#1111 田嶋直士:第39回 東京尺八リサイタル~地歌尺八の世界

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text by Masahiko Yuh 悠雅彦

2019年11月26日 19:00     豊洲シビックセンターホール

田嶋直士(尺八)
藤本昭子(三絃)
澤村裕司(三絃)
日吉省吾(箏)

1.越後獅子(津山検校)
2.御山獅子(菊岡検校)
3.八重衣(石川勾当)

海外でも名前の知られた尺八奏者、田島直士(たじまただし)のリサイタルに、現代の新しい地歌界を代表する藤本昭子が共演するというので、何としても聴かせていただきたいと思ってお願いした。邦楽は大の字がつくほど好きでも、ごくたまにしか聴く機会には恵まれないため、この夜共演した澤村裕司も日吉省吾も名前しか知らず、実際にその演奏ぶりに触れるのはこのコンサートが初めてのことだった。日本の現代尺八界を代表するひとり、田嶋直士が、なにゆえ「地歌尺八の世界」と銘打ったコンサートを催したのか。私の興味のひとつはここにあった。というのも、田嶋はたとえばバッハ国際音楽祭をはじめとする世界の名の知られたクラシック音楽の祭典にしばしば招かれており(1990年、2007年ほか)、日本でも細川俊夫(*)の尺八協奏曲「Voyage X – 野ざらし」を初演して注目されたことがある人。かのスピルバーグが製作したロブ・マーシャル監督のアメリカ映画『SAYURI ~ Memories of a Geisha』のサウンド・トラック盤を吹き込み、最優秀音楽賞を受賞したことさえある演奏家であるといえば、演奏家としての彼の立ち位置が理解できるのではないだろうか。ある意味では田嶋は尺八奏者では珍しいオールラウンド・プレイヤーなのかもしれないし、その一端をうかがうことができるコンサートかもしれない。じつは、それを確かめることができる一夜かもしれないとの期待もあった。

藤本昭子については、以前人間国宝でもあった彼女の母親、藤井久仁江(1933-2006)が文化庁から受賞者として表彰されたときの委員だった縁で知り合い、現在、彼女がすでに15年以上にわたって自主開催している<地歌ライブ>をも欠かさずに聴いてきた私にとって、今回彼女が田嶋直士のリサイタルでどんな演奏をするかをこの耳で確かめたいと思ったことも間違いない。

ちなみに、送られてきた資料で共演者を紹介する。

澤村祐司(1981年)は藝大と同大学院を卒業後、八橋検校日本音楽コンクールで八橋検校賞を受賞。現在、筑波大学附属視覚特別支援学校、及び明治大学三曲研究部非常勤講師。詩と音楽のVOICE SPACE代表。

日吉省吾(1987年)も同じく東京藝術大学卒。澤村裕二と同じ生田流の新鋭で、胡弓もうまいと聞く。その胡弓は高橋翠秋に師事した。平成28年の文化庁芸術祭音楽部門で映えある新人賞に輝いた。今後が楽しみな新鋭の一人。

当夜の演目は津山検校の「越後獅子」、菊岡検校の「御山獅子」、そして邦楽世界有数の人気曲、石川勾当作曲の「八重衣」。いずれも演奏に15分以上を要するという大曲揃いで、聴く方もあだやおろそかには聴けない曲ばかり。1曲めの「越後獅子」は藤本昭子の歌と三絃(本手)が口火を切るが、いつもの穏やかな表情が姿を消し、緊張している様子が客席からもうかがえた。演奏自体には何の遺漏があるはずもなく、澤村祐司の三絃(替手)と均衡を保って、田嶋直士との高テンションの「越後獅子」を有終美に導いた。一方、田嶋は最後の「八重衣」までまったく変わることのない落ち着いた演奏を繰り広げ、さすが欧米での演奏経験も多彩な貫禄ぶりを印象付けた。

「御山獅子」では藤本昭子に代わって澤村祐司が三絃を、日吉省吾が筝奏者として登場。澤村がよく伸びる高音で鈴の音に呼応する獅子舞を歌い、日吉も自然体で健闘した。ここでも誠実でベテランらしい一徹さを押し出しながら、2人の若い演奏者に華を持たせるがごとき控えめな演奏で場を盛り上げた田嶋の落ち着いた尺八が印象的だった。

締めくくりは私も大好きな「八重衣」。おそらく藤本昭子にとっても思い入れの深い曲ではないかと想像しながら楽しんだ。彼女の声もここではよく伸びてその色艶が闊達さを浮かび上がらせたし、声の張りも上々だった。日吉の柔らかい筝の音も印象に残った。とくに、「霜夜のさむしろに」における「む」の高音が光った。何と言っても、期待した後半の屈指の盛り上がりを約束する3者による手事の熱演を久しぶりに堪能し、卓越した手事の迫力を間近に味わうことができた。ここでも決して主役の威厳を表にあらわすことなく、むしろ他の共演者の演奏と溶け合わせるかのごときプレイで尺八の醍醐味を発揮し、地歌の人気曲で親近感を表した田嶋直士の演奏ぶりを称えたいと思う。

*細川俊夫は去る11月28日、サントリーホールでの「個展Ⅱ」で望月京とともに登場し、『オルガンとオーケストラ』のための日本初演と、「オーケストラのための『渦』の世界初演を、杉山洋一指揮の東京都交響楽団の演奏で披露した 。

悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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