#1115 クニ三上「0才からのジャズコンサ-ト」

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text by Ring Okazaki 岡崎 凛

2019年12月6日

《午後の部1》13:00-13:45(12:40 開場)
会場:京都市・ゲーテインスティテュートヴィラ鴨川
出演者:クニ 三上(p) 池田 聡(b) 横山 和明(ds)

ユーモアに溢れ、陽気で快活なジャズコンサートを企画し、2019年の11月・12月に日本の各地でツアーを続けたクニ三上のピアノトリオを聴きに行った。乳幼児やその親、祖父母たちが多く集まる会場で、ジャズ魂に満ちたトリオが、ユーモアの達人ぶりを発揮し、観客を魅了していた。

クニ三上トリオによる「0才からのコンサート」は、大人のためのジャズコンサートでもある。演目には子ども向けの曲が多いが、ユーモアに満ちた演奏でジャズの魅力や楽しさを再認識させてくれる。「本物の音楽を聴きたい、子どもにも一緒に聴かせたい」という多くの親たちの夢を叶えてくれる場でもある。ここは初めてジャズライヴに出会う人を暖かく迎えてくれる。そして、ジャズは小難しい知識を頭に詰め込んで聴くものではないことを、つくづく感じる。

ライオネル・ハンプトン楽団での経験が長いピアニスト、クニ三上は、ライオネル・ハンプトンが生涯大切にしていたエンターテインメント重視の姿勢をこのコンサートでも貫いている。トリオの素晴らしい演奏と、プレイヤーとスタッフの観客への心遣いをここに紹介したいと思う。

京阪電車の「神宮丸太町」駅で降り、鴨川沿いを北に数分歩くと、緑に囲まれたレンガ壁の建物が見えた。大きなガラスのドアには「0才からのジャズコンサ-ト」のポスターが貼られ、中に入るとすぐに受付のスタッフに迎えられた。

ホールに入ると、奥に一段高いステージがあり、ピアノ、ドラム、ベースが置かれている。その点ではピアノトリオのコンサートではお馴染みの風景なのだが、ステージ前はキルティングマットに覆われ、その後ろに数列の椅子席が設けられていた。

開場後しばらくして、親子連れなどの参加者が次々と入って来た。たいていの子どもたちはじっとせずに動き始める。保育園のフロアを連想するような柄と色のキルトマットに、はいはいをする乳児、転びやすい幼児のことをよく考えていると思った。ステージには「楽器に触らないでね」と掲示がある。

最初に、本公演を企画運営する横田明子さんからコンサート参加者への説明があり、続いてクニ三上トリオが登場となった。オープニング曲〈Take the ‘A’ Train /A列車で行こう〉が流れ出し、コンサートは軽快に始まった。列車の通過する踏切の「カンカンカン」という音を模して、ドラマーがユーモラスにシンバルを叩くという、遊び心に満ちたアレンジを入れるところが楽しい。

ステージに興味津々の幼児たちが、親たちに止められながらも、何度も壇上に這い上ろうとし、その姿が何とも微笑ましい。トリオのメンバー紹介が行われた後、〈When You Wish Upon A Star/星に願いを〉、〈サンタが街にやって来る〉と12月にふさわしいナンバーが続いた。〈サンタが街にやって来る〉では、途中でピアノがセロニアス・モンク風になり、ジャズファンの心を高揚させてくれる。

続いては〈夢をかなえてドラえもん〉、〈J.S.バッハ/インベンション 第4番〉。バッハの曲では、途中までクラシカルな演奏で、ピアノとベースのソロが美しいが、やがてドラムが入り、一瞬でジャズらしい展開となる。

次にゴスペル曲〈リパブリック賛歌〉が始まった。軽快でパワフルな演奏の後、この曲の紹介トークが面白く、場内を沸かせた。(クニ三上のトークついてはのちに詳述する)

続いては子どもたちの間に大流行していて、急遽演目に入れたという〈パプリカ〉で会場を盛り上げ、その勢いをキープしながら、最終曲のジャズスタンダード、〈Swing, Swing, Swing〉へとつなぐ。

客席から手拍子が鳴り、演奏が佳境を迎えてドラムソロが始まると、ベーシストの池田聡が大きな袋からフライパンなど台所道具を取り出し、ドラマー横山和明の前へ掲げる。これを大真面目な顔をしたドラマーが華麗に叩く。こうして観客を大いに楽しませ、名曲を聴かせてくれたトリオに、惜しみない拍手が送られ、コンサートはアンコールの時を迎えた。

曲名は分からないが、ブルージーで優しげなピアノ演奏が始まったと思ったら、〈Happy Birthday To You〉のメロディーが流れ始めた。クニ三上トリオは、最後までゆったりと美しく、ウィットに富むプレイを聴かせてくれた。

<乳幼児を連れて参加できる音楽コンサートの意義>

予定通りに45分ぐらいの長さだったが、何と充実したプログラムだったことだろう。ブルースやゴスペルに根ざしながら、クラシック曲の美しさも教えてくれるジャズの魅力の大きさを、再認識させてくれるコンサートだった。

ぐずる子どもの声も多少聴こえたが、それが当たり前と考える音楽イベントは貴重だ。夜間に出かけにくい親子連れたちに、ジャズを楽しむチャンスを提供するこの企画の意義は大きい。さらに、良心的なチケット料金を設定し、乳幼児同伴者に配慮した会場設営を行っていることが素晴らしいと思う。

会場のさまざまな場所に、乳幼児を連れた父母への気遣いが見える。ホールまでの通路には「おむつ替え・授乳」の掲示が貼られている。最初に書いたように、会場には大きなキルティングマットが敷かれ、歩き回る子どもたちが転んでもケガをしないようにしている。このように、子連れ参加者たちに必要な配慮が行き届いているのも、この企画が日本の各地で人気を博している理由の一つだろうと思った。

会場で歩き回る子どもたちを眺めながら、シンプルで味わい深いピアノの音に聴き入るひと時は、とても心地よい。ベースのどっしりと豊かな音、ときにはパワフルに弾けるドラムの音を聴きながら、こんなコンサートが昭和の頃にあったならよかったと、育児に追われていた頃を思いだしてしまった。

乳幼児に本物の音楽を聴かせたいという願いは、子育て中の親のものだけではないと思う。どんな音楽に囲まれて過ごすかは、子どもの感性を育てる上で大切なことだ。もちろん現実には、子どもは飽きやすく、集中力も未発達だが、「0才からのコンサート」を主催し、企画・運営するOffice Yokotaの横田明子さんは、そんな子どもたちの気持ちを理解したプログラムを準備し、コンサートを成功に導いている。本公演のリピーター率の高さ、評判のよさは、彼女をはじめとするスタッフの尽力によるものだろうと思う。

<「クニ三上トーク」の面白さ>

「クニ三上トーク」というのは勝手に作ったフレーズだが、彼のトークには独自のスタイルが確立されていると思う。ふとした言葉の端々から、ピアニストの人柄に触れるような気がする。日常的なできごとが面白く語られ、ジョークも飛んで、会場の空気が和む。演奏の間に聴く曲の解説も興味深かった。

彼の説明によれば、今回の演目だった〈リパブリック賛歌〉は、もともと南北戦争時に北軍が歌った讃美歌。”Glory, glory, hallelujah”の歌詞がついている。だがこれが日本に渡ってからは、〈太郎さん(ごんべさん)の赤ちゃんが風邪ひいた〉をはじめ、さまざまな替え歌が登場し、“おはぎがお嫁に行くときは あんこときな粉でお化粧して きれいなお盆に乗せられて…”というものまで伝わっているそうだ。

<クニ三上のCD・書籍など>

コンサート後はCDや著書の販売とサイン会が行われた。
自分も『0才からのジャズ Vol.2~Swingin’ X’mas~』を購入した。
〈ジングルベル〉などクリスマスナンバーもいいが、〈組曲・くるみ割り人形〉が特に気に入っている。また、このコンサートの演目だった〈サンタが街にやって来る〉を再び聴くことができて満足している。
サイン会での写真中、女性が手に取っているアルバムは、『クニ三上/0才からのジャズ〜Keep on Swingin’』で、 2018年リリース。
本作については、JazzTokyoに紹介記事がある;

Hear, there and everywhere #12『クニ三上/0才からのジャズ〜Keep on Swingin’』

これらのアルバムを含め、クニ三上のCD、書籍購入はこちらから:
http://www.kunimikami.com/jp/discography/discography.html

<共演者の2人、池田聡、横山和明について>

・池田聡(ベース)

今回初めて彼の弾くウッドベースを聴いた。ソロパートでの端正な音づかいが印象的だったのは〈J.S.バッハ/インベンション 第4番〉で、できれば彼のソロをもっと聴きたいと思った。
池田聡の公式サイトを見ると、プロフィールやスケジュールなどが記載されている。コンサートの後、彼の父が池田芳夫であると知った。ジャズピアノを高瀬アキに師事、とも記されており、日本のジャズ歴史を垣間見たような気がした。

http://www1.odn.ne.jp/~cfm62880/satoshi.htm

・横山和明(ドラム)

今回、ユーモアあふれる演奏を披露した横山和明は、2019年2月に権上康志(ベース)の帰国ライヴで聴いた。市原ひかり、片倉真由子が共演し、満席となった神戸の『萬屋宗兵衛』で、要所を見極めるように叩き込むプレイに息を呑んだ。

以来、東京の人気実力派ドラマーという印象だが、最近の彼のスケジュールを見ると、日本ジャズ界の最前線で活躍するプレイヤーの1人と実感する。

横山和明ブログ「タイコ叩きの日記」:
https://blog.goo.ne.jp/klookmop

<参考:「0才からのジャズコンサート」とは>

クニ三上公式ホームページより、引用:
「0才からのジャズコンサート」は「子どものためのコンサート」ではなく、赤ちゃんから大人まで「誰もが入場できる本格ジャズコンサート」です。
大人だけでのご来場も大歓迎ですが、会場に子どもたちがいることをご了承の上、ご来場ください。
…(続きは、下記リンク参照)

http://www.kunimikami.com/jp/0jazzc/0saikaranojazz.html

 

 

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Local(国内) News
11/02~12/14 クニ三上 秋のツアー2019
「0才からのジャズ」「午後ジャズ」

〔CD/DVD Disks Reviews ~No. 201〕

#580『三上クニ/2&3~デュオ・アンド・トリオ』

以下のリンクは本文中に入れました。
〔Hear, there and everywhere 稲岡邦弥 No. 244〕

Hear, there and everywhere #12『クニ三上/0才からのジャズ〜Keep on Swingin’』

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岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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