#1191 マージナル・コンソート『空間と戯れる音たち』

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text by 剛田武 Takeshi Goda
photos by 船木和倖 Kazuyuki Funaki

2021年12月11日(土)18:00 – 21:00
横浜 BankART KAIKO
空間と戯れる音たち Sounds and Space in Affection

マージナル・コンソート (Marginal Consort):
今井和雄、越川友尚、椎啓、多田正美

即興ミュージサーカスの楽しみ方

筆者が初めてマージナル・コンソートを体験したのは2016年9月21日今は無き六本木SuperDeluxeだった。地下のクラブの面妖なラインティングの中で展開される4人のミュージシャンのパフォーマンスは、魔界の儀式のように不可思議で、奇怪な楽器・非楽器群に囲まれた場内をふらふらと歩き回る観客は、音と空間が滲み合う境界面を彷徨う夢遊病者のようであった。3時間の演奏が無限に続くかのような時間感覚の麻痺は、あたかも醒めない夢の中で別の夢を見るような非現実的な体験であった。⇒Live Report

それから5年、YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)フリンジのひとつとして開催された公演「空間と戯れる音たち Sounds and Space in Affection」に於いて再びマージナル・コンソートを体験した。楽器や道具や様々なオブジェが設置されたテーブルが四か所に設置され、その間を観客が自由に歩き回って観賞するスタイルは前回と同じ。しかし今回の会場は商業施設の一角の路面に面した開放感のあるスペースで、明るい照明のギャラリーっぽい雰囲気。4人のミュージシャンの一挙一動はもちろん、他の観客の動きや表情もよく見える。そんな環境で観るパフォーマンスは、前回とはひと味違うマージナル・コンソート体験となった。

無数の楽器やエレクトロニクスやエフェクターやミキサーが並ぶ露店の屋台のようなテーブルの周囲に、チューブや角材、木の枝や竹筒、天井から吊り下げられたワイヤーなどの雑多なオブジェが配置されている。それらの機材をとっかえひっかえ使って音を鳴らす4人のパフォーマーと、面白そうな動きや音があるとそちらへ移動し、また別の面白そうなことが始まると次へと移動する観客。観客の中にパフォーマーが乱入して驚かせる。何が起こるか分からないワクワク感が3時間続く大道芸のようなお祭り空間。

筆者の頭に浮かんだのはジョン・ケージがサーカスにヒント得て生み出したマルチメディア・パフォーマンス「ミュージサーカス」だった。2012年11月3日に開催された「ジョン・ケージ  ミュージサーカス」では、東京都中央卸売市場 足立市場という広い会場にジャズ、オペラ、サンバ、模擬競り、読経、ダンス、純邦楽、ガムラン、マグロ解体ショーなど総勢200人のパフォーマーが出演し、同時多発的にパフォーマンスが展開された。ケージの偶然性理論に倣って、パフォーマンスがおこなわれる場所、時間、方向が乱数による偶然で決定され、綿密に指示されていたが、観客および出演者の多くは現代アートや理論とは無関係に、繰り広げられる音楽やパフォーマンスの祭典を心から楽しんでいた。

スケールこそ遥かに及ばないが、即興演奏の粋を極めた4人のミュージシャンによる同時多発演奏であるマージナル・コンソートのパフォーマンスは、不定形な即興音楽のアクロバットを演者と観客が一緒になって楽しむサーカスと言えるだろう。録音されたサウンドだけを聴くと複雑で難解な演奏表現に思えるが、現場での体験は単純明快、自由に音を作り出す歓びに貫かれている。そしてこの場を共有した全参加者の表情を見る限り、演奏する本人が一番楽しんでいるようだった。そんな感慨に浸って帰宅した筆者はさっそく通販サイトで安物のコンタクトマイクを注文した。届いたマイクを鍋の蓋に付けてアンプに繋げた時、筆者なりの“独りマージナル・コンソート”が始まるのである。(2021年12月28日記)

 

 

 

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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