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Concerts/Live ShowsNo. 257

#1093 喜多直毅クァルテット『青春の立像』—沈黙と咆哮の音楽ドラマ—

2019年7月24日(水)@東京・永福町ソノリウム
Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代

<出演>
喜多直毅クァルテット/Naoki Kita Quartette
喜多直毅/Naoki Kita(Music and Violin)
北村聡/Satoshi Kitamura (Bandoneon)
田辺和弘/Kazuhiro Tanabe(Contrabass)
三枝伸太郎/Shintaro Mieda(Piano)

<プログラム>
悲愴
疾走歌
影絵遊び
青春の立像
故郷
厳父


喜多は音楽を、様々な思いが封じ込められた人間の「胸郭」になぞらえる。挫きの記憶、とぐろを巻くやるせなさといった、いわば負のエネルギーが詰まった鳥籠のごとき胸郭。だがこの負のエネルギーほどその人間の個性を端的にあらわすものはない—喜多の表現の要である。さて、この日は、豊かなステージ経験値によってのみもたらされる野太い音楽の実在を個々のメンバーが打ち立てながら、その完成度の高さとは一見相いれないナイーヴで複雑な感情の襞(ひだ)が、五感の隅々にまで届けられた。まず、パフォーマンスの屋台骨ともいえる楽曲構成。タイトル・ピースである「青春の立像」を中核に据え、そこから「故郷」「厳父」へと、あたかも人生の初期段階へと遡る時間軸を採る。次第に現在が記憶の領分に侵略される。あまりに滑らかな技巧の練達ゆえ特殊奏法であることを忘れがちだが、楽器の属性の真逆をいくような音像、通常予想される起伏をはばむスリリングな展開がもたらす心理的効果は抜群だ。「青春の立像」では、丁々発止と断絶が代わるがわる訪れる。都度、時空のはざまに深淵が覗き、現実そのものがチューニングされていく。コンポジションはスケールが大きくかつ緻密ながら、ディテイルはプレイヤーに委ねられ、各々の特長が伸びやかに発揮される場となる。混じりけのない芳醇なメロディ、連綿たる過激なアプローチのなかにも息づく凛とした気品、気骨稜々としつつも派手な劇場型へ陥るぎりぎりのところで躱(かわ)されるシュールな物語性、ブレない求心力。多層をなす奇抜な構造に度肝を抜かれると同時に、流れ落ちるピュアなパッションに心洗われる—こうした相克的体験はそのまま生の矛盾そのものだ。青春という言葉がはらむイメージが、自己を何とか定義しようとする「もがきの過程」だとすれば、このクァルテットが体現するどの様式からもすり抜ける音楽は、人生の不可抗力的な部分やそれを踏み台とした生き様の逞しさを、力強く肯定しているようにおもえてくる。 (*文中敬称略)

提供/Naoki Kita Quartette
提供/Naoki Kita Quartette

<喜多直毅クァルテット/西日本ツアー>

10/10(木)神戸:CAP.Y3.5Fホール(海外移住と文化の交流センター)
 with:角正之(ダンス)/レナート・レオ(ダンス)/越久豊子(ダンス)
https://www.facebook.com/events/215705982709492/
10/11(金)広島:広島市西区民文化センター
https://www.facebook.com/events/895211654180924/
10/12(土)松山:utaco drip
https://www.facebook.com/events/2789355981092355/
10/14(月/祝) 尾道:JOHN Burger & Cafe
https://www.facebook.com/events/540184039852392/
10/15(火)福岡:西南学院大学
https://www.facebook.com/events/670067256827035/


<関連リンク>
https://www.naoki-kita.com/
http://kitamura.a.la9.jp/
https://https://shintaro-mieda.wixsite.com/main
https://www.facebook.com/kazuhiro.tanabe.33?ref=br_rs

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学教育学部卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに親しむ。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。ギャラリスト。拠点は東京都。

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