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Concerts/Live ShowsNo. 298

#1247 林栄一+山本達久+神田綾子+ルイス稲毛

Text by Akira Saito 齊藤聡
Photos by m.yoshihisa

2023年1月21日(土) 下北沢 No Room for Squares

Eiichi Hayashi 林栄一 (alto sax)
Tatsuhisa Yamamoto 山本達久 (drums)
Ayako Kanda 神田綾子 (voice)
Louis Inage ルイス稲毛 (bass)
Guest: Brian Allen (trombone)

林栄一と山本達久とはずいぶん昔を除けば2019年に共演があったのみであり、新宿ピットインの企画による「月刊林栄一」のひとつだった(ピアノの高橋佑成とのトリオ)。神田綾子とルイス稲毛は昨年来3度目の共演。ゲストのブライアン・アレンはかつて林との共演歴がいちどだけ。あとははじめての手合わせである。その状態でこの人数での集団即興は噛み合わない結果となるか空中分解するかという不安がなくもなかったが、実のところ、それが杞憂に終わるだろうことははじめからわかっている。

林栄一が倍音とノイズをおそろしいほどの高密度に押し詰めて、情の濁流をときはなつ。流れの横にあって山本達久が微細なうねりを提供し、神田綾子がサウンドの背景から前景までを自在に往還する。またルイス稲毛は弱く漂うところから全体を持ち上げるところまで音のヴェクトルの舵取りを担う。そのようにして、エネルギー・ミュージックとしてのピークがなんども到来しては雲散霧消してゆく。この演奏のかたちが観客の大きな興奮を誘ったのはたしかだが、ことは一様ではないし、林栄一がつねに離合集散の主役であるわけでもない。ときに神田や山本が他メンバーを呼び込む中心でもあったし、稲毛はつねに個かつ全体だった。

山本と稲毛のふたりが歩みよる局面がなんどもあって、微妙にパルスのズレを生じさせながらさまざまな波のかたちを提示する山本のドラミング、足腰は強靭なのにどちらにでも進みうる柔らかいグルーヴをもたらす稲毛のベースの重なりは、感嘆にあたいした。山本の打音ひとつひとつが細やかに制御されているのもみごと。

林のアルトの逸脱ぶりにはどうしても驚かされる。たとえば、循環呼吸により音を途切れさせることなく続けながら、遠目からはっきりわかるほどにマウスピースを口に対して激しく動かしていた。かつて林は齋藤徹(コントラバス)らとの共演を通じて韓国シャーマン音楽の巨匠・金石出に接近したことがあり、齋藤、小山彰太(ドラムス)との共作『往来』(1999年)では金の吹くダブルリード楽器・ホジョクを思わせるほど周波数を大きく蛇行させたことがあった。このときはなった音はそれに近いものであって、演奏後に本人に訊くと、マウスピースを深めにくわえてリードの振動の自由度を高めた結果に過ぎないと話した。これも林にとってみればひとつの選択肢に過ぎないのだ。

神田のヴォイスはときに全員をとりまくように遍在するが、機をとらえては偏在に変化する。時々刻々と変貌する林の音さえも対話の相手にしてみせる。演奏がほとんど終息に向かっているとき、神田がだれにも依存せずひとりで声のつらなりを創出し、それを興味深そうににやりとして横目で見る林の姿があった。そしてこんどは林が神田の声に近寄った。初共演でこのありようを目撃できたのはすばらしいことにちがいない。

なお、セカンドセットではトロンボーンのブライアン・アレンが参入した。自我を出さずに雰囲気を高めることに専念し、それが表現者としての自我となっていた。これは、かれが世界中の僻地に旅人として身を置き、音楽のみならず映画やテキストを通じて「そこにいること」を刻む人であることと無縁ではない。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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