物の到着が出発日より1日遅れたために日本へ持って来れなかったのが残念。

 

2019年7月24日(水)東京・千駄木Bar Isshee
“TUBES & WIRES”
開場 19:30 / 開演 20:00

Florian Walter (sax)+ 沖縄電子少女彩 (electronics)
UH(内田静男(b) + 橋本孝之 (sax))
森田潤(synth)

来日を知らせるフローリアン・ヴァルターからのメッセージに「今回は特に伝統音楽とエレクトロニクスとのコラボレーションをしたい」と書かれていた。伝統音楽の方は齊藤聡氏のレポートを参照いただきたいが、エレクトロニクスと聞いてまっさきに頭に浮かんだのは、18歳のアヴァンギャルドアイドル沖縄電子少女彩(さや)だった。ドラびでおこと一楽儀光主催の「GIGANOISE」で女子校の制服姿で激烈なノイズを演奏するのを観て衝撃を受けて以来、同イベントや姉妹イベントのGIGAIDOL、その他アイドルイベントで何度か観て、メキメキとアーティストとしての資質が向上して行くのを感じると共に、ドラびでおをはじめT.美川、ASTRO、森田潤といった地下音楽家との交流を深め、8月11日の生誕イベントに灰野敬二が出演するなど、地下アイドルと地下音楽の接点となる彼女こそ、昨年12月の来日時に筆者の勧めに従って地下アイドルのライヴを観て感銘を受けたというフローリアン・ヴァルターにうってつけのコラボレーターに違いない。共演は2017年最初の来日ツアー以来毎回コラボしている橋本孝之と内田静男のデュオUH(ユー)とヴァルターとは初共演のモジュラーシンセのベテラン森田潤。

ヴァルターのアイデアでイベントタイトルは『TUBES & WIRES(管と配線)』に決定。管楽器(サックス)2名、弦楽器(ベース)と配線コードが絡まる電子楽器2名によるライヴにこれほど相応しいタイトルもあるまい。告知フライヤーはヴァルターが自分のサックスと手持ちのコードを使って撮影した写真を内田静男がデザインした独日コラボ作。ヴァルターのリクエストに応えるとともに、筆者の地下音楽と地下アイドルの融合の夢を叶えつつ、ありきたりなコラボに飽き足らない好事家の欲求不満を解消させるラインナップになったと自負している。

●森田潤

配線だらけのモジュラーシンセはまさにWIRESそのもの。最近弾いているというエレクトリック・ヴァイオリンを使いつつ、様々な具体音が断続してビートを産み出す電子音の饗宴は、ミュージックコンクレートとヒップホップが融合されたバイオニック・エレクトロニクス。ヴェルターは音量の大きさに驚喜しつつ「ドイツでは違法だ」と語った。ヨーロッパではライヴハウスの音量規制が厳しくて日本のような大音量のノイズ演奏が不可能とのこと。90年代欧米を驚かせたジャパノイズの秘密のひとつは大音量だと言われているが、それは現在でも変わらない。

 

●UH=内田静男(b)+橋本孝之(sax,hca)

UH(ユー)は6月1日に同じBar Issheeでマルティン・エスカランテ日本ツアーで観た。実はその時にBar Issheeと内田・橋本にフローリアン・ヴァルターの公演の打診をしたのだった。6月の演奏は従来の音数の少ない静謐なアンビエント色だけでなく、躍動感のある動的なプレイで魅せてくれた。この日のパフォーマンスはさらに加速したハードコアなインタープレイを展開し、ダイナミックなエネルギーを放出するスタイルで魅せた。特に内田のアグレッシヴに唸るベースラインには、実はパンクロック好きだと言う彼の資質が表れていた気がする。

 

●Florian Walter+沖縄電子少女彩

彩はサックス奏者とは初共演だというが、全く物怖じしないどころか、楽しみ!と目を輝かせる。決してアイドルに限った話ではないが、こうしたポジティヴ志向が新たな表現の喜びを産むことは間違いない。ヴァルターのブレス音に彩のホワイトノイズが絡むスタートから、サックスが循環呼吸の激しいパッセージに移行。彩はヴァルターの方を凝視しながら電子音を重ねて行き、時折マイクを掴んでシャウトを聴かせる。即興演奏の間に彩の楽曲「Jin Jin」と「ぼくらは星砂」を挿む。歌のバックでパーカッシヴなタンギングやアブストラクトなアルペジオを駆使して、別次元の音響空間を産み出すヴァルターの多才さに驚愕。受けて立つ彩の堂々たる風格。単なるアイドル+ノイズ+インプロではなく、ふたりがイーブンな関係で1+1=∞(無限大)の音楽をクリエイトする魔術を堪能した。

 

●全員 All Members Session

最後に五人全員のセッション。ヴァルターと橋本が対峙して、交互にフレーズ/叫びを重ねて横軸を描き、内田のベースが基盤を支え、彩と森田の電子音が無数の縦軸を描く。立体的な音空間で五者のバランスが拮抗し、サックス二人の呼吸の変化が場面転換に反映され、命を吹き込まれた音楽の風が聴き手の心にさざ波を起こす。得てして我が先の音量・音数バトルになりがちな1回限りの集団即興だが、この五者のセッションは有機的な集合体(バンド)の誕生に他ならない。終演後の5人の笑顔が音楽の喜びを証明している。機会があったら再演を望みたい。

13日間で12公演という超過密スケジュールをこなしたヴァルターは、ドイツ帰国後、自己のトリオSuper Jazz Sandwichの公演やベルリンの日本人ピアニストRieko Okudaとの共演ライヴ、NYの前衛デュオTalibam!とのコラボなど様々な予定が入っている。来年も日本ツアーをやりたいが、どのような形のツアーになるかはじっくり考えたいとのこと。個人的には彼のグループを日本で観てみたいものである。(2019年7月31日記)

 

 

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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