#721 JAZZ ART せんがわ 2014
2014年9月6日(土)&7日(日) 調布市せんがわ劇場
Reported & photographed by 剛田武(Takeshi Goda)
昨年ほぼフル参戦した調布市主催のローカルフェス「Jazz Art せんがわ」に今年も参戦。昨年の終演後の挨拶で、総合プロデューサーの巻上公一は「来年も開催するために多くの人の支持を求む」と語ったが、今年も無事開催されたということは、充分な支援が得られたのだろう。今年は東京JAZZと日程が被ったが、動員には余り影響はないものと思われる。メイン会場のせんがわ劇場はeyes, ears, nose, hands, mouth, legsと身体のパーツを冠したプログラム。巻上、藤原清登、坂本弘道の三人のプロデューサーがそれぞれディレクションしたユニークな組み合わせによる演奏が繰り広げられた。
9月7日(土)
●伊藤キム+ホナガヨウコ+スガダイロー+山本逹久+坂本弘道
演奏家とパフォーマーの顔合わせ。躍進著しいスガとジャンルを超えて活躍する山本の共演はありそうでなかった。坂本を交えて手始めのトリオ演奏はいきなり本気モードの丁々発止のバトルに。ホナガが三人それぞれとデュオで遊び心たっぷりの身体パフォーマンス。マネキンに扮した伊藤の独り舞台に演奏家が加わり、最後は全員で賑やかな大団円。演奏家だけだったら緊縛の時間になりそうなところを、伊藤のトボケたパフォーマンスとホナガのしなやかな舞いが、笑いに満ちた祝祭空間に塗り替えた。
●センヤワ with 内橋和久
センヤワ(Senyawa)はルリー・シャバラ(vo)とヴキール・スワディー(bambuwakir/bamboo flute)の実験音楽デュオ。ルリーのヴォイスはデス声、ビートボックスから天使のファルセットまで多彩。ヴィキールの竹製自作楽器は繊細なストリングスとノイズパーカッションを兼ね備え、まるで精巧な電子楽器のよう。内橋がダクソフォンとギターで色をつける。単に民俗音楽と実験音楽を掛け合わせただけでは無く、原始的且つモダーンなまったく新しい音楽空間を創造した。
●ヒカシュー with 沖至
結成36年目に突入したヒカシューは正に日本の変態ロックの頂点といえる。楽器演奏を極めた猛者の集合体だが、高尚そうなワザのご開陳に陥ること無く、子供でも楽しめる判り易さとポップ性、そして何よりもユーモアを前面に出す姿勢が素晴らしい。前衛ジャズのベテラン冒険家、沖至をゲストに迎えたステージはより一層自由度の高い、飛翔するような演奏。三種類のトランペットとパーカッションと笛を持ち替える沖のフットワークの軽さには、何でもやってみようという悪戯っ子のような好奇心が満ちている。 最後にセンヤワと内橋を交えて演奏した「パイク」はジャンルと国境を非武装化する裏返しの魔術だった。
●坂田明+Andrea Centazzo+藤原清登
時間が重なっていたタイニーカフェでの灰野敬二ライヴが終わり次第駆けつけ、アンコールだけ観ることが出来た。ワンホーン・トリオ編成で坂田のサックスを聴くのは、2年前の坂田明&ちかもらちの日本ツアー以来久々。1曲だけだったが、自由を絵に描いたような明朗な坂田のサックス・プレイは勿論、絡み付く藤原のベースと、初めて観るアンドレア・チェンタッツォの柔軟なドラミングに即興ジャズの神髄を堪能した。
9月7日(日)
●ペットボトル人間
ニューヨークの20代トリオ、ペットボトル人間の評判は聞いていたが、観るのは初めて。19歳の時に単身ニューヨークに乗り込みジョン・ゾーンに出会い前衛音楽にのめり込んだという吉田野乃子のサックス、実力派若手デイヴ・スキャンロン(g)とデイヴ.ミラー(ds)の三人がならす音は、精巧に練り上げられた確信的インプロヴィゼーション。フリークアウトせず冷静に音に向き合う姿勢は、前衛音楽シーンが再び活性化するニューヨークに息づく実験精神に貫かれている。新世代に相応しい音楽の若々しさと瑞々しさが新鮮だった。
●山本精一
続いて山本精一のソロ演奏。様々な顔を持つ才人だが、この日はギターによるノイズ演奏。数年前に観た「爆音ノイズ・ライヴ」を思わせる、純度の高い非楽音ノイズ放射。とはいえ山本のストラトキャスターのサウンドは、どんなにエフェクトをかけアンプを歪ませても、どこかにギターらしい繊細な音色が聴こえる。やはり山本はあくまで「ギタリスト」なのに違いない。ハイテンションな演奏が、5分程度で突然プラグを引っこ抜いて終了するパンキッシュなステージ。
●友川カズキ
坂本が何度か楽屋に呼びに行って、歌手・詩人・画家・競輪愛好家の友川カズキが登場。いつものように歯に衣を着せないぶっちゃけトーク(嫌煙運動や覚せい剤についての持論など)を挿んで情念の歌が披露される。自らの生き様を投影した歌詞と、東北の厳しい冬を耐え抜く強靭なメロディー。友川自身の表現力の極みを数倍に増幅する山本と坂本のバックアップが加わり、会場全体が友川色に染まる。友川が最後まで外国人と呼んでいた、初顔合わせのペットボトル人間の米国人二人は、即座に日本的情念を理解出来るハズはないが、友川の強力な磁力に惹かれたのか、我知らず復讐バーボンに酔ったフレーズを奏でている。アンコールで友川がソロで歌った「生きているって言ってみろ」は、二日間の音楽体験の行き着く地平を指し示すようだった。
終演の挨拶で巻上はJazz Artせんがわの目的は「分かり易い音楽、つまり強度が強くてすぐに判る音楽を届け、出会いの場を作る」ことだと語った。昨年言っていた「ひと言で判られないフェスティバル、楽しくない音楽」とは対照的に見えるが、まったく同じものを指していることは、一度でも会場に足を運べば即座に理解出来る。二日間のステージは間違いなくその意図に適ったものだと言えるだろう。来年もまたこの街で新たな音楽と出会えることを楽しみにしたい。
初出:2014年9月28日 Jazz Tokyo #201