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Concerts/Live ShowsNo. 259

#1103 Improvisation Sept 26, 2019

text by Ring Okazaki 岡崎 凛
photos by Takahiro Urushidate 漆館登洋 & Ring Okazaki 岡崎凛

2019年9月26日
UrBANGUILD Kyoto(アバンギルド  京都市中京区)

出演者:
カジワラトシオ (エレクトロニクス)
東野祥子 (ダンス)
柳川芳命 (アルトサックス)
永井清治 (エレクトロニクス)
河合孝治 (エレクトロニクス、ピアノ)
仙石彬人 (オーバーヘッドプロジェクターによる映像美術)

LtoR: カジワラトシオ|東野祥子|永井清治|河合孝治|柳川芳命|photo:Takahiro Urushidate

はじめに:
何も知らぬまま、友人の『即興』企画に足を運ぶ

このイベントを主催し、企画した漆舘登洋氏とは、ツイッターで知り合った。バール・フィリップスのトリオとゲスト2人による自由即興の動画を投稿したとき、それを見た彼から連絡をもらって以来、貴重な友人と感じていたら、今回のイベントに誘われた。実際に彼に会ってみると、予想以上に若い人で驚いた。この夜、漆舘登洋氏はDJと進行役もつとめていた。

『Improvisation Sept 26, 2019』は、ひとくちで言えば、インプロヴィゼーション(即興)に深く関わるメンバーが結集した、内容の濃いイベントだったと言えるだろう。サウンドアーティスト、ダンサー、ヴィジュアルアーティスト、それぞれの即興によるパフォーマンスに圧倒され、驚きながら過ごした。

私はフリーインプロのアーティストに詳しい人間ではなく、元タージ・マハル旅行団の永井清治氏についても、これまでの活動を知らなかった。全くの門外漢ではあったのだけれど、とくに予備知識はなくても、今回のイベントは充分楽しめた。そして、遅ればせながら、これをきっかけにタージ・マハル旅行団の偉業を知ることになった。

こういう理由で、今回出演の3人のサウンドアーティストについては、漠然とした感想以上のことは書けないし、ダンスにも詳しくはない。ジャズ即興はよく聴くが、柳川芳命氏は初めて聴いた。以下は、アートイベントにふらりとやって来た観客の体験談として、記事を読んで頂ければ、と思いながら書いた。(出演者の敬称略します)

ソロではなく、デュオ、トリオ、それ以上での即興
この夜は、出演者が組み合わせを替えて、2人、または3人でのユニットが登場する。1人のパフォーマンスを仙石氏が映像アートで彩るなど、彼らのコラボレーションが生まれるパターンは幾通りにも変えられていく。そして、最後は全員による即興パフォーマンスで、エレクトロニクスの轟音が響き、サックスが鳴り、ダンサーと映像アートが加わり、最後の即興作品を作り上げていった。

プログラムは次の予定だったが、終演時間は結局23時ぐらいだった。
19:00-19:30 漆舘登洋 (DJ)
19:30-19:50 カジワラトシオ (electronics) + 東野祥子 (dance)
20:00-20:20 柳川芳命 (as) + 仙石彬人 (ohp)
20:30-20:50 永井清治 (electronics) + 河合孝治 (electronics,pf) + 東野祥子
21:00-21:20 柳川芳命 + 河合孝治
21:30-21:50 永井清治 + カジワラトシオ + 仙石彬人
22:00-22:20 集団即興

東野祥子・エレクトロニカの音響に挑み続けるダンス

LtoR:カジワラトシオ| 東野祥子|photo:Takahiro Urushidate

最初の即興プログラムにカジワラトシオ (electronics) & 東野祥子 (dance) が登場し、会場は闇に包まれ、エレクトロニクス・ノイズの洪水に呑まれていった。ダンサー東野祥子が素早く無表情に観客席のテーブルに配っていく箱型の装置からも音が漏れ出し、観客は何が起きているのか分からないままに、非日常の世界へと引きずり込まれる。
東野祥子がパーソナリティーをはぎ取られた人形のように踊り続ける姿に、目が釘付けになった。生身の体温を感じさせない彼女の所作の1つ1つが美しく、轟く電子音に包まれながら、そのダンスに見入った。

東野祥子のダンスは、プログラムごとに変容し、永井清治 (electronics)、河合孝治(electronics, pf) とのステージでは、電子音の世界を旅して浮遊するように踊る。サングラスをかけた彼女の動きは、水中を歩くようでユーモラスなのだが、これとは対照的にサウンドアーティストの2人はノートパソコンを見つめてにこりともせず、ノイジーな電子音を操っている。ダンサーを包んでいるのは、水なのか、それとも無重力空間なのだろうか。設定は分からないまま、彼女は何かを探すように動き続けていく。
この日のエレクトロニカとダンスのコラボレーション企画は、出演者全員が登場する最終プログラムも含め、非常に充実していたと思う。

・参考動画(音量注意!):
カジワラトシオ (electronics)+東野祥子 (dance)

・永井清治 (electronics)+河合孝治 (electronics)+東野祥子 (dance)


仙石彬人・舞台美術という枠を超えた、映像による即興ペインティング

photo: Ring Okazaki

仙石彬人は3台のプロジェクターを使って、水面に浮かぶ模様を刻々と変化させて舞台へ照射し、音響への補助的な装飾ではなく、演奏家と対峙するような映像作品を作り上げていた。
出演者とステージを染め上げていた仙石彬人の映像美術は、彼のブログではタイムペインティングと呼ばれているようだ。水面上に浮かび、ステージに照射される色と模様に、どこか生命体の営みを連想した。
柳川芳命 (as) とのコラボレーションでは、移ろいゆく美しい映像のなかで、ジャズサックス奏者が思いを吐露するような即興演奏に、しみじみと聴き入った。

一方、エレクトロニクス奏者の永井清治、カジワラトシオの2人と組むときは、ハードでスピーディーなサウンド展開に合わせるように、仙石の映像の動きも激しくなる。2人はノイジーな音を奏でながらも、互いの音の隙間を意識的に作り、立体感のあるサウンドを構成していると感じた。激しく主張するさまざまな電子音やサイレン、加工された人声のような音が、衝突しながら、または衝突を避けながら、激しく動き回っていく。

・参考動画(音量大きめ):
永井清治(electronics)+カジワラトシオ(electronics)+仙石彬人(OHP)

カジワラトシオ、永井清治、河合孝治のエレクトロニクス音楽
たぶんこのイベントについては、この3人のサウンドについてまずは語るべきなのだろうが、自分はただ圧倒されるばかりの初心者であり、分析的な内容を書けるはずもない。当然、まだまだ知らないことばかりだが、今回、電子音を操るサウンドアーティストたちの個性に触れることができたのは、大きな収穫だった。
初めてこうした即興ライヴへ参加したので、ただ入り口に立っただけだが、耳をつんざく轟音に圧倒されながらも、演奏が終わるたびに清々しい気持ちになり、即興作品への興味が高まっていったのだった。奏者を目の前にすることにより、学べることは本当に多い。
河合孝治が手を振り下ろすたびに連動して鳴り響く音がとても不思議に思えたが、この謎は謎のまま温存して楽しむのもいいかな、と思った。

アルトサックス奏者柳川芳命の自由即興に、ジャズらしい音を感じ取る
上記の仙石彬人の映像アートで触れたように、柳川芳命のサックスソロにはしみじみと聴き入ってしまった。このような電子音をメインにしたイベントに来ると、サックスから生まれる激しい咆哮のような音、すすり泣くような音が、いつも以上のスピードで心に沁み込んでいく。
ぎらついた刃のように攻撃的な電子音にまだ慣れないていないのか、自分は柳川芳命のサックスの音から、ジャズの香りを感じ取って懐かしいと感じていた。たぶんあの夜にそんなことを考えたのは自分ぐらいだろう。
河合孝治と彼のデュオでは、冒頭からノイジーな電子音と激しいサックス音が、それぞれ強烈な音を鳴らし続けるが、ふとした瞬間に、河合孝治の弾くピアノにメロディアスな音が混じる。長い演奏の半ばに、突如として変化が訪れるのが面白い。

♪ このデュオの音源ををサウンドクラウドに上げました
https://soundcloud.com/rieko-hirata/inprovisation-homei-yanagawa-koji-kawaielectronics-piano
*アドレス名の中にタイプミスありますが、訂正が難しいのでご容赦ください

イベント情報より、出演者のプロフィール、テキストのみ転載

永井清治 Seiji Nagai
‪山下洋輔‬との共演で好評を得た後、集団即興音楽のパイオニア・グループ、タージ・マハル旅行団を小杉武久らと結成し、内外の多くの現代音楽、ジャズ、ロック音楽祭に出演。また永井のリーダーアルバム『電子即興雑音1999』についてジュリアン・コープは「過去に材をとった大半の音楽と異なり、スケール感と活力に溢れた、傑作アルバム」(JAPROCKSAMPLER) と述べている。‬

永井清治(left)|photo: Ring Okazaki

◆河合孝治 Koji Kawai
サウンドアーチスト&コンセプター。音を中心に様々なアート、身体表現、哲学、仏教などをクロッシングしながら、サンタフエ国際電子音楽祭、ISEA電子芸術国際会議、ブールジュ国際電子音楽祭(仏)、ETHデジタルアート週間(スイス)、チリ・サンディアゴ国際電子音楽祭、ISCM世界音楽の日々2010 (豪)、Opus medium project、東京創造芸術祭などでパフォーマンスや作品を発表している。

河合孝治 photo: Ring Okazaki

◆柳川芳命 Homei Yanagawa
78年からフリーフォームの即興演奏をめざし我流でサックスを始める。フリージャズ、フリーインプロヴィゼーション、ノイズ等、時代の流れの中で様々なスタイルから影響を受けつつも、新奇なコンセプトや奏法を超えたシリアスでストレートでシンプルな独自の即興演奏にたどり着きたいと思っている。

柳川芳命 photo:Takahiro Urushidate

◆トシオカジワラ Toshio Kajiwara
90年代初頭のNYで磁気テープやSPレコードを使った独自の即興パフォーマンスを始める。クリスチャン・マークレイと世界各地をツアー、パフォーマンス・アートと実験音楽のイベント・シリーズ「PHONOMENA」をジョン・ゾーンが監督したスペース「TONIC」で5年間に亘り企画運営。また13年間、老舗中古レコード屋「A-1 Record Shop」の店長として、忘れられた音楽の発掘と再評価に貢献する。帰国後は舞台芸術分野で活動、国内外で演出作品を多数発表。2015年に「ANTIBODIES COLLECTIVE」を立ち上げ、より深く地域活性化支援や芸術教育の分野に貢献する活動の体勢をとっている。

トシオカジワラ(left) Photo: Ring Okazaki

◆東野祥子 Yoko Higashino
10歳でダンスを始める。10代は平崎喬子、20代前半は泉克芳に師事。2000年~2014年「Dance Company BABY-Q」を主宰する。数々の舞台芸術作品を発表し、国内および海外のフェスティバル(アメリカ/フランス/ドイツ/ノルウェー/メキシコ/韓国/シンガポールなど)にも招聘される。ソロダンサーとしても数多くの即興ミュージシャンやアーティストとのセッションを展開。トヨタコレオグラフィーアワード2004「次代を担う振付家賞」、2005 年横浜ソロ×デュオ〈Competition〉+(プラス)「未来へ羽ばたく横浜賞」、2010年舞踊批評家協会新人賞など受賞。‪2005-2013‬年まで東京にてスタジオBABY-Q Lab.を運営し、人材育成を行う。また学校教育プログラムでの指導も積極的に行っている。 最近は「HE?XION! 」名義にて洋服デザインや「HE?XION!TAPES 」ではレーベルとしても活動を行う。地域創造-公共ホール現代ダンス活性化事業-登録アーティスト。2015年、京都に活動拠点を移し、「ANTIBODIES Collective」として多ジャンルのアーティストとともに国内外にて作品制作やパフォーマンスアクションを実践している。‬‬

東野祥子(center)
photo: Takahiro Urushidate

◆仙石彬人 Akito Sengoku
2004年より「時間に絵を描く」をテーマに、リキッドライティングの技法を用いたライヴ・ヴィジュアル・パフォーマンス “TIME PAINTING”をはじめる。楽器を演奏するかのように3台のOHPを同時に操りながら紡がれる光の絵は、絶えず変化し続け2度と同じにはならないその場限りの物語を描く。LIVEという表現方法にこだわり、あらゆるジャンルのミュージシャンやダンサー、アーティストとのコラボレートワークを活動の場としている。
2017年01月には国際交流基金の助成を受け、約一ヶ月におよぶフランスツアーを実施。フランスのデュオRhizottome、箏奏者の今西玲子との公演「庭師の夢」を4都市にて上演。また、アートを通じたこどもの教育活動にも積極的に取り組んでおり、浜松 鴨江アートセンターや金沢21世紀美術館など、全国各地でこども向けWS「じかんに絵をかこう」も行なっている。

photo: Ring Okazaki

◆漆舘登洋 Takahiro Urushidate
1990年、青森県十和田市生。本企画・主催、DJ。


会場について

会場のアバンギルド京都はアンダーグラウンドの音楽シーンを眺めるにふさわしい会場だと感じたが、今回の催しは美術館を会場にしてもよさそうな内容で、アート志向の強いパフォーマンスばかりだった。
アバンギルドを訪れるのは初めてだった。三条木屋町に近い店内は音響がよく、ステージはダンスが見やすく、仙石彬人氏の映し出すカラフルな映像を眺めるのにぴったりだった。
店内喫煙OKで、凝った料理がリーズナブルな価格で提供されている。


*本誌関連記事
#1591『柳川芳命+Meg Mazaki/四谷怪談』by 伏谷佳代
R.I.P. 小杉武久 by 末冨健夫

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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