#1172 吉田達也+照内央晴

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Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

2021年8月8日(日) 渋谷・公園通りクラシックス

Tatsuya Yoshida 吉田達也 (drums, voice)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (piano)

ルインズや是巨人などプログレッシヴ・ロック領域の吉田達也と、アコースティック音にこだわる即興領域の照内央晴とのデュオと聞いたとき、かなり意外な組み合わせに思えた。だがかれらの活動を振り返ってみれば、なにも驚くことではない。照内はずっと越境に挑戦し続けている。また吉田も、たとえばデレク・ベイリー(ギター)やクリス・ピッツィオコス(サックス)ら新旧問わずアヴァンギャルド・ジャズの猛者たちと手合わせしてきたし、同じ形式ということであれば藤井郷子(ピアノ)とのデュオがあった。そして、この共演のきっかけは、照内が田村夏樹(トランペット)とのデュオを吉田・藤井デュオの対バンとして演ったときに生まれたのだという。

とはいえ、2020年9月9日・荻窪ベルベットサンにおける初演時には異種同士の模索のプロセスがあったことは確かである。演奏のはじめから照内はフルスロットルで低音域の轟音を活かしつつエネルギーレヴェルをどんどん上げてゆき、驚いた吉田から合間に「いきなり大丈夫ですか」と声を掛けられる展開があった。これは照内にしては珍しい。というのは、短い旋律や和音によって相手との間合いを探り、その場の即興サウンドを作り上げていくのが照内の流儀だからだ。一方で、これまでには、強力な共演者によって隘路に詰められ、思いもよらない反応を示すおもしろさもあった。初演時の照内には、先に自らを隘路に追い詰める意識があったのかもしれない。

この日は、高円寺のJIROKICHI、越生町の山猫軒での共演を経て4回目の場である。演奏前には、照内はもはや手探りをせずこうと決めて突き進むのではないかと予想した。だが、そうではなかった。むしろ、圧の強い吉田のドラムに圧で立ち向かうのではなく、(PAを通しているとはいえ)ピアノという楽器の特性に固執するようにみえた。その結果、音量で押されていても、固執の存在感で拮抗する局面は少なくなかった。

吉田はタムとスネアから鋭くテンションの高いパルスを放ち続ける。それはときに身動きできなくなるほど圧倒的で愉快なものなのだが、かれのおもしろさはスピードとパワーにのみあるわけではない。バスドラムやシンバルもためらいなく同列に鳴らすコンビネーションは刮目すべきものである。それによるサウンドの大きな揺らぎや円環を照内が受け止め、鍵盤の左から右までの大きな動きにする瞬間があった。呼応という点では吉田の動きこそ感嘆すべきもので、ピアノによるなんらかの策動を幾度となく受け止め、多彩な音として提示した。また、ときに挿入するヴォイスは妖風のように作用した。

そして、アンコールに応じ、締めくくりのゆえか照内が安堵したように自身のイメージ世界を展開した。それを受けて、マレットでバスドラムやシンバルを柔らかく擦り、低音の雲を抽出した吉田はみごとだった。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』、『温室効果ガス削減と排出量取引』(共著)、『阿部薫2020』(共著)、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(共著、細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』(共著)など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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