#1177 RINA Trio with 佐藤潤一、小田桐和寛
at JZ Brat SOUND OF TOKYO

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Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Junichiro Nomi 能美潤一郎

RINA Trio with 佐藤潤一、小田桐和寛
2021年11月29日 18:00-20:20 JZ Brat SOUND OF TOKYO
RINA: piano
佐藤 潤一 Junichi Sato: bass
小田桐 和寛 Kazuhiro Odagiri: drums

Don’t Think Too Much
Shadows of the Mind
Wonderland
Moon River (Henry Mancini, lyrics: Johnny Mercer)
We are All in This Together
Foxglove

J.J’s Painting
With You, Always
Tones for Joan’s Bones (Chick Corea)
Meomories
Run and Rise

EC: Hope -RINA solo-

All composed by RINA except noted

期待を遥かに超えて、本当に素敵な楽しいライヴだった。ファーストアルバム『RINA』発売記念ライヴにあたり、結成間もないRINA Trioとしては、10月24日、浜松でのヤマハ・ジャズ・フェスティヴァルに続く東京での初ライヴ。『RINA』は2019年12月に中村泰士(b)、ジェローム・ジェニングス(ds)、小曽根真のプロデュースでニューヨークで録音されたが、COVID-19下の2020年9月発売となり世界と日本での演奏の機会を逃していた。筆者はRINAのピアノを何度か聴き魅せられていて、また佐藤潤一と小田桐和寛の才能には注目していてよくライヴに通っていた。それだけに素晴らしいライヴにならない訳はないと思ったが、1+1+1=3を遥かに超える新しい世界が生まれ今年のベストライヴの一つになった。まず3人のプロフィールを紹介したい。一見、国立音楽大学の仲間のように見えるが、小田桐はクラシックの打楽器科で学んでいたし、少しづつ世代がずれ多様性を生んでいる。

RINAは、埼玉県川越市出身、国立音楽大学ジャズ専修1期生として入学しジャズピアノを小曽根 真に師事。2015年バークリー音楽大学へ入学。在学中、ジャズ·パフォーマンス·アワードを受賞。2018年エリス・マルサリス国際ジャズ・ピアノ・コンペティション2018で第2位と最優秀作曲賞を受賞。バークリー音楽大学卒業後、拠点をニューヨークに移す。米CBSの人気テレビ番組「ザ·レイトショー·ウィズ·スティーブン·コルベア」にジョン·バティステ・バンドで出演し、ミシェル·オバマをゲストに迎え演奏を披露した。2019年、ヴァーチャル·ジャズ·クラブ·コンテストで世界第3位受賞。Dizzy’s Club Coca-Colaでのエリス·マルサリス·プレゼンツ·ウイナーズ·コンサートに出演し大喝采を得た。また4月にはワシントンDCのブルースアレイに出演。2020年9月、ファーストアルバム『RINA』を小曽根 真プロデュースによりリリースするが、COVID-19感染拡大により帰国中。

佐藤潤一は1991年、東京出身。高校生でエレクトリック・ベースを始め、卒業後音楽活動を続けた後に国立音楽大学ジャズ専修に入学し、コントラバスを演奏するようになり、井上陽介、金子 健に師事。在学中からプロとして活動。ニュータイド・ジャズ・オーケストラに参加。JFCオールスター・ビッグ・バンドに2年連続で選出され東京JAZZに出演。小曽根 真のブルーノート東京公演に2020年6月2021年9月に出演。武本和大(p)とのデュオ、武本、きたいくにと(ds)との「KKJトリオ」改め「The Real」を活動の軸に持ち、2020年8月にリリースされた『武本和大/I Pray』に参加。作曲にも才能を発揮し、エレクトリック・ベースの演奏も素晴らしい。国立では佐藤が1年のときにRINAが4年、佐藤は音楽活動開始後に国立に進んだので実は年上という話も紹介された。

小田桐和寛は1987年横浜出身。17歳からドラムスを始め国立音楽大学打楽器科へ進学。ニュータイド・ジャズ・オーケストラに参加し、山野ビッグバンド・ジャズコンテストでは最優秀賞を3年連続で受賞。「山下洋輔賞」を受賞し卒業後、バークリー音楽大学に特待生として留学。バークリー在学中はラルフ・ピーターソン、テリ・リン・キャリントン、ダーレン・バレットらに師事し首席で卒業した。在学中からブルーノート・ニューヨーク、WBGOなどに出演、卒業後6年間ニューヨークを拠点に活動し、黒田卓也、海野雅威、ロニー・プラクシコらと共演。2021年7月には小曽根 真のモーション・ブルー横浜公演に出演。また、すぎやまこういち作曲ドラゴンクエストのサウンドトラック録音やコンサート(東京都交響楽団)に参加するなど活動の幅は広い。CANOPUS海外アーティスト契約、Istanbul ”Agop”エンドーサー。RINAは、高校生のときに、ニュータイドの小田桐を観て、なんてステージで輝いている人なんだろうと思ったと言う。

明るい色彩感の曲<Don’t Think Too Much>から始まる。「ここにいる時間は他のことは考えずにハッピーになって欲しい」という想いで今日のライヴのために書いたと観客への感謝の言葉ととも紹介された。RINA Trioには確かにその場のハッピーな気持ちだけで思わず集中できる。アルバムタイトル曲<Shadows of the Mind>は、物憂げさにスピード感と力強さを伴い、マイナーブルース的進行で、キメが多く表情が変わるテーマと自由な展開にこのトリオの持ち味が活きる。本人の曲解説では「次に何が起こるのだろう?私たちは未知に直面し、、向き合っていかなければなりません。、、挑戦を乗り越える私の心情」とある。<Wonderland>は洋服のポケットにいろいろ楽しい物が溢れているイメージで書いたというジャズワルツ。<Moon River>では、左手の重ための低音を多用して漆黒の夜を感じさせながら、右手の高音域で輝くキラキラ感を表現し、佐藤と小田桐が川と時間の流れを思わせるように響くような至福のひとときとなった。

透明感があるのに分厚い暖かいサウンド、それに暖かく優しく力強く包み込まれる感覚、仲間が繋がる楽しさ。特別なサウンドに圧倒されながら、そんなことを想っていると、ちょうどオリジナルカクテル「We are All in This Together」の説明があり、グラスの縁に砂糖を塗して仲間に囲まれる感じを表現しながら、暖かい色のカクテルにしたと、RINAが目指していたイメージと一致したことに驚く。何年も海外にいて、日本に帰ってくると、COVID-19の中でもあり演奏の機会を持つことも容易ではなくて、そんなときに学生時代の仲間に会い、励まされて、みんな同じ想いであることがだんだんわかってきて、もう一度頑張ろうという気になれた、支え合って生きていこうと思えた、そんな想いをカクテルにしました、、、のようなことを語る。そのイメージで書いた新曲<We are All in This Together>。クールでかっこいい!ここからソロか?と思わせてすぐ終わってしまう潔さも印象的だった。

<Foxglobe>は、オオバコ科ジギタリスの別名。猛毒であり強心剤ともなり、RINAは愛の幸せと心が張り裂けるような痛みの両面性に結びつけてラテンテイストの曲を書き、甘く情熱的なインタープレイを繰り広げた。アルバム録音に参加したドラマー、にジェローム・ジェニングスを意識して書いた<J.J’s Painting>では、小田桐が素晴らしいブラシワークを魅せ、佐藤のベースが心地よく絡む。

<With You, Always>はRINAと姉をずっと支えてくれた父に捧げる曲。父に「離れていてもいつも一緒だよ」というメッセージを込めてこの曲を作り、RINAのピアノと佐藤のベースのユニゾンで始まるが、ピアノをRINAにベースを父に例え共に過ごした時間をイメージしたといい、小田桐のブラシワークとともに感謝と思いやりが伝わってくる演奏となった。

RINAが敬愛し、2021年2月9日に亡くなったチック・コリアへの追悼として、その1966年録音のファーストアルバムから<Tones for Joan’s Bones>を。この曲は小田桐と黒田卓也らのセッションでも何度か聴くことがあり、最近、日本での演奏機会が増えてきた気がする。チックの曲の中では知名度は必ずしも高くないが、RINA Trioのインタラクティヴな演奏にぴったりの選曲で、チックへの想いを胸に、それぞれの巧みな表現と一体感に引き込まれる名演だった。

後半に向けて、さらに音が研ぎ澄まされ洗練されていく。RINAの作曲の妙もあり、RINAと小田桐がアメリカでの経験を積んだことが大きな力となり、それに佐藤の深い感性と高度で安定した演奏技術からの確かなグルーヴとドライヴ感。3人それぞれがたくさん持つ引き出しを全開にするのではなく必要最低限の厳選された音を選び、そして最高の音の響き合いだからこそ、もう素晴らしいとしか言いようがないものだった。この3人で演奏できることが楽しくて仕方がないというようにたびたび目を合わせるメンバーを見ているとこちらも嬉しくなる。

<Memories>は、YAMAHA Real Sound Viewingプロジェクト(ヤマハ銀座店とヤマハ本社で公開中)のために書かれて、大切な思い出を一つ一つ振り返りながら書いた曲。ブレークからの小田桐の鈴の音の清らかさとマレットで締める空気感が心に沁みた。<Run and Rise>は、強い想いを持って挑戦すれば、不可能なことは何もないという気持ちで書いた曲で、高揚感とエネルギーに溢れた演奏。こういった曲でも攻撃的な響きにはならず、サウンドが暖かみと和やかさを増していくのが、まさにこのトリオの魅力であり、3人の暖かい人柄を反映している。

「アルバムを出して取材を受けたときに、何人もの方から『大丈夫だから焦らないで』という言葉をいただきました。たくさんの方に支えていだきました。」「音楽を必要としているみなさんに私の音楽を届けていきたいと思います。」

鳴り止まない拍手にピアノソロで<Hope>で応える。姉の赤ちゃんを見てその瞳が希望に満ち溢れているように感じて書いたという美しいバラード。その美しい響きが会場を包む。佐藤と小田桐も後方から拍手を贈る。

このトリオはまだ始まったばかりだが、緻密でありながら自由で、どこまでも成長し音楽が広がって行きそうで楽しみで、今後に注目したい。”RINA Trio”としてはRINAの曲に絞って演奏するのは当然として、別な企画、別なバンド名になるのかも知れないが、優れた作曲の才能を持つ佐藤と小田桐の曲をこのトリオで演奏するのも聴いてみたいとも思う。機会があれば佐藤のエレクトリック・ベースとの響き合いも聴いてみたい。高度な技術と優れた感性で確かに音楽を創っていくRINA、佐藤、小田桐、3人それぞれの世界での活躍と今後の飛躍を楽しみにしている。

Tale of Small Wishes
「月刊Pianoプレミアム 極上のピアノ2021-2022秋冬号」に楽譜を掲載。

With You, Always
Ellis Marsalis International Jazz Piano Competition 2018

Cherokee

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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