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Concerts/Live ShowsNo. 221

#907 ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ
directed by エリック・ミヤシロ with special guest イヴァン・リンス

Blue Note Tokyo All-Star Jazz Orchestra directed by Eric Miyashiro
with Special Guest: Ivan Lins
ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ
スペシャル・ゲスト:イヴァン・リンス

2016.8.26 21:00 Blue Note Tokyo ブルーノート東京

Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Yuka Yamaji 山路ゆか

1. Trains (Mike Mainieri)*
2. Teen Town (Jaco Pastrius)*
3. Daquilo Que Eu Sei (Ivan Lins)
4. Atlântida (Ivan Lins – Victor Martins)
5. Todo Mundo (Ivan Lins)
6. Setembro (Ivan Lins)
7. Lua Soberana (Ivan Lins)
8. Domingo (Jaco Pastrius)*

EC1 Love Dance
EC2 Song for Bilbao (Pat Metheny)**

*BNTASJO only ** BNTASJO with Leonardo Amuedo

Eric Miyashiro(tp, flgh, conductor, arranger)
Ivan Lins(vo,key) Leonardo Amuedo(g)
本田雅人(as, fl)、近藤和彦(as, ss, cl, fl, afl)、
小池修(ts, cl)、岡崎正典(ts, cl)、 Marshall McDonald(bs, bcl)
西村浩二、奥村晶、菅坡雅彦、岡崎好朗、二井田ひとみ(tp, flgh)
村田陽一(tb)、中川英二郎(tb)、佐野聡(tb, harm)、山城純子(b−tb)
青柳誠(p) 納浩一(ds) 岩瀬立飛(ds)


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最終曲、納浩一のベースをフィーチャーしたジャコ・パストリアス作曲の<Domingo>の後、会場から惜しみない大きな拍手を贈る、そして、三三七拍子のように会場の拍手を指揮して止めるエリック・ミヤシロの技に笑い転げていた、、、のは、イヴァン・リンスその人だった。冒頭でも、テーマ曲となっているマイク・マイニエリ作曲の<Trains>、その小池修〜エリック〜本田雅人による熱いソロ、次いでジャコ・パストリアス作曲の<Teen Town>での納浩一と村田陽一のソロ、イヴァン登場前から各メンバーは飛ばしまくりグルーヴしまくり。イヴァンはクラブ後方にいて、足で拍子を取りながらにこやかに演奏を聴き、そしてステージへ向かう。イヴァンは微笑みを絶やさず、誰よりも公演を楽しんでいた。

ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ(BNTASJO)は、2011年に「3・11」をきっかけに結成され、文字通り日本のファーストコールとなるミュージシャンを集めながら、内外のスタープレーヤーたちをゲストに迎え、ハワイ出身のエリック・ミヤシロ作編曲とディレクションで、素晴らしい音の出会いを演出してきた。2015年にはパット・メセニー、イリアーヌ・イリアスなど、2016年4月にはベニー・ゴルソンと共演。2014年には小野リサをゲストにモントルー・ジャズ・フェスティバルへ、2015年にジャワ・ジャズフェスティバルへ、2016年、シンガポールなど、海外からの招聘も増えている。

イヴァン・リンスは、1945年6月リオデジャネイロ生まれの71歳。カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメント、ジルベルト・ジルが1942年組でわずかに下の世代、巨匠というよりも永遠の青年のような爽やかさを漂わせる。1970年代からのMPBで大きな存在感を魅せて、クインシー・ジョーンズらに注目され、<Love Dance>の世界的ヒットを始め、幅広い知名度と支持を得ている。

3曲目からイヴァン・リンスとギターのレオナルド・アムエドがステージに登場。キーボードを弾きながら演奏する。<Daquilo Que Eu Sei>は1981年、同名アルバムに収められているが、他方、エリックは自身のアルバム『Sky Dance』2曲目として、すでに編曲・収録していた。イントロからしてブラスのかっこよさが光るエリックの選曲が納得できる一曲だ。<Atlântida>では、揺らぎを伴う木管楽器群とトランペット群からハーモニーが生み出される。イヴァンが暖かく歌い上げる。

「ウェディングの歌です」との紹介ではじまった<Setembro>は、本当に美しい。テーマはエリックとのユニゾン。なお、BNASJTOメンバーでトロンボーンの村田陽一は、2010年に『村田陽一 with Ivan Lins / Janeiro』でイヴァンと共演しており、こちらではトロンボーンとのユニゾンになる。

いったん、イヴァンとレオナルドがはけて、<Domingo>が演奏された後、アンコールは、イヴァン最大のヒット曲であり、エラ・フィツジェラルドをはじめヴォーカルの巨匠たちに愛された<Love Dance>。タイトルとは裏腹に穏やかに心を込めて想いを歌い上げる。満席の観客の心は、エリックと仲間たち、イヴァンが生み出す素敵な音の海に満たされていった。締め括りには、2015年9月、パット・メセニーとの共演で演奏された<Song for Bilbao>、一人残ったレオナルドも含め素晴らしいソロが繰り広げられた。直前にトゥーツ・シールマンスが亡くなりBNSAJTOと佐野聡のハーモニカの演奏、特に<Three Views of a Secret>を聴きたくなっていて、構成上の理由もあるだろうし、それは叶わなかったが、佐野がトロンボーンソロの最後にハーモニカソロをわずかに入れた。それはトゥーツへの想いも込めていたのではと思った。

今回の公演は非常に人気があり、あっという間に完売、聴くことができなかった人が多かった。イヴァンは、ステージ上でも「キラー・ビッグバンド」と絶讃し、演奏を終えて、再度の共演を希望し、「一緒にツアーに出たい」とまで言ったらしい。それは簡単ではないにしても、その言葉に値する演奏だった。BNSAJTOは、トラディショナルなビッグバンドとしても完璧でありながら、エリックの多彩な編曲を含めて、それを越える表現力と構成の幅を身につけ、特にパット・メセニーとの共演の影響からか、ダイナミクスの複雑で多様な表現が可能になっていて、もうひとつ先に進んでいる。強いて言えば、エリックの素晴らしいオリジナルをBNTASJOで聴くという当たり前の夢をかなえて欲しい。ともあれ、こういった音の出会いが、メンバーにも、ゲストにも、観客にも、大きな影響を生んで行くことがとても素晴らしい。

【関連リンク】

Ivan Lins official website
http://ivanlins.com.br/novo/

Eric Miyashiro official website “StratosphERIC”
http://www.ericmiyashiro.com

村田陽一 公式ブログ
http://y-murata.seesaa.net

 

【JT関連リンク】

ブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン 2015
パット・メセニー with ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ
http://www.jazztokyo.com/live_report/report851.html

ジャカルタ・インターナショナル・ジャワ・ジャズ・フェスティバル 2015
ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report809.html

ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ, スペシャルゲスト: リチャード・ボナ
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report771.html

モントルー・ジャズ・フェスティバル 2014 ジャパン・デイ ブルーノート東京・オール・スター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ with スペシャルゲスト 小野リサ
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report728.html

エリック・ミヤシロ EMビッグバンド
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report635.html

ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ with special guest アルトゥーロ・サンドヴァル
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report636.html

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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