#1165 宮本貴奈 『Wonderful World』at ブルーノート東京

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Text by Hideo Kanno 神野 秀雄

宮本貴奈 TAKANA MIYAMOTO
『Wonderful World』ミュージック・ペンクラブ音楽賞 最優秀作品賞受賞記念 スペシャル・ライヴ

2021年6月2日(水) 17:00 19:30
ブルーノート東京 Blue Note Tokyo

宮本貴奈 Takana Miyamoto: piano, vocal
Pat Glynn パット・グリン: bass
菅野知明 Tomoaki Kanno: drums
Guests:
佐藤竹善 Chikuzen Sato: vocal
小沼ようすけ Yosuke Onuma: guitar
中川英二郎 Eijiro Nakagawa: trombone
中西俊博 Toshihiro Nakanishi: violin
tea: vocal

=宮本ソロ=
Fragrant Forest – 香る森
=トリオ=
Blue Motion
=トリオ+中川英二郎=
Lady T’s Steps
It’s All Up To You
=トリオ+中西俊博=
Tea for Two
=宮本貴奈+中西俊博=
River of Time
=トリオ+小沼ようすけ=
Driftwood – 流木
=トリオ+小沼ようすけ+tea=
For H
=トリオ+佐藤竹善=
Hello Like Before
=トリオ+佐藤竹善、tea、小沼ようすけ=
Just the Two of Us

=トリオ+佐藤竹善、小沼ようすけ、中川英二郎、中西俊博=
EC: What a Wonderful World

宮本貴奈は、茨城県結城市出身、アメリカとイギリスに20年在住。5才からエレクトーンを始め、14歳からピアノに転向、作曲を学び、高校卒業後バークリー音楽大学へ留学、映画音楽&ジャズ作曲学科を卒業。1998年からニューヨークを拠点に活動スタート、参加作が2001年グラミー賞2部門でノミネート。アトランタに拠点を移し、ジョージア州立大ジャズ教育学科修士課程修了。2008年にカーク・ウェイラムとの共作『Promises Made』が全米ビルボード・ジャズ・チャートの5位を獲得した。筆者が最初に宮本を意識したのは、2008年、TOKUのアルバム『Love Again』のプロデュースからだった。現在、国立音楽大学ジャズ専修講師も務めている。

7年ぶりのリーダー作『Wonderful World』は、宮本が敬愛し、かつ宮本に信頼を寄せる音楽仲間を豪華ゲストに迎えて完成させた一枚で、初めて自身のヴォーカルも披露した。本作は、第33回ミュージック・ペンクラブ音楽賞で最優秀作品賞を受賞し、今回の受賞記念のブルーノート東京公演では、佐藤竹善、小沼ようすけ、中川英二郎、中西俊博、teaをゲストに迎えた。 なお、アルバムでは他に、石若 駿、大儀見 元、川村 竜も参加している。

<Fragrant Forest – 香る森>の静かなピアノソロから始まる。八ヶ岳高原をイメージしているが、マーチ的なリズムやケルト風ハーモニーも秘め、やがて力強く、前向きでストーリーが始まる感覚を醸し出していく。そして<Blue Motion>の熱いフォービートへ。ブルースとモーダルな感覚を行き来するような高揚感のある1曲で、モーションブルー横浜の楽屋で書き上げたのでこのタイトルとなった。

トロンボーンの中川英二郎が登場。中川は宮本に絶大な信頼を寄せ、自身のプロジェクトの多くを共にしており、7月28日朝5:00放映予定のNHK-BSP「クラシック倶楽部」にも、6月29日の「中川英二郎×エリック・ミヤシロ×本田雅人SUPER BRASS STARS meets 新日本フィル」にも宮本を呼んでいた。<Lady T’s Steps>では、二人のファンキーな持ち味が発揮されるが、もともと2人でback to backのやりとりしながら1曲を作るつもりが、宮本がイントロを送ったところ、中川が勢いでほとんど一人で書いてしまったという。<It’s All Up To You>の軽快なプレイ、絶妙な間合いが心地よい。宮本、中川とも力強いグルーヴと色彩感の広さを持つ二人だからこその時間を楽しむことができた。

『Wonderful World』では、宮本が初めて本格的にヴォーカルに挑戦した。<Tea for Two>を中西のスインギーなオブリガードと絡み合いながら歌い上げる。低音が膨よかに響く魅力的なアルトの声、そしてグルーヴと歌心に溢れ、歌伴に最高の能力を発揮する宮本が、ピアノとヴォーカルを同時に手にして”うた”を紡ぎ出すのを聴くのはは至福のひとときだ。それは一般論でヴォーカリストとしての力量を図るのとは別の話で、見渡すとエスペランサ・スポールディングやカミラ・メサにしてもヴォイスが楽器の表現力を拡げている。<River of Time>は、宮本がかつて住んでいたオックスフォードのイメージだという。

ギタリスト小沼ようすけと宮本は2012年から「Double Rainbow」というデュオプロジェクトを継続していて、アルバム『Voyage』をリリースしている。茨城県ひたちなか市の阿字ヶ浦海岸で流木に座っているときに着想した<Driftwood – 流木>で息のあったインタープレイと、二つの楽器の響きあい、透明に広がっていく空気感を魅せる。驚いたことに、次はケニー・ホイーラーの『Music for Large and Small Ensemble』(ECM1415-16)の中でも人気の高い<The Sweet Time Suite>から<For H>を。後で気づいたら、宮本はアルバム1曲目にケニーの名曲を当てた。<For H>にはインド生まれのteaが参加。ノーマ・ウィンストンのパートをtea、ジョン・アバークロンビーのパートを小沼、ジョン・テイラーのパートを宮本が担当することになる。この演奏は全てが見所と言える本公演にあっても、大きなハイライトとなる素晴らしい演奏となった。宮本がケニーを敬愛しているということを知ったのも嬉しかった。

Sing Like Talkingや、塩谷 哲とのSalt & Sugar、カヴァープロジェクトCornerstonesなどで幅広く活動するシンガーソングライター佐藤竹善にとっても、ジャズ寄りのライヴで最も信頼するピアニストの一人が宮本で、2020年末のクリスマス・ライヴも宮本が担当し、『My Symphonic Visions – CORNERSTONES 6』のオーケストラアレンジを担当したが、ゲストに佐藤竹善というのはあまりに豪華だし、ブルーノート東京で佐藤を観る機会も貴重な気がする。2020年3月30日に亡くなったビル・ウィザーズへの追悼を込めて、<Hello Like Before>と、 グローヴァー・ワシントンJr.名義のヒット曲<Just the Two of Us>(邦題: クリスタルの恋人たち!)と続けるが、佐藤の圧倒的な歌唱力とそれをがっちり支える宮本のピアノの凄さを見せつけられる。ラストには、tea以外の全員の参加で<What a Wonderful World>を歌い上げた。

会場には今最も注目されるピアニストの一人角野隼斗(かてぃん)の姿も見えたが、角野がジャズのヴォイシングを習いに行ったのが宮本だった。CASIO presents JAZZ at Homeでは角野と宮本の対談とデュオを聴くことができる。また、国立音楽大学ジャズ専修でも多くの生徒たちを指導し、後進に大きな影響を与えている。そんなことまで含め、宮本貴奈ワールドの音楽的にも、人脈的にも、国際的にも、どこまでも広がっていく可能性を楽しさと快適さの中に気持ちよく見せてくれた素晴らしいライヴとなった。今後の活躍に期待していきたい。

宮本貴奈からのメッセージ 『Wonderful World』発売記念&受賞記念ライブ@ブルーノート東京 2021年6月2日

Rainbow 宮本貴奈(p), Pat Glynn(b), 石若 駿(ds)

『Double Rainbow / Voyage』 小沼ようすけ×宮本貴奈

懐かしき未来への旅、南砺。

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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