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Concerts/Live ShowsNo. 219

#898 シャイ・マエストロ・トリオ Shai Maestro Trio

2016.6.11 20:00 6.12 17:00 Cotton Club Tokyo

Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Yasuhisa Yoneda米田泰久 courtesy of Cotton Club

Shai Maestro (p)
Jorge Roeder (b)
Ziv Ravitz (ds)

6/11 20:00
1. New River New Water
2. Cinema G (Ziv Rabitz)
3. Water Colors
4. From One Soul To Another
5. Painting
6. Treelogy

Ec Body and Soul

6/12 17:00
1. New River New Water
2. Looking Back
3. Smile (Charlie Chaplin)
4. Gal
5. Paradox

EC. Invisible Thread

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いま最も注目すべきピアニスト、シャイ・マエストロがマーク・ジュリアナ・カルテットで来日したのが2016年1月。直後1月16日ニューヨーク「ウインター・ジャズフェスト」でのシャイ・マエストロ・トリオのレポートをお届けしたが、トリオ来日の機会は意外に早くやってきた。このトリオは2013年3月に初来日、次いで2014年2〜3月、青山ボディ&ソウル、新宿ピットインなどで全国ツアーを行っている。トリオのメンバーは変わらず、『Shai Maestro』以来3枚のアルバムをリリースしている。2015年9月にはシャイはピアノソロ公演で来日している。

シャイ・マエストロは1987年2月5日イスラエル生まれのまだ20代。5歳からピアノを始め、8歳でオスカー・ピーターソンのジャズに出会う。バークリー音楽大学から全面的奨学金をオファーされながら辞退し、アヴィシャイ・コーエン (b) に誘われてマーク・ジュリアナとともに2006年〜2011年にアヴィシャイ・コーエン・トリオに参加。2009年ニューヨークに活動の場を移し、多忙を極めている。

ベースのホルヘ・ローダーは、1980年ペルー・リマ出身、14歳でチェロを始め、2年後サンクトペテルブルグのリムスキー=コルサコフ音楽院に学び、2001〜2002年にリマ交響楽団・オペラ管弦楽団の次席コントラバス奏者を務めた後ボストンへ。ニューイングランド音楽院から奨学金を得てジャズを学ぶ。2007年の国際ベーシスト協会ジャズ・コンペティションで1位を受賞。ジュリアン・ラージのアルバムで2009年のグラミー賞にノミネートされ、アントニオ・サンチェス、ケニー・ワーナーとも共演している。

ジヴ・ラビッツは1976年、イスラエル生まれで地元やテルアビブでの活躍の後、2000年にバークリー音楽大学へ。リー・コニッツやエスペランサ・スポールディングと共演。アヴィシャイ・コーエン (tp) が参加したリーダー作『Images from Home』をリリースしている。

ライブは静かなピアノソロに始まり、やがてベースとドラムが流れに加わり、うねりをともなう美しい音楽が繰り広げられ、ジヴの繊細なドラミングが印象に残りつつ、再びピアノソロで締め括られる。11月リリース予定という次作アルバムから<New River New Water>。シャイによれば、スウェーデンで5月に新作の録音を完了し、11月のリリースを予定しているという。3月22日のシャイからのメッセージには、特別なミュージシャンも加わり、トリオよりも大きな編成になると書いてあった。11日3曲目、ホルヘがアルコで弾き、口笛も加えて演奏された<Water Colors>も次作からだという。もしかすると『Pat Metheny / Water Colors』のように、水にまつわる曲を集めたのだろうか。

1曲目を除きセットリストは全く重ならない。トリオ3作目『The Untold Stories』から11日には<Painting>と<Treelogy>、12日には<Looking Back>と<Gal>(日本盤のみ収録)、2作目『The Road to Ithaca』から11日に<Cinema G>、12日に<Gal>と<Invisible Thread>という構成になっている。

いまどきのピアノトリオだけにジヴの複雑で細かいドラミングが際立つが、他方、シャイのシンプルなフレーズの繰り返しであったり、シャイとホルヘの歌うような心地よいユニゾンであったり分かり易い。曲も、変拍子を使い過ぎるとか見かけで複雑なことはしないのだが、曲途中でのビートの繰り出し方、心の底から感情が湧き上がるコードの動き、ゆるやかな時間とスピード感の共存など、生理的レベルでの感情の奥底まで入り込んで来る魔術に驚嘆する。いや、観客の生理的レベルに入り込む以前に、今回、3人の止まらない笑顔と恍惚の表情に気づかされた。自らのサウンドの海に溺れる”知的なトランス状態”なのではないか。

11日第二部はバラード<Body and Soul>で締め括る。いままで聴いた<Body and Soul>の中で最も美しい演奏。よく考えたらこれまでも青山ボディ&ソウルに捧げて演奏されてきた一曲。12日には途中、チャーリー・チャップリンが映画『モダン・タイムス』のテーマに自ら作曲した<Smiles>が演奏され、本当に美し過ぎるバラードだった。いずれもテーマを強く打ち出すよりも、美しいサウンドの海の中にテーマがより輝きをもって浮かび上がるようであった。

12日のアンコールは<Invisible Thread>。ピアノでのイスラエル的なシンプルな旋律を、モダンなドラミングとベースラインが包み込む美しい魅力的なサウンドの中で、切なさと高揚感が交錯する。次回来日が待ち遠しくなるような最高のエンディングを演出した。

今回、コットンクラブという素晴らしいハコで、充実した演奏を聴かせてくれて満足だったが、他方、2013年、2014年が全国ツアーだったことに比べると、今回は残念ながら東京公演のみということで、日本各地からコットンクラブにファンが集まっていたことがわかった。ライブを続けながら進化していくこのまだ若いトリオには、日本全国を巡りながら日本のできるだけ多くのジャズファンと時間を共にして欲しい。シャイに限らず、ブルーノート系に関西や地方の老舗クラブでのツアーが共存するようなブッキングにも期待したい。

1月ニューヨークでのWinter JazzFestでもマンフレート・アイヒャーがシャイに嬉しそうに話しかけているのが目撃されたが、類似性ではなく、独創性やスピリットという点も含め、シャイはECMの創ってきた音楽、またキース・ジャレット的なる感性の正統な継承者だと思っている。マンフレートの地中海・中東音楽への関心、現代ジャズのイスラエル組の活躍とも併せて期待は膨らむ。20代までにシャイは何を見てしまったのか。自ら「スポンジのように何でも吸収するという」シャイがこれからの音楽人生で、私たちをどこに連れて行ってくれるのか、まだ見ぬどんな世界を見せてくれるのかが楽しみでならない。そして日本のリスナーもシャイの感性とスピリットを受け止め、響き合い、支えて行く大切な役割を果たすことができると思う。

【関連リンク】

Shai Maestro Trio at Cotton Club 2016
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/shai-maestro/

Winter JazzFest 2016
http://www.winterjazzfest.com

Shai Maestro official website
http://shaimaestro.com/

Jorge Roeder official website
http://www.jorgeroeder.com

『Shai Maestro Trio / Untold Story』 Behind the Scene

『Shai Maestro Trio / Untold Story』 公式PV

ECM @ NYC Winter Jazzfest‬ (ECM Records 公式YouTube)‬‬‬‬

Mark Guliana Jazz Quartet 公式PV

 

【JT関連リンク】

Shai Maestro Trio – Winter JazzFest 2016

Mark Guiliana Jazz Quartet 2016

Mark Guiliana Jazz Quartet/Family First

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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