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Concerts/Live ShowsNo. 272

#1154 マクイーン時田深山+神田綾子

Text by Akira Saito 齊藤聡
Photos by t.yoshihisa
Flyer art/design @mysterycuts

2020年11月14日(土) 下北沢・No Room for Squares

マクイーン時田深山(十七絃箏)
神田綾子(ヴォイス)

1. Miracle (CocoRosie)
2. Improvisation
3. Improvisation
4. Anchor Song (Björk)

ふたりは初共演だが、出逢ったのは1年半前のこと。深山はニューヨークに半年間留学している間、現地の即興演奏家たちとの共演を行うだけでなく、他のギグを観るためにあちこちに足を運んでいた。そのひとつが、スティーヴン・ガウチ(サックス)がブルックリンのブッシュヴィックにおいて定期的に多くのミュージシャンを集め、5セットくらいの即興演奏のギグを開いている場だった(現在はコロナ禍で休止中)。ドラムスのアンドリュー・ドゥルーリーが深山に観にくるよう誘い、頻繁にニューヨークに出かける神田はその中でライヴを行っていた。すなわち、旅、場、縁によってつながってゆく現代の即興演奏シーンのひとこまである。

このライヴでは最初と最後に曲が演奏され、その間はすべて即興演奏がなされた。

冒頭の短い<Miracle>(ココロージー)のイントロにおいて、深山は低音部の弦を鳴らし、彼女が表現の拡張に適していると考える十七絃箏が英語でベース箏と呼ばれることを思い出させる。追って神田がかすれ声で入り、そのまま即興に突入する。応じる深山の音は艶やかであるとともに充分な強度を持っている。

続く即興演奏では、まずは自己紹介のように長めのソロを行い、それぞれの個性をみせるものとなった。深山は左手で弦を押さえて音を歪ませ、激しくかきならしたりもして、ときに満を持して低音を強く響かせる。箏をパーカッションのように扱いもする。バトンを受け渡された神田は巫のように表現した。向こう側への橋として、森の梟にも、少女や老婆にも化けてみせる。

個々の音風景を経て、ふたたびふたりが音を重ね始めた。深山はビニールも使い、縦横にダイナミックに移動する。ときに低音側と高音側との間を左右の手で反対方向にグリッサンドしたり、端を弾いてピキピキという音を出したりするおもしろさがある。神田はつぎつぎに新たな法則を見出すかのように歌った。

セカンドセットの即興演奏はまた様相が異なった。神田はかすれ声から内部へと沈んでゆき、生命の淵のように喉を鳴らす。深山は執拗に同じ旋律を繰り返していたが、やがて、低音側の弦を同時に鳴らしてサウンドを複雑なものにする。それは、齋藤徹(コントラバス)が深山の師匠筋にあたる沢井一恵の演奏に触れ、身体とは反対側、低音の崖から落ちていく感覚を新鮮なものと捉えたことを思い出させる力を持っている。

ここからは居眠りもできない相互作用。深山は右手の爪と左手の指で同時に弾き星を瞬かせ、また左の掌を力強く消音に使ったり、ものさしを弦の上でスライドさせたりとさらなる多様化をみせる。神田は時間の流れを体内でコントロールしつつ、ヴォイスを生命の循環のようにつなげあわせもする。深山は一音一音に焦点を当て、神田は重みをもった泡を創出し、この即興を収束させた。

この時点で次への予告のように、<Lionsong>だったか、それとも<Black Lake>だったか、ビョークの曲の断片が深山の箏から聴こえた。というのは、最後を締めくくる曲は彼女の<Anchor Song>なのだった(演奏後に深山に訊くと、次の曲のことが念頭にあって無意識的にビョークを引き寄せたかもしれないと言った)。ビョークのファンだという深山が以前から演奏している曲であり、「I live by the ocean…」と神田が恍惚とした雰囲気でありながら重い音塊を投げ、深山も踏み込んでゆく。深山が手の甲で音を止めると時間もまた止まり、どきどきさせられた。

美大出身の神田は、抽象画を描くようにパフォーマンスを行うのだと話した。一方の深山は、伝統からスタートして、もっともアグレッシヴな即興演奏を行う箏奏者のひとりとなっている。ふたりともシンプルなものをコアに置いて表現を拡張しており、デュオの即興演奏がその模索にふさわしい形のひとつだということを示すライヴとなった。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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