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Concerts/Live Shows特集『ECM at 50』No. 261

#1118 EAST MEETS EAST「日本/韓国のこころの歌」

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

EAST MEETS EAST「日本/韓国のこころの歌」
2019年12月14日(土)
すみだ産業会館 サンライズホール

福盛進也(ds)
ソンジェ・ソン(sax)
イエウォン・シン(vo)
ジン・ヤン・パーク(p)
さとうじゅんこ(vo)
甲斐正樹(b)
スペシャル・ゲスト:加藤登紀子(vo)

じつのところ、本誌の年末企画、2019年を振り返る「My Pick 2019」海外組では東京JAZZ 2019 に出演した「チャールス・ロイド Kindred Spirits」と渋大祭で渋さ知らズオーケストラとステージを分けた「サン・ラ・アーケストラ」がいちばん印象に残っており候補に挙げていたのだが、つい最近聴いた日韓ミュージシャンによる『East Meets East〜日韓こころの歌』に激しく心を動かされることになった。ねじれきった日韓の政治や経済問題を抱えながらという感傷的な部分も多少はあったかもしれないが、それを抜きにしても 50周年を迎えたECMがアジアで咲かせたひとつの花として、しかも日韓の新世代ミュージシャンの手になるコンサートとして高く評価したい。
ECMが25周年を迎えた1994年には「ECM25周年アニバーサリ・フェス」が組まれ、6組のECMユニットが2組ずつ3回に分けて来日、当時のライセンシー、ポリドールのサポートを得て東京、名古屋、神戸で3回ずつ公演を行った。ジョン・テイラーpやルイ・スクラヴィスclが来日したのもこの時が初めてではなかったろうか。しかし、50周年の今年、Cotton Club東京が散発的にECMのユニットをステージに上げただけの現状にやるせない思いをしていたなかでの本公演だった。
このイベントはECMから昨年アルバム『For 2 Akis』(ECM2574)をリリースした福盛進也が同じくECMから『Near East Quartet』(ECM2568)をリリースしたサックス奏者のソンジェ・ソンとソウルで出会い意気投合、ミュンヘン在住のヴォーカリストで彼らに先立ってECMから『Lua Ya』(ECM2337) をリリースしていたイエウォン・シンを加えて日韓のECMアーチスト3人が揃い、プロデューサーの花井雅保が手を貸して成立したものだった。韓国でも数回のコンサートをこなした後、東京で何人かのミュージシャンを加えての東京公演だったが、ECMアーチストによるアジア発のこの手作り公演がアジアにおけるECMの今後の展開を示唆していると言っても過言ではないだろう。プロデューサーを志向している福盛とECMの新鋭プロデューサー、韓国出身のサン・チョン、それにイベント・プロデューサーの花井雅保らが組んでアジアから新しいムーヴメントを起こしていく、そんなことさえ夢想させる出来事だった。
当夜の素晴らしさで特筆されるべきはアンサンブルとプログラミングだろう。ヴォーカルとインストゥルメンタルが一枚の上質な織物のように紡がれていくさまには思わず息を呑んだ。日韓のメロディー(童謡や歌謡を中心とした)とことばがなんの違和感もなくひとつに溶け合っていく。空中を舞っていくイエウォン・シンのソプラノによる即興、民の声を代弁するさとうじゅんこのアルト(藝大ではソプラノだったようだが)。韓国と深くコミットする特別参加の加藤登紀子の歌の存在感も際立ち、生々しいトークにはあらためて厳しい現実を突きつけられた。
福盛進也とソンジェ・ソンの双頭バンドはこの後も数回の公演を予定しており、福盛はさらに日本のさまざまな新世代ミュージシャンとバンドを組み替え来年 (2020年)まで全国をツアー、新しいネットワークとシーンを形成していく。個々のミューシシャンの音楽性と自己主張はあらためてその場で確認できるだろう。

当日のセットリストはほぼ下記の通り。リクエストを交えた日韓の童謡、民謡、歌謡で構成されている。
Flight of a Black Kite (福盛オリジナル)
イムジン河
秋田長持唄
他郷暮らし
3びきのくま
悲しくれやりきれない
鳳仙花 (加藤登紀子)
二等兵の手紙 (加藤登紀子)
木の葉船 (韓国童謡)
赤トンボ
愛燦燦
トラジ
アリラン
Encore.
赤トンボ〜トラジ

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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