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Concerts/Live ShowsNo. 296

#1239 今井和雄カルテット 

text & photos by 剛田武 Takeshi Goda

2022年11月24日(木) 合羽橋 なってるハウス

今井和雄(g)
藤堂勉(sax)
井野信義(b)
山崎比呂志(ds)

現在・過去・未来の壁を消失させる異形のカルテット。

山崎比呂志(1940生年まれ・以下同)、藤堂勉(1949)、井野信義(1950)、今井和雄(1955)、いずれも日本フリージャズのオリジネーター高柳昌行と所縁のある筋金入りの演奏家によるカルテット。前身ユニットのひとつに藤堂(当時は藤川義明名義)、井野、今井の3人にドラマー本田珠也を加えた集団投射というグループがある。10年前の2012年に渋谷WWWでノイズユニット阿部怪異との2マンイベントで観た。非常階段のJOJO広重やT.美川を中心とした阿部怪異の爆音演奏に比べて、音量では負けるが、気合と熱量では凌駕する40分ノンストップの激烈なインプロヴィゼーション。終演後、最年少の本田が「ホント疲れたわ~」と疲労困憊していた一方で、井野が「我々の演奏はまだまだです」と述懐していたのが印象的だった。

70年代初頭から一貫して高柳昌行ニューディレクションのドラマーを務めた山崎を迎えて今井和雄カルテットが結成されたのがいつなのかは定かではない。筆者が初めて観たのは2019年11月に新宿ピットインで開催された「あれから50年~ ニュージャズホールを知ってるか?」というイベントだった。 そのライヴの感想を筆者はこうブログに書いている。

<日本のフリージャズの震源地のひとつにニュージャズ・ホールがある。50年前にその「場」の創出に関わった演奏家と聴衆、後追いで歴史を引き継ぐ演奏家と聴衆、大きく分けてふたつに大別される参加者により演じられた50年の歴史の重みは、完全な孫世代の纐纈雅代グループの溌剌とした音と動作と映像の戯れ、ほぼ現役世代の今井和雄カルテットの血肉化された禁欲と修練と求道、多世代混合の佐藤允彦グループの生真面目な悪巫山戯、即席部隊インスタント・コンポーザーズ・オーケストラを操るオリジネーターの悦楽が、目に見えない魔法の金粉を降り注いだ。激しい躍動感に満ちた演奏に於いても多少身体を揺らす程度で多くはじっと頭を垂れて聴き入っている観客の姿に、自らの牙城を守らんとする異端音楽戦士の心意気を感じた。>

それから3年経って発表された1stアルバム『HAS THE FUTURE BECOME THE PAST』のリリース記念ライヴには、おそらく上記のピットインでのイベントにも足を運んだと思われる筋金入りの音楽ファンや関係者が集まった。あちこちで「お久しぶり」と談笑するメンバーやお客さんの姿が見られ、かく言う筆者も久々に会うミュージシャンや、メールや電話でしか話したことのない知り合いとの思いがけない出会いがあった。もちろんこうした出会いはこの出演者や会場に限ったことではないが、“未来は過去になったのか”というアルバム・タイトルを考えると、この「場」の磁力は、ひと際強く意義深く感じられた。

顔をゆがめてギターを指やピックや金属棒で掻き毟る今井、ソプラノ、アルト、バスクラを持ち替えてハイスピードのパッセージを巻き散らす藤堂、ウッドベースに襲いかかるように指で叩き弓で擦り回す井野、バスドラの無い独特のドラムセットと様々なオブジェでフリークアウトした物音を発する山崎。4人の異形の演奏スタイルが衝突してハレーションを起こし、あまりの眩しさに目を反らすことができないまま、聴き手の意識は研ぎすまされて冷たく覚醒していく。

60年代末の日本のフリージャズの初期衝動そのままの激烈なインプロヴィゼーションが目の前で展開される奇跡。半世紀近く過ぎてなお、なぜこれほど冷徹で凄まじい演奏行為をやり続けているのだろう。そしてなぜそんな演奏を冷静な頭で聴き続けているのだろう。それは好き嫌いを越えた「性(さが)」なのではないか、と思うに至る。これしか演れない訳ではないし、これしか聴かない訳でもない。しかし別の場所で別の音楽の別の演奏に何度となく立ち会っても、永遠に運命が交差しないのが当たり前の世の中。今宵この場で感じた運命共同体のような安心感は、現在(Presence)が過去(Past)と未来(Future)の間にある特別な存在ではなく、一瞬前の未来であり一瞬後の過去である、つまり「現在も過去も未来も同じ」という秘められた真理に基づくのではないだろうか。

終演後に今井が冗談めかして「我々の音楽はもう古いのかな」と口にしていたが、古い・新しいという基準の無意味さを証明するのがこのカルテットの存在意義に違いない。願わくば異なる世代の聴衆にこの場の磁力が共有されんことを!(2022年12月1日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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