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Concerts/Live ShowsReflection of Music 横井一江No. 300

Reflection of Music Vol. 90 福盛進也, ソンジェ・ソン East meets East Ensemble


福盛進也, ソンジェ・ソン「East meets East Ensemble」@古賀政男音楽博物館 けやきホール, 2023
Shinya Fukumori, Sungjae Son, “East meets East Ensemble” @Keyaki Hall, Tokyo, February 24, 2023
photo & text by Kazue Yokoi  横井一江


JazzTokyoは本号で300号となる。その記念特集が「ECM: 私の1枚」ということなので、ECMにゆかりのあるミュージシャンを取り上げるのが良かろうと考えた。ところが、ECMからレコードをリリースしているミュージシャンは幅広い。それゆえ今まで撮影した写真にはECMからレコードを出しているミュージシャンが写ったショットがそれなりにあることに気が付く。果たして誰にしようと頭を悩ませたが、昔語りではツマラナイ。2月に福盛進也 と韓国のサックス奏者ソンジェ・ソンによる「EAST MEETS EAST 2023」公演に出かけたので、それを取り上げることにする。2人共、ほぼ同じ頃にCDをECMからリリースしており、さらに新たな活動領域を拓き、今後の活躍が期待できるミュージシャンだからだ。

ミュンヘンに在住していたドラマー福盛進也は、2018年にファースト・アルバム『For 2 Akis』をECMからリリース、大きな話題となったのは周知のとおり。日本人ジャズ・ミュージシャンでECMからCDがリリースされるのは故菊地雅章に次ぐ快挙と異口同音に語られた謳い文句に表れていたように、日本でのECMというブランド力の凄さに私はひどく驚かされた。もしこのCDが、同じドイツのレーベルでも例えばACTからのリリースだったとしたら、これほど話題になることはなかっただろう。それは、福盛自身の音楽性や力量とはまた別のところで働いた力学にすぎない。コロナ禍で海外との行き来が制限され、福盛も日本で足止めされたため、幸か不幸か日本のミュージシャンと交流する機会も増えた。2020年には自身のレーベルnagaluを、2021年には兄弟レーベルS/N Allianceを立ち上げ、演奏活動だけではなくプロデューサーとしての活動も活発化させている。私はECMからリリース云々よりも、寧ろ彼の音楽と向き合う姿勢こそが評価されるべきだと思う。「EAST MEETS EAST 2023」公演も彼と韓国のサックス奏者ソンジェ・ソンによるものだ。ちなみに、ソンも2018年にCD『Near East Quartet』をECMからリリースしている。

「EAST MEETS EAST 2023」は、福盛とソンジェ・ソンが新たに立ち上げたEast meets East Ensembleによる公演である。これまで交流を重ねてきた2人に、韓国のピアニスト、ヨンジュ・ソン、そしてnagaluから『星を漕ぐもの』をリリースしているRemboatoで福盛と共に活動しているベーシト西嶋徹とギタリスト藤本一馬 が参加した日韓クインテットで、演奏した曲の大半はメンバーのオリジナル曲だった。シンプルながらも抑制された美しさを持つ楽曲、緊張感もまた心地よい。放たれた音の響きがレイヤーのように重ねられ、織りなされるサウンドは、静的でありながらもしっとりとした情感を漂わせる。特に印象に残ったのはソンジェ・ソンのサックス、コントロール力抜群で抑制の効いた叙情的な音世界を繰り出す。その中でさりげなく独特な奏法を披露していた場面があったのが印象に残った。ヨンジュ・ソンの一音一音の立ち上がりが美しいピアノ、共に活動してきて福盛の音楽観をよく理解しているベースの西嶋の存在、藤本の間合いを保ったギター演奏も功を奏していた。福盛の繊細で研ぎ澄まされたドラミングは言うまでもない。余白の中から、彼らの音楽的な趣向が読み取れる。「EAST MEETS EAST」という公演タイトルが示唆するのは東アジア、とりわけ日韓の音楽的交流ということだろう。よく知られている唱歌<待ちぼうけ>、そしてアンコールではフォーク・クルセイダースで知られる北朝鮮の楽曲<イムジン河>も取り上げられていた。こういうところにも彼らの志向が現れている。東アジアと言っても、地域によって異なる文化的バックグラウンドがあり、様々な音楽文化が在る。とても一言で括れるものではないが、東アジアに生きる者に通じる感性は確かにあり、それがジャズというフォーマットを通したオリジナルなサウンドとして表出されていた。

日韓関係というと何かと歴史的、政治的な問題がついて回る。とはいえ「日韓文化交流」などという大義名分を建てなくても、もっと自然体で交流できればよいと思う。だいいち音楽家や芸術家はノマドのように渡り歩く者たちだ。今回「EAST MEETS EAST 2023」公演は韓国でも2箇所で行われた。これがひとつのステップとなってミュージシャン同士が繋がっていくことを、今後のさらなる活動を期待したい。


East meets East Ensemble
福盛進也 (drums)、ソンジェ・ソン Sungjae Son (sax)、ヨンジュ・ソン Young Joo Song (p)、西嶋徹 (b)、藤本一馬 (g)

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横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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