#1113 Eishin Nose’s Two Men Orchestra THE GATE 結成10周年記念ツアー
野瀬栄進+武石聡 The GATE at タカギクラヴィア松濤サロン

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text by Masahiko Yuh 悠 雅彦

2019年11月2日 19:15~

Eishin Nose’s THE GATE 結成10周年記念ツアー
野瀬栄進 (Piano)
武石聡 (Percussion)

01. Free Improvisation
02. Burning Blue
03. Feeling of Gospel
04. Quiet Blue Snow
05. Iomante
06. Wind
07. コロポックルの踊り
08. 三種のコロポックル
09. Moon Longing for Sun
10. Waiting
11.  Straight off the Plane
12.  南米の日本人
13.  Pallet

<アンコール>
1. Kuba 1
2. Kuba 2

海外での活動が一段落すると日本へ帰ってきた野瀬栄進が、必ず出演するのが渋谷のタカギクラヴィア松濤サロン。おそらく30人も入れば満杯の小さなスペースだが、帰国すれば野瀬は決まってこのサロンで演奏する。私も例外ではないが、このサロンでの演奏を楽しみにしているファンが少なくない。何と言っても世界最高級のスタインウェイ・ピアノの透徹したゴージャスな音色と響きを、ここは最良のピアニストの演奏で楽しめるサロンなのだ。

この夜はこの松濤サロンがこのこじんまりしたスポットを演奏の場として開設して10周年を迎え、かつその最終日とあっていつも以上に野瀬の演奏とピアノの壮麗な響きを楽しもうとする愛好家で賑わった。当夜は打楽器奏者の武石聡とのデュオ演奏で、野瀬による指慣らし的な短い冒頭ソロの後、両者による熱い演奏が始まった。それにしても、このサロンは音響的に決して理想的な会場とは言えないものの、野瀬が渾身の情熱を傾けてまさにスタインウェイならではの力強い豪快な鳴りを引き出し、真剣に耳を傾けながらパーカッションとの一体化したピアノ・ジャズの情熱的なサウンドを楽しむ人々の眼差しを見据えたピアノとパーカッションの、ときには一騎討ちのような激しいバトル、あるいは秘術を尽くしあった2人の演奏者の真剣な表情を心底堪能したのであった。武石氏はときには左手でブラッシュしたり、かと思うと素手の右手で華麗にして強烈なソロ・ラインを打ち出して野瀬に一歩も引かず、しかも決して流れを乱さない好演で野瀬を盛り立てるなど、野瀬がデュオでは決まって武石聡と組む理由が納得できる、場を乱さない上々の演奏ぶりを発揮したのであった。

この夜はタカギクラヴィア松濤サロン開設10周年を祝うイヴェントの最終日。それもあってか、普段の倍以上のピアノ愛好家が集まった中で野瀬栄進が僚友の打楽器奏者・武石聡を迎えて、火の出るような熱気あふれる演奏を披露した。スタインウェイの格調ある響きに野瀬の情熱と渾身の奏法がまさに乗り移った、繰り返すがまさに火を吹くような演奏で、夜に入って冷え込んできたにもかかわらずエキサイトする演奏と熱心に耳を傾ける人々の音楽に溶け込む熱気が会場を包み込んで、それが演奏にまで乗り移るという奇跡的な一夜を生んだと言っても決して言い過ぎではない。(3)の「フィーリング・オヴ・ゴスペル」では武石は左手にブラッシュを、右手は素手でドラムスのスネアやハイハットを器用に操って変化に富んだサウンドを生み出し、野瀬のダイナミックな演奏を最高度に盛り立てた。(5)の「 Iomannte 」は無論その昔、伊藤久男が歌ってヒットした「イヨマンテの夜」の「イヨマンテ」。この演奏での武石がまさに本領を発揮してみせ、右手や左手の臨機応変の奏法変化で演奏それじたいを盛り上げる立役者ぶりを印象付ける見事な熱演を繰り広げたのであった。

野瀬の演奏もさすがに普段の演奏を超えるエキサイティングな展開で聴衆の拍手と乗りに応える高度にして情熱的な内容だった。アンコール曲の「 Kuba 」は「 Cuba 」のことではないかと思うが、いずれにせよこれほどパッションを爆発させ、ピアニストとしてのみならずジャズの演奏家としての持てる本領をダイナミックに発揮して聴衆の期待と拍手に応えた野瀬栄進のエキサイティングな演奏は、長らく彼の演奏に注目してきた私にとっても初めてと言いたいくらいの熱気あふれるものだった。次回がいつかは伺っていないが、もし次回のソロでも一層の熱演を約束する野瀬栄進のパワーと音楽的成果を期待したいと思うのは私一人だけではないだろ。(2019年11月5日記)

悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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