#1236 MMBトリオ w/大友良英&仲野麻紀
モツクーナス=ミカルケナス=ベレ・トリオ w/大友良英&仲野麻紀

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text & photo by Motoaki Uehara 上原基章

「インプロビゼーション」と「フリー・ジャズ」の狭間に
MMBトリオ JAPAN TOUR 最終公演
2022年10月7日@新宿ピットイン

2022年9月30日から10月7日にかけて、リトアニア出身のリューダス・モツクーナス(sax)とアルナス・ミカルケナス(pf)、ノルウェー出身のホーコン・ベレ(ds)によるMMBトリオによる待望の来日公演がかっぱ橋「なってるハウス」や荻窪「velvetsun」白楽「Bitches Brew」横浜「エアジン」など関東のライブハウス8カ所で行われた。トリオによる単独ステージ以外に、各所で坂田明(as,cl)や林栄一(as)、梅津和時(as,bcl)、纐纈雅代(as)、大友良英(g)(5人とも2018年のモツクーナス来日時に「Bitches Brew」4days公演で共演。その模様はアルバム『Live At Bitches Brew / Liudas Mockūnas』Nadja21/NoBusiness で確かめることができる)、ルイス稲毛(el-b)、神田綾子(vo)らがゲスト参加している。そしてツアー最終日の新宿ピットイン公演では、大友と共にパリ在住で独特のスタイルが注目を集めている仲野麻紀(as, metal-cl) が加わり、客席はほぼ満員の盛況を示していた。

筆者は「ジャズ・ジャパン」誌上で大友氏の音楽歴に関する聞き書き連載を1年以上記しており、今年の中頃は彼が自身のスタイルを模索している時に大きな影響を受けたデレク・ベイリーの「インプロビゼーション理論」に関する考察が何ヶ月か続いた。その中で大友氏は「フリー・ジャズと即興音楽はアプローチそのものが全く異なる」と語っていて、ファースト・セットのトリオ単独のプレイを聴いていてまずこの言葉が頭に浮かんだ。日本のジャズ・シーンにおける「フリー・ジャズ」といえば とかく“ギャオー”と情念的にクライするサウンドがイメージされることが多いが、MMBトリオは実に静かなアプローチで始まった。今回のツアーをオーガナイズしたJazz Tokyo編集長の稲岡氏はライブ・レポートで「サウンドスケープ」という言葉を使っているが、まさに3人のしなやかなアプローチはステージの上に映像的なイメージを紡いで行く。ある意味ECM的なヨーロピアン・フリーであり、互いに楽器から出される各々の音を注意深く聴き合っているからこそ生まれる濃密なコミュニケーション(決して音量の大小ではない)によって、心地よい緊張感がじんわりと聴衆に伝わっていく。どこか “デジャヴュ” 感があると感じたが、それはかつて富樫雅彦氏のピットインのステージでの即興演奏のニュアンスに近いものかもしれない。ファースト・ステージ最後の曲ではエンディングにテーマらしき主旋律が出てきたのが興味深かったが、休憩中に大友氏から「キメのテーマというよりは、いつも一緒にプレイしているから即興の流れの中での阿吽の呼吸みたいな感じで出た音じゃないかな?」という見立てを聞いて納得。

大友良英と仲野麻紀の2人が加わったセカンド・ステージ。この日の一週間ほど前に約2年半ぶりのヨーロッパ公演から帰ってきたばかりの大友は、彼の地で充電してきたエネルギーを全開にしたギター・サウンドでMMBの3人と絡み合っていく。そこに交わされているのは「フリー・ジャズ的言語」ではなく、インプロビゼーション・ミュージックを体感してきた者ならではの「序破急的間合い」なのだろう。仲野麻紀はステージ全体のサウンドに調和させていく絶妙なアプローチを聴かせてくれ、とりわけアンコールにおけるアルト・プレイは彼女の内的なエネルギーを一気に放出させる印象深いものだった。

2019年10月にピットインで開催された「ニュージャズホール50周年記念コンサート」を取材した時、企画の中心人物だったピアニストの佐藤允彦氏はこんな話をしてくれた。「フリー・ジャズってみんなが一斉にガーッて音を出すものじゃなくて、演奏者一人一人が互いの音をしっかり聴いて演奏していくものだと思うんだ」。この夜、MMB3+大友&仲野の5人によって紡ぎ出された音は、まさに「フリー・ジャズ」と「インプロビゼーション」が高度の次元で融合したものであり、そのプロセスを同じ空間で共有出来たことはまさにLIVEの「至福」そのものだった。MMB3の再来日を心待ちにしたい。


上原基章(うえはら もとあき)
元SONY JAZZディレクター/ステージ写真家。

 

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