#1091 映画『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』

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80周年を迎えた「ブルーノート・レコード」の歴史とスピリットに迫るドキュメンタリー

Blue Note Records: Beyond the Notes
ブルーノート・レコード〜ジャズを超えて

2019年9月6日(金)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
監督:ソフィー・フーバー Sophie Huber
出演:ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ルー・ドナルドソン、ノラ・ジョーンズ、ロバート・グラスパー、
ドン・ウォズ、アリ・シャヒード・ムハマド(ア・トライブ・コールド・クエスト)、テラス・マーティン、ケンドリック・ラマー(声の出演) 他
字幕翻訳:行方 均 配給:EASTWORLD ENTERTAINMENT 協力:スターキャット
2018年 スイス/米/英合作 85分
©MILA FILM
公式ウェブサイト(上映情報など)

1939年にニューヨークで生まれ、80周年を迎える名門ジャズレーベル「ブルーノート・レコード」。創設から発展に立ち返り、黄金期を経て混迷と再生へ、歴史の真実とスピリットを明らかにして行くドキュメンタリー。20世紀も終盤になると、ハードパップ期を中心にジャズ史に残る名盤が多かった裏返しと、一時アクティヴではなかったため、「ブルーノート」が古いサウンド、古臭いジャケットと見てしまう誤解も正直あった。ストーリーを追ううちに、ブルーノートが、常に革新であり、アーチストのオリジナリティを引き出してきた、そして現在と未来を創って行く特別なレーベルであることを浮き彫りにする。



Blue Note All-Stars: Ambrose Akinmusire (tp), Robert Glasper (p, keyb), Derrick Hodge (b), Lionel Loueke (g), Kendrick Scott (ds), Marcus Strickland (ts), Wayne Shorter (sax) and Herbie Hancock (p) Photos: ©MILA FILM

映画は2017年のスタジオの風景から始まる。ロバート・グラスパー(1978-)とブルーノート社長ドン・ウォズ(1952-)がプロデュースし、現代のブルーノートを支える若手・中堅アーティスト達で結成されたスーパー・グループ「ブルーノート・オールスターズ」による『Point of View』のレコーディング・セッション。そこに2人のレジェンド、ハービー・ハンコック(1940-)とウェイン・ショーター(1933-)が現れる。リハーサルどころか打ち合わせもせずに演奏したと言う。実は、映画タイトルの『Beyond the Notes』は、このセッション中にリオーネル・ルエケが発する言葉から取られている。ぜひその真意を聴き取って欲しい。監督自身が「魔法のような時間だった」と振り返る貴重な映像だ。

Blue Note All-Stars – Cycling Through Reality (映画の一部ではなくPV)


R: Photo by Francis Wolf ©Mosaic Images

ナチス政権下のドイツから1937年にアルフレッド・ライオン(1908-1987)がニューヨークに移住し、1939年にマックス・マルグリスとともに立ち上げた「ブルーノート・レコード」。最初はブギウギ・ピアノのSPからスタートを切った。1939年に写真家だったフランシス・ウルフ(1907-1971)がドイツから移住し、子供の頃からの友人アルフレッドと合流、1940年以降、アルフレッドとフランシスの二人でブルーノートを支える。1952年にレコーディング・エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダー(1924-2016)が加わり。さらにデザイナーのリード・マイルス(1927-1993)がフランシスの写真からアートワークを作るようになり音楽、サウンド、アートワーク・デザインが揃った体制ができるまでを観ることができる。そして、ときはビバップが生まれ発展して行く時期だった。


Photo by Francis Wolf ©Mosaic Images

Photo by Francis Wolf ©Mosaic Images

レコーディングにあたっては、アーティストに創造の自由を渡し、かつ新曲を書くよう励ました。テイクを重ね徹底的に完成度を上げて行く。理想を求め、妥協することのない信念から、それまでにない音楽が生まれ、ブルーノートの音が10年単位で音楽シーンをかえてきた。ホレス・シルヴァー、アート・ブレイキーらを筆頭に、クリフォード・ブラウン、ハンク・モブレー、ジミー・スミス、リー・モーガン、ルー・ドナルドソン、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、トニー・ウィリアムス、オーネット・コールマン、ドナルド・バード、フレディ・ハバードらを輩出し。そのたびに、これまでになかった音を創り出して行く。。やがて大成功ゆえにひとつの時代が終わる。1980年代からの再スタートと時代背景については、ノラ・ジョーンズやカサンドラ・ウイルソン、ロバート・グラスパーなどの成功、Us3による<カンタループ>の世界的ヒットなどを念頭に置きつつ、映像でご覧いただきたい。

ときに「ジャズ2大レーベル」とか書いてあるとなんだかとは思うが、「ブルーノートサウンド」も「ECMサウンド」も既存スタイル・サウンドの再生産ではなく。今までになかったサウンドの創造の積み重ねであったこと、それを50年以上継続できた稀な二つの存在であったことを認識する。そしてその両方がドイツ人の手で始められ成し遂げられたことにも注目したい。ブルーノート創設は、ラ・フォル・ジュルネのテーマ的には(悲しいことだが)「Exile(亡命)」が音楽の原動力になった例でもある。

ブルーノート80周年記念で作られているので、予定調和、自画自賛、宣伝的に見えるときもないではないし、ブルーノート復活にあたっての日本の貢献があまり紹介されない残念さはあるが、貴重な映像を交えて、淡々と歴史を追い、一見繋がりのわかりにくさもある、ブルーノートと音楽の過去と現在と未来を結びつけてくれるのはありがたく、ひいては、20世紀から21世紀にまたがるジャズ史と音楽史を俯瞰するよい機会を与えてくれた。

2019年6月12日、渋谷ユーロライブでのジャパンプレミア試写会では、ブルーノートレコード社長のドン・ウォズと、J-Popの名プロデューサー亀田誠治とのトークショーが行われた(J-WAVEウェブサイトのトークセッションレポートはこちら)。ドン・ウォズは、もともとベーシストで、『Was (Not Was)』でデビュー。その後、プロデューサーとして、ローリング・ストーンズのアルバムや、ボブ・ディラン、エルトン・ジョンなどビッグ・アーティストのプロデュースを手がけ、グラミー賞を3度受賞。グレゴリー・ポーターをブルーノートに録音する契約を結ぶきっかけで、2012年からブルーノート・レコードの社長を務めている。亀田はベーシストであり、プロデューサーとして、椎名林檎、スピッツ、平井 堅、JUJU、いきものがかりなどの楽曲を手がけ数々のヒットを生んできた。 亀田とジャズに違和感を感じるかも知れないが、亀田はフュージョンのベーシストを聴くうちに、18歳でウッドベースを始め、ポール・チェンバースに出会い、片っ端から聴き漁り、今でもサウンドチェックでポールのラインを弾くこともあるという。クインシー・ジョーンズの日本でのトリビュートコンサートをプロデュースした際に小曽根真 featuring No Name Horsesを加えたのも亀田だったし、2019年にはニューヨークのセントラルパーク・サマーステージに着想した無料のフェスティバル「日比谷音楽祭」を実現しているが、サマーステージにはニューヨークにおける「ブルーノート・ジャズ・フェスティバル」も関連している。

ドン・ウォズとブルーノートの出会いは、1966年、14歳、ラジオで偶然聴いたジョー・ヘンダーソンの『Mode for Joe』。ドンの選ぶ1枚はウェイン・ショーター『Speak No Evil』、亀田が選んだのは、ポール・チェンバースが参加したバド・パウエル<The Scene Changes>。その頃、ブルーノートを世界で最もクールなものと感じたと言う。ブルーノートが1939年に作ったマニフェスト「アーティストに純粋な音楽をやる自由を与える」がいかに大切で、実際そうしてきたことは正しかったと二人は同意する。亀田は「とにかく、ミュージック・ファーストなんです。ここが、ブルーノート・レコードがほかのレーベルと違う部分だと思います。利益を第一に考えるのではなく、君がやりたい音楽をやりなさいと」。ドンは続ける「音楽をやるということは、音楽自体も大切ですが、ストーリーテリング=物語を語ることです。たとえサックスで言葉がなかったとしても、心、グルーヴで物語を語るということなんです。」 司会のサッシャが、ドンにとってジャズとは何かをきく。 「変化であり、『昨日と同じ演奏を、今日はするな』ということ。日々の進化ということだと思います。」亀田が応える「まさに人生そのものですよね。一度たりとも同じ演奏はない。そういう醍醐味がジャズにはありますよね。 」

新しい音楽、アートを生み出す、ひいては人生にしてもその厳しさと歓びを教えてくれて、(アメリカ映画的に)ちょっと元気の出る映画でもあり、ジャズをあらためて好きになるきっかけにもなり、ぜひお勧めしたい。マニアックにジャズに詳しくなくてもひとつのストーリーとしても十分楽しめるので、友人や家族を誘うのもよいと思う。


『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』 オリジナル・サウンドトラック
Blue Note Records: Beyond the Notes – Original Soundtrack

2019年8月14日発売 ユニバーサル・クラシックス&ジャズ UCCQ-1102/3 税込2,700円
曲目を紹介するとネタバレになるので、割愛するが、ブルーノート史、ジャズ史を追う上でもよいコンピレーションになっている。

TRAILER: Blue Note Records: Beyond the Notes by Sophie Huber〜動画が多いロングバージョン

Joe Henderson / Mode For Joe (ドン・ウォズが最初に聴いたブルーノートのアルバム)

Wayne Shorter / Speak No Evil (ドン・ウォズが選ぶブルーノートの1枚)

Bud Powell / The Scene Changes (亀田誠治が選ぶブルーノートの1曲)

US3 / Cantaloop 〜ブルーノートで最も売れたアルバム

Sounds and Silence – Travels with Manfred Eicher (Trailer) 〜ECM Recordsのドキュメンタリーを参考まで

神野秀雄

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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