#1162 纐纈雅代+神田綾子

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Text by Akira Saito 齊藤聡
Photos by Lorenzo Menghi ロレンツォ・メンギ

2021年3月27日(土) Electrik神社(東京・六本木)

Masayo Koketsu 纐纈雅代 (alto sax, electronics, percussion)
Ayako Kanda 神田綾子 (voice, vocal)

1. Improvisation
2. Improvisation
3. Improvisation ~ How Deep Is The Ocean? (Irving Berlin)
4. My One and Only Love (Guy Wood, Robert Mellin) ~ Improvisation
5. Improvisation (Encore)

サックスの纐纈雅代はリトアニアにおいてパーカッショニストのダリウス・ナウヨカイティス・ナウヨ(NYで活動中)のオーケストラに参加したのだが、そのダリウスに「神田綾子を知っているか」と言われたという。神田の活動が東京以上にむしろNY界隈で認知されていることも背景にあった。それがきっかけになってふたりの縁ができた。去る1月(2021年)のNo Room for Squares(東京・下北沢)でのデュオを経て、この日、2度目の共演が実現した。

前回の共演場所は細長いバーだったこともあって、纐纈は神田の動きを視ながら、また神田は前に立って纐纈の音のみを聴いてプレイした。たしかに双方向の影響がみられる刺激的なデュオだったのだが、よりコミュニケーションを取る潜在的な領域もまたあった。広めのステージを確保したこと、それに同世代のふたりがより親密になったことが、今回の共演の意義のようなものである。

ファーストセットは20分ほどの即興をふたつ。ざっくりいえばそれぞれに5個くらいのシークエンスがあって、潮目が変わるたびにふたりは演奏のアプローチを意図的に変えた。その構築をリードしたのは神田である。

ひとつめは、神田の呼吸からの発展とアルトの追従、ふたりの加速と並走、旋律的なヴォイシングとアルトの長いうねり、断片の収集、空白を多めにとってのささやき。神田のヴォイスが胆力とともに提示し続ける多様さにはあらためて驚かされる。ときに、トゥバ共和国のヴォイス奏者サインホ・ナムチラクと韓国のサックス奏者姜泰煥とのデュオ『Live』(Free Improvisation Network Record、1993年録音)を想起させる巫的なコミュニケーションの瞬間があった。共通するのは、即興ヴォイスがもつ俗でないなにものかに「なる」という領域に、サックスもまた足を踏み入れたときだということだ。

ふたつめでは、纐纈がパーカッションやエレクトロニクスを弄びはじめた。この日、実は共演を予定していたカール・ストーン(エレクトロニクス)が諸事情で不参加となったのだが、その気分をもちこんでの遊びのようなものにみえた。ふたりとも音のコアを決めてそこからトポロジカルな発展を行うことに注力もした。そして、それまで潮目を変える役割はおもに演奏全体を俯瞰することに自覚的な神田のようにみえていたが、途中で纐纈がオリエンタルでも幽玄でもあるアルトを吹き始めたときは、彼女もまたその担い手となった。これがひとつめとの大きな違いとなった。また、ふたりが接近と離脱を繰り返すときの粘着力の強さが、関係が近くなったことの証明のように思えた。

セカンドセットでは纐纈がエレクトロニクスをより愉しんで使いはじめ、神田は電子世界の住人となった。あくまで気が向いたときに指を動かしているだけに、コズミックではあっても、たとえばイクエ・モリのそれよりも軽やかで重力から解放された音風景の投影のような効果をもっていた。やがて神田は<How Deep Is The Ocean?>を静かに口ずさみはじめ、纐纈がうた世界の住人になりつつ次第に音圧を高めていった。

続く<My One And Only Love>ではふたりのコントラストがはっきりと出た。神田はここでうた世界を気持ち良さそうに提示し、纐纈は重音、顎を上に突き出しての太い音(喉を開けて大きめの共鳴効果を狙っているのかと思ったのだが、あとで訊くと、アンブシュアの角度を変えるおもしろさを意識しているとのこと)、ダブルリップでの効果音を放った。神田は横で愉しそうに笑っている。そこからの即興は強度を驚くほど増していった。

2度の共演でここまで変容したデュオ。3度目があるとしたらまたさらなる驚きがあるだろう。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』、『温室効果ガス削減と排出量取引』(共著)、『阿部薫2020』(共著)、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(共著、細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』(共著)など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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