#1105 ノースシー・ジャズ・フェスティヴァル2019〜メトロポール・オーケストラ 挾間美帆、リズ・ライト、べッカ・スティーヴンズ、カミラ・メサ

閲覧回数 1,070 回

ノースシー・ジャズ・フェスティヴァル 2019
メトロポール・オーケストラ〜挾間美帆、リズ・ライト、べッカ・スティーヴンズ、カミラ・メサ
North Sea Jazz Festival 2019
Metropole Orkest with Lizz Wright, Becca Stevens & Camila Meza. Conducted by Miho Hazama

2019.7.13 17:00-18:15 Amazon
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Hideo Kanno 神野秀雄 and Naomi Kitano 北野直弓(Cover photo)

1. Elegant People (Wayne Shorter / Arr. Vince Mendoza)
2. Trace (Camila Meza / Arr. Kevin Halpom)
3. Old Man (Neil Young / Arr. Bob Zimmerman)
4. Queen Mab (Becca Stevens / Arr. Tom Trapp)
5. Milagre Dos Peixes (Milton Nascimento / Arr. Carine Bonnefoy)
6. Grace (Cousins-Ereil / Arr. Vince Mendoza)
7. Regina (Becca Stevens / Arr. Miho Hazama)
8. Ohla Maria (Antonio Carlos Jobim, Chico Buarque, Vinicius De Moraes / Arr. Noam Wiesenberg)
9. Somewhere Down the Mystic (Lizz Wright / Arr. Vince Mendoza)
10. Venus (Becca Stevens / Arr. Vince Mendoza)
11. Kallfu (Camila Meza / Arr. Noam Wiesenberg)
12. Freedom (Toshi Reagon / Arr. Damiano Pascarelli)
13. Mercury (Becca Stevens / Anže Vrabec)

Miho Hazama (conductor); Lizz Wright (vocals); Becca Stevens, Camila Meza (vocals, guitar);
Janine Abbas, Mariël van den Bos (flute); Leo Janssen, Marc Scholten, Max Boeree, Paul van der Feen, Sjoerd Dijkhuizen (saxophone);
Martijn de Laat, Nico Schepers, Ray Bruinsma, Rik Mol (trumpet); Jan Bastiani, Jan Oosting, Robinson Khoury (trombone); Pieter Hunfeld (horn); Martin van den Berg (bass trombone);
Arlia de Ruiter, David Peijnenborgh, Dennis Koenders, Ewa Zbyszynska, Frederico Nathan, Herman van Haaren, Jasper van Rosmalen, Merel Jonker, Pauline Terlouw, Robert Baba, Ruben Margarita, Sarah Koch, Vera Laporeva, Wim Kok, Xaquin Carro Cribero (violin); Iris Schut, Isabella Petersen, Julia Jowett, Mieke Honingh, Norman Jansen (alto violin); Annie Tangberg, Emile Visser, Jascha Albracht, Maarten Jansen (cello);
Peter Tiehuis (guitar); Hans Vroomans, Jasper Soffers (keyboards); Aram Kersbergen (bass); Arend Liefkes, Erik Winkelmann (double bass); Martijn Vink (drums); Eddy Koopman, Murk Jiskoot (percussion); Joke Schonewille (harp)


2019年7月にオランダ・ロッテルダムで3日間開催されたノースシー・ジャズ・フェスティヴァル。メトロポール・オーケストラがゲストミュージシャンと共演するのはその看板公演のひとつ。これまでにもパット・メセニーやロバート・グラスパーらがゲストとなってきたが、2019年は”ジャズ作曲家”挾間美帆を指揮者に起用し、3人の女性ヴォーカル、リズ・ライト、ベッカ・スティーヴンズ、カミラ・メサをフィーチャーしたプログラムで演奏された。

挾間は、2017年からメトロポール・ビッグバンドの指揮を任され、すでにライブ盤『挾間美帆 +メトロポール・オーケストラ・ビッグバンド/ザ・モンク:ライヴ・アット・ビムハウス』もリリースし、2018年にもたびたびビッグバンドのプロジェクトを任されてきたが、ストリングスを含むフルオーケストラ編成を任されるのは初。「メトロポール・オーケストラは、世界で唯一のプロフェッショナル・ジャズ・フィルハーモニック・オーケストラだと思っています。とても洗練されたサウンドを持ち、音楽とグルーヴを通して強い感情を届けることのできる非常に稀なオーケストラのひとつです。15年以上に亘って私がずっと共演したいと願って来たドリームバンドでした。」(英語から訳) しかも聴衆は6,000人以上はいるだろうか?まさに挾間の夢が叶う瞬間に立ち会うことになった。

今回は、基本的には、ヴィンス・メンドーサ編曲の譜面を多用し、カミラ・メサの曲は、ネクター・ジャズ・オーケストラでも共演するノーム・ウィーセンバーグ(シャイ・マエストロの親友のベーシスト)の編曲と書いてあり、挾間は、この中で一曲、ベッカ・スティーヴンズの<Regina>の編曲を担当した。初共演の違った方向性で個性の強い女性ヴォーカル3人に、その魅力を短いリハーサルで最大限に引き出し、音楽性が問われるのはもちろんだが、あれだけの大所帯を導いて正確に時間に収めるトータルなマネージメントが求められる。その中にあっても、挾間は言う。「奏者が素晴らしすぎて本番中何度も泣きそうになるくらい、気づいたら自分自身が楽しんでおりました。自分のホーム(m_unit)以外のディレクターの仕事で感情的になることはなかなか許されないので、本当に記憶に残る宝物の時間となりました。」

まず、ヴォーカルなしでウェザーリポートの<Elegant People>から。トップバッターは、カミラ・メサで<Trace>。カミラはよく伸びる高音域とヴォーカルとギターの相乗効果から生まれるグルーヴで、個人的には3人の中で最も印象に残った。チリ出身で、英語・スペイン語・ポルトガル語を駆使してオリジナルから、ミルトン・ナシメント、トム・ジョビンまでを、オケを向こうに回して歌い上げた。特にミルトン・ナシメントの<Milagre dos Peixes>(魚の奇跡)が耳に残った。

リズ・ライトは圧倒的な歌唱力とゴスペルとブルースなどの伝統に根ざしたスピリチュアル・ヴォイスで特別な存在感を魅せ、今回のコンサート全体を包み込むような大きさを感じた。

ベッカ・スティーヴンズはジャンルを超越して生まれる楽曲の魅力とそのデザインされたサウンドがオーケストラの中に広がるのが気持ちよかった。クラシックギターから始めながら、ニュースクールのジャズ専攻に学んだという経歴とそこからの人脈にも納得するし、名曲<Regina>の挾間編曲も素晴らしかった。確か、ウクレレまたはチャランゴも弾いていたと思う。

この3人が一同に会するのは贅沢過ぎる。もちろん、各ヴォーカリストのソロだけではなく、お互いにサポートし合い、対等なコーラスを見せ、また素晴らしいギターのアンサンブルも聴かせる。その完璧なサウンドとバランス、そこから生まれるここにしかない感動のひととき。最後は、ベッカの<Mercury>で盛り上げる。スタンディングオベーションとなり、挾間と3人の歌姫、オーケストラのメンバーへ満場の観客が惜しみない拍手を贈りながら、笑顔で次の会場へと向かって行った。

このところ、ヨーロッパの数々の名門ジャズビッグバンドからツアーの指揮を任される挾間。放送局系バンドは、「NHK交響楽団 小澤征爾ボイコット事件」じゃないにしても、ちょっと頑固で一癖二癖なところもありそうなものだが、そのメンバーたちの心を短期間でつかみ、ベクトルを一つにして、プロジェクトとして求められる結果と品質を確実に出す。その凄さが、挾間の世界での活躍の場を恐ろしいスピードで拡げている。「やはりハイライトは、自分にとって神様であるヴィンス・メンドーサの譜面を指揮できたことです。絶対的な”ヴィンス印”のサウンドがあって、嫉妬しちゃうくらい魅力的で。これからも彼の背中をずっと追い続けようと改めて誓いました。」 ノースシーでヴィンスの譜面を任され、オーケストラを任されること自体が、挾間のヨーロッパでの信頼を象徴している。10月からはデンマーク放送ビッグバンドの常任指揮者に就任する。

なお、ノースシー・ジャズ・フェスティヴァルは、1日券または3日券の購入で第一線のジャズがてんこもり聴き放題となる、世界で最もお得で、忙しい日本人にもお勧めのフェスティバルのひとつだし、「ウインター・ジャズフェストNYC」よりは難易度は低い。今回もメトロポールに始まり、クリス・ポッターに、ロバート・グラスパー・トリオに、アリルド・アンデルセン・トリオに、TOTOにと会場を走り回った。問題は発売早々にチケットが売り切れてしまい、思い立った頃には買えないことだ。今回、調べてみると、良心的な転売ウェブサイトでそこそこの価格で流通していることがわかった。もちろん実際に入場可能かどうかはご自身のリスクでとなるが、直前でも行ける可能性はあることは示唆しておきたい。もちろん、よく計画して発売開始日を目指して早期に購入するのが理想であることは言うまでもない。

Old Man (Neil Young cover) – Lizz wright, Becca Stevens, Camila Meza

Camila Meza & The Nectar Orchestra (Live) | JAZZ NIGHT IN AMERICA

Becca Stevens – Regina

The Welcome – Danish Radio Big Band & Miho Hazama

NN North Sea Jazz Festival 2019 – A Look Back

神野秀雄

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。