#78 近藤等則 meets トム・レイズ/VISIBLE SOUND

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2006年4月16日@UPLINK FACTORY

text by Kazue Yokoi  横井一江

VISIBLE SOUND
近藤等則(electric tp)
meets
トム・レイズ(painter)

近藤等則が東京で活動を再開させるという。1993年に音楽活動の拠点をアムステルダムに移してからは、“地球を吹く”での大地との共演や“Mt. Fuji Aid 2000”、“世界聖なる音楽祭・広島2001”などのイベント、また、端唄・小唄の栄芝との共演やピカドン・プロジェクトなどの話題は耳にするものの、実際にそのライヴを見る機会は東京では少なかっただけにその活動が注目される。

今回のライヴは、画家トム・レイズとの即興パフォーマンス。ライヴ・ペインティング自体決して新しいものではないが、トム・レイズの場合、単に音楽に合わせてそのイメージを描くのではなく、自身の創作をS.U.S.H.=Subjective Understanding Subconscious Heterodox (主観的潜在意識に存在する異説)と名付けている。コトバにすると難解になってしまうが、そのコンセプトは「先入観と潜在意識の中に潜む、創造的誤りが重なり合って生み出されるものと、自分の哲学的思考が結合して形成されたもの」であるという。実際のパフォーマンスにおいて、レイズは近藤のサウンドを無意識下の身体でじっと受け止め、湧き起こる内なる衝動をキャンバス上に描く。絵の具をチューブからキャンバスへ投げつけたり、手で直に描いたり、竹箒でこすったりして創作する。それはとてもプリミティヴで、近藤が発するビートに呼応して体を揺らしながら描く姿そのものはダンサーのようでもあり、音楽への反応の仕方はミュージシャンのようでもあった。近藤のエレクトリック・トランペットの音色は彼独自のもので、ジャズを通り抜けてきた音がする。その音位相は不思議なくらいナチュラル。もはやどこかからの借り物ではなく、近藤でしか出せないサウンドだ。そのヴァイブレーションで小さなスペースの中にユニヴァーサルな音空間が現われるのだ。結果として出来上がった9枚の絵は作品として自立しているが、プロセス自体が創作表現であり、絵はパフォーマンスの証にすぎないともいえる。アートの最も原初的で純粋な姿がそこにあったと言っていいだろう。

同じ都市でも歴史的に自由と寛容な精神を持つアムステルダムとは性格も異なり、いささか息苦しい21世紀の東京で近藤はこれからどう動くのだろう。ノマドのように地球上を旅しながらトランペットを吹いてきた自由人は、都会にすむ現代人が日常の中で落っことしてしまった大切なものをふと気付かせてくれるような気がする。

(初出:JazzTokyo #22,  2006年5月21日更新)

横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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