#1225 カール・ストーン+吉田達也+神田綾子 with 小林径

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Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
art/design: mysterycuts.com

2022年7月17日(日) 落合soup

Carl Stone (PC)
Tatsuya Yoshida 吉田達也 (drums)
Ayako Kanda 神田綾子 (voice)
Kei Kobayashi 小林径 (DJ)

コンピュータ・ミュージックの先駆者カール・ストーンは多くの作品を残している。そのアプローチは多様であり、ひとことで括ることは不可能だ。たとえば打楽器やヴォイスを用いたサウンドという視点でみれば、近作の『Wat Dong Moon Lek』(Unseen Worlds, 2022年)における<Apsara>はビートを、また『Himalaya』(Unseen Worlds, 1999年)のタイトル曲では赤い日ル女のヴォイスを取り込み、「ストーンのサウンド」として独自のグルーヴを創出せしめている。だがこの日はフリー・インプロヴィゼーションのライヴであり、ヴェクトルの本数も向きも異なるために個人の裡で作り込んだサウンドでは完結しない。

神田綾子のヴォイスを収集し、別の様態のフラグメントとしてストーンが場に放ったところ、神田はそれに瞬時に呼応して「過去の自分自身+ストーン」という演者と繊細に共演してみせた。その結果として場に提示されたものは時間も姿かたちも異なる要素が相互に干渉し、時々刻々と変貌する現象であった。単にルーパーにより過去の自分と共演するという演奏とはまったく違うものである。これは特濃のコミュニケーションを通じて昇華した表現なのだ。

吉田達也はつねに怒涛のパルスを放って聴く者にカタルシスを与えてくれるドラマーだが、やはり自己からのヴェクトルだけではこの場に居続けることはできない。吉田が模索のうえで選んだアクションは、競争や自己との闘いではなく、大きく新しいグルーヴ創出である。神田やストーンによる変化そのものの波を感知し、強靭な足腰で場の中心にダイヴしては他の波を創り出す。さすがである。

時間の流れに沿った相互作用だけでなく時間軸を伸縮させる縦波を前提としたふるまい、三者ではなく自分自身の影をメンバーに呼び込んだ共演。それによる予期せぬ現象は三者の力量によって平衡を獲得するが、さらにそこから次の相と新たな現象・平衡へと移行する。驚くべきダイナミクスだ。

演奏前の小林径によるDJは一様ではなく、ある音の形をみせてくれたかと思えば、一瞬の間を置いてまた別の形の音となり続けた。これによりsoupという地下空間の内壁が活性化した。したがって、この日は四者の共演であったとも言うことができる。演者にとっても観客にとっても場を共有する悦楽だったにちがいない。

(文中敬称略)

 

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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