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Concerts/Live ShowsNo. 291

#1224 中牟礼貞則&三好3吉功郎ギター・デュオ

text & photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2022年6月26日(日)6:00pm World Jazz Museum 21 群馬県吉岡町 切り絵緑の美術館

中牟礼貞則 (g)
三好”3吉”功郎 (g)

今年4月にグランド・オープンした World Jazz Museum 21で開かれる月例の館内コンサートも3回目を迎える。4月のヒロ川島 Sings And Plays Quartet、5月のレゲエ・レジェンド南條倖司に続く6月は中牟礼貞則と三好3吉功郎によるギター・デュオだ。中牟礼貞則は1933年生まれの89歳、音楽生活70周年を迎えた文字通りのギター・レジェンドで伝説の「銀巴里セッション」(1963年)を体験した数少ない現役のひとり。ジャズ・ギター一筋の中牟礼に対し、”3キチ”の愛称で親しまれ還暦を迎えた三吉功郎はジャズをベースに矢沢永吉や稲垣吾郎バンドのバンマスを務め森山良子や大月みや子とも共演する柔軟性を見せる。この対照的なキャリアを生きるふたりが師弟関係にあることはあまり知られていない。活躍の場を共有することがなく一度も共演の機会がなかったからだ。そのふたりが今年何十年ぶりかで偶然福岡で出会い、再会を喜び合い、その記憶も鮮やかなところへ初めての共演案が持ち込まれた。「信じられない奇跡が続く」と三好は感激を隠しきれない。一方の中牟礼は喜びを抑え、いつもの慎ましやかな態度を変えない。
ふたりは同じGibsonを抱えながらも音色は全く違う。あくまでもまろやかな三好に対し、リヴァーブを嫌ったソリッド気味の中牟礼。J-popから演歌までカバーする三好とジャズ一筋 ”孤高の達人”中牟礼のイメージ通りの音色と言ったらよいだろうか。
ステージに登場したふたりは持ち寄った譜面を交換、中牟礼が持参した3曲と即興のブルースで短めの1stセットを切り上げる。ここで分かったことだがふたりは事前の打ち合わせはまったくなし。ステージ上で初めて手の内を見せ合ったことになる。滑らかな運指の三好に対し、選び抜いた和音とフレーズを確実に置くように奏する中牟礼。研ぎ澄まされた古武士の作法を思わせる中牟礼の所作だ。
インターミッションを挟んだ2ndセットはステージでは初めてという三好のソロで始まった。<ワン・ノート・サンバ>をまるでアコースティック・ギターを操るようにスピーディーにそして華麗に弾き切った。受けて立った中牟礼は臆することなく泰然自若としてビル・エヴァンスの バラード<Time Remembered>を味わい深く披露した、2ndセットはアンコールも含めて6曲、三好が選んだ1曲にセロニアス・モンクの <エヴィデンス> があった。三好の奏するテーマとアドリヴに耳を傾けた上で中牟礼がやおらアドリヴを継いだが、この曲を師匠に突き付けるあたり三好の容赦ないチャレンジ精神を垣間見た気がした。クロージングでは三好が得意とするソロにユニゾンで口笛を合わせるという妙技が披露され (<I Remember You>) 会場を沸かせた。
事前にライヴ収録を告げられたこともあってか初めての師弟共演は和やかな中にも常に緊張感を孕んだ演奏が展開された。両者の音色と音楽性の違いが際立ったこの “対決” 、改めてCDを通して楽しんでみたい。両者の合意を得て今秋にもリリースされる予定のCD、固唾を飲んで待ち受けたい。

追)7月のWMJ 21は、サックス特集で、コルトレーン他の「サックス・レジェンド展」「高木元輝展」「阿部薫展」が遺品や資料の展示と合わせて開催予定。館内コンサートは鈴木良雄率いる「The Belnd」(7/24)。

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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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