#1192 矢沢朋子 Absolute-MIX presents 2021
Electro-Acoustic Music 平石博一の音楽を中心に〜 minimalism-hybrid sound 〜

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text by Haruyuki Suzuki  鈴木治行
photo by Kazue Yokoi  横井一江/*Absolute-MIX実行委員会提供

 

Absolute-MIX presents 2021
Electro-Acoustic Music 平石博一の音楽を中心に〜 minimalism-hybrid sound 〜

プログラムA:平石博一の音楽

2021年11月22日(月)   仙川フィックスホール
ピアノ:矢沢朋子、井上郷子、川口慈子 ヴィオラ:甲斐史子 エレクトロニクス:有馬純寿

・8ch システムによるエレクトロニック・コンピュータ・ミュージック
[HIROSHIMA (2002), Glass Wall (2015), Silver Bridge (2021), White Window (2015~2021), SPACE (2021) ] ・Scenes 1 for Viola Solo(1995)
・The Sound is coming a long way through the Air for Viola & Piano ( 1987-1995)
・Across the sky for Viola & Piano (1995)
・Up to date for 4 Hands (1990)
・Spiral Path of Piano No.5 for piano solo (2017)
・Lattice Fringe for piano solo World Premiere (2021) 世界初演
・A Vision (2005)
・A Rainbow in the mirror for piano solo (1992)

プログラムB :Electro-Acoustic Music Collection

2021年12月10日 彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
DJ YAZAWA  ピアノ:矢沢朋子  ヴィオラ:甲斐史子  ヴォーカル:太田真紀

2021年12月17日 那覇市パレット市民劇場
DJ YAZAWA  ピアノ:矢沢朋子  ヴィオラ:くによしさちこ、新垣伊津子  ヴォーカル:知念利津子

・Strung Out for Amplified Viola (Violin) (1967) by Philip Glass:
・平石博一のエレクトロニック・ミュージック作品 by DJ Yazawa
・Far away from here for Piano & Electronics by 平石博一/ music direction: 矢沢朋子(Absolute-MIX2001委嘱作品)
・Walk Man for Piano & Electronics (1999) by平石博一
・Gyration for Piano & Electronics by 菅谷昌弘 / music direction 矢沢朋子(Absolute-MIX2001委嘱作品)*さいたま公演のみ
・Love God for Piano & Electronics by Carolyn Yarnell (Absolute-MIX2010
委嘱作品)
・CHARLOTTE-SUSABI シャルロット すさび for Piano & Electronics by 平石博一(Absolute-MIX委嘱作品)世界初演
・Commonality for Viola & Electronics (1998) by Tony Prabowo
・The Funeral Pyre for Viola, Voice & Electronics (2000) by Tony Prabowo
・Hampa for Voice & Electronics (2001) by Tony Prabowo *那覇公演のみ
・Untitled for Piano & Electronics by Johann Johannsson (Absolute-MIX2010委嘱作品)

主催:Absolute-MIX実行委員会


昨年ピアニストの矢沢朋子が主催するAbsolute-MIXは20周年を迎え、3回のコンサートが実施された。副題に「平石博一の音楽を中心に」とあるように、東京公演は平石作品の個展で、埼玉、沖縄公演も、個展ではないが平石作品が方向性を決めているように見える。矢沢朋子はかねてより平石作品を積極的に取り上げてきた経緯があるが、筆者もかつて関わり、演奏もされたAbsolute-MIXの2003年公演の時にも平石作品が入っていたことを思い出した。まずは、平石博一の完全なる個展である東京公演から見ていきたい。

平石博一 (Absolute-MIX実行委員会提供)*

東京公演は11月22日に仙川フィックスホールにて開催された。初めに8チャンネルの電子音楽5曲が演奏され、その後は器楽作品8曲が演奏されたという盛り沢山な内容。平石博一が近年最も精力的に作曲、発表しているのは電子音楽だが、それには経済的理由もあるという。平石博一の電子音楽の特徴の一つは、多くがあからさまにMIDIによっていることだろう。今どきポピュラー音楽ならMIDIの使用は当たり前だが、現代音楽系の電子音楽ではMIDIの使用はメジャーとは言えない。80年代以降、特別に音楽の修練をしていない人でも(とりあえず)音楽が作れる状況を可能にしたMIDIは、その誰でも扱える簡易さ故に「専門家」を自認する筋からは軽く見られてきたのではないか。しかし、平石博一は何ら臆することなくMIDIを駆使して電子音楽を作り続ける。そもそも、ミニマル系の音楽で、身体的なノリを排除し機械的なビート感を前面に出すのならMIDIはこの上なく便利なツールなはずで、それをあえて避ける理由はない。こうした特色はむしろテクノに近い。また、平石自身が元々ガチガチなクラシック出身ではなく、ポピュラー系の仕事もしてきてポピュラー音楽メインのツールに抵抗がないということもあるだろう。しかし平石自身は、自分のこうした音楽には大衆性が欠落しているのでポピュラー音楽ではないと線を引いている。いや、今やポピュラー音楽と一口にいっても大衆性の度合いはピンキリなので、そんなことはないと言いたいが。今回のプログラムの中でも、『HIROSHIMA』や『Up to date』、『A Rainbow in the mirror』などは、見出されさえすればポピュラー音楽ファンにも十分受け入れられるだろう。ビート感がベースにない平石作品についていうと、『The Sound is coming a long way through the Air』(1995)は、元が1987年の『スクエア』なので(この曲は初演を聞いているはず)80年代に頻繁に用いていた旋法性の響きが感じられるのもさもありなん。旋法性が抜け、音列に変わっても『九十九折五番』のように、40年代ケージに通じる固有音響音階的に線を紡いでゆく作法は維持されている。この東京公演が、平石博一を器楽と電子音楽の両面から俯瞰する絶好の機会であったことは疑いようはなく、そして、それを可能にしたのは矢沢朋子をはじめとして、井上郷子、甲斐史子、川口慈子、有馬純寿などの平石作品を支えてきた演奏家たちであった。

【東京公演】

次に残りの2つの公演をざっと見てみよう。12月10日の彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールと12月17日の那覇市パレット市民劇場の2公演はどちらも<プログラムB>で基本的に同じなのだが一部演目が異なり、また出演者も矢沢朋子以外は入れ替わっている。なので両方を聴いて比較する愉しみもあろうというもの。ただ、筆者は今回沖縄公演には実地に赴いておらず、3公演をレビューするのはどうかとも思ったのだが、それでもいいということなので沖縄公演は配信のみの視聴で書いていることをお断りしておく。

この<プログラムB>には平石作品も少々入っているが、その他は矢沢朋子が長年取り上げてきた「馴染みの顔ぶれ」から成り立っている。例えばインドネシアのトニー・プラボウの電子音とヴィオラのための『Commonality』、それに声が加わった『Funeral Pyle』。ドローン的に持続しながら音響の輝度が緩やかに変化してゆく電子音に、うねうねと動き絡み合うヴィオラ、さらに声の織りなす複数の糸の綾の中に身を浸す極楽的な体験は、ガムラン、あるいはインド音楽のぬるま湯に浸かったような延々と続く時間体験を思い起こさせる。アメリカの作曲家キャロリン・ヤーネルの『Love God』では、同音反復が目立つ電子音パートにピアノの和音連打が重ね合わされる。全体としては割とカオティックだが、終わり近く、詩の朗読が始まるあたりでは電子音のカオスは潮が引くように後退してゆく。沖縄公演の方が電子音を若干抑え、より声を聞きやすくしているようだが、もしかするとこれは単に録音のせいかもしれない。このプログラムの作曲家の傾向として、あからさまに旋法的、調性的であっても、ビートがあっても構わない、という姿勢があり、それは平石的でもあるが同時に矢沢朋子の嗜好でもあるのだろう。もっと無調的、ノイズ的で複雑な現代音楽を期待する向きにはポップすぎると感じられるかもしれない一方、普通のポピュラー音楽ファンには逆に、これでもまだだいぶ現代音楽的難解さがあると取られるかもしれない。両極を同時に満足させることが無理ならば、開き直って自分のやりたい方向を誰憚ることなく押し通すのが一番正解だろう。その意味で、矢沢朋子がDJ Yazawaとして平石作品を素材に展開したDJ演奏は潔く開き直っていた。これは大枠は即興というよりある程度はフィックスされているようだ。30分近く続く演奏はほぼビートの上に乗っていて、平石博一のミニマル的楽曲が本来持っているポピュラー寄りの性格がこういうアプローチを可能にした。矢沢朋子はたまたまクラシックの教育を受けたのでクラシック、現代音楽のピアニストになってしまったが、育ちがもう少し違っていたらもっとポピュラー系の音楽家になっていたかもしれないと思わせるものがある。Absolute-MIXが前からVJとのコラボなどを行ってきたのもこうした矢沢の嗜好故だろう。

その他の出演者について言うと、埼玉公演は東京に続いて甲斐史子、それに太田真紀の出演。沖縄公演はくによしさちこ、新垣伊津子、知念利津子。全員が音楽の方向性を十分咀嚼した上での優れた演奏だった。ベルカント的な綺麗さよりも声の存在感、生命力が重要なプラボウの『Funeral Pyle』において、太田真紀の表現力の幅広さは言うまでもないとして、今回初めて聞いた知念利津子の声の現前する強さも忘れがたい。彼女がソロで歌ったプラボウの『Hampa』(沖縄公演のみ)も同様。この作品はまた、生声と電子音の声のバランスが絶妙によかった。Absolute-MIXの公演は、矢沢朋子が、演奏家としてだけでなく作り手、コーディネーターとして姿を現す場という側面が大きい。聞き手は好みが分かれるかもしれないが、毎年でなくともときどきやりたいことを存分にやって暴れてもらいたいと思う。

【那覇公演】(Absolute-MIX実行委員会提供)

【埼玉公演】

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鈴木治行 Haruyuki Suzuki  作曲家
東京出身。これまでにガウデアムス国際音楽週間(アムステルダム)、Les Inouies(ボルドー)、Experimental Intermedia(ニューヨーク)、サントリー・サマーフェスティバル(東京)、Experimental Intermedia(ニューヨーク)、Music From Japan(ニューヨーク)その他で作品が演奏され、また NHK-FM、CSラジオスカイ、ラジオ・フランス、ベルリン・ドイツ・ラジオ、DRS2、ラジオ・カナダなどで放送されている。電子音楽をメインとするサイレント映画ライヴを2000年に初めて行い、その体験から映画とは別に音楽だけでもライブ・エレクトロニクス演奏を行うようになった。

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