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Concerts/Live ShowsJazz Right NowNo. 302

#1262 Entropic Hop/日本ツアー・関東の陣

Text by Akira Saito 齊藤聡
Photos by m.yoshihisa and Akira Saito 齊藤聡

Ayumi Ishito 石当あゆみ (tenor sax, etc.)
Kevin Shea (drums)
Aron Namenwirth (guitar)

2023/5/12(金) なってるハウス(入谷) with Kohsetsu Imanishi 今西紅雪 (箏)
2023/5/13(土) Jazz Spot Candy(千葉) with Koichi Makigami 巻上公一 (voice, theremin, cornet, 口琴)
2023/5/14(日) No Room for Squares(下北沢) with Reona レオナ (tap) and Misaki Motofuji 本藤美咲 (baritone sax, etc.)
2023/5/21(日) OTOOTO(東北沢) with Toshimaru Nakamura 中村としまる (no-input mixing board)

ブルックリンを主な拠点として活動するトリオ・Entropic Hopが来日し、日本各地11箇所でライヴを行った。サックスの石当あゆみは立命館大学を卒業したあとほどなくして渡米し、東京での演奏経験はない。ギターのアーロン・ネイムンワースは独自のコミュニティにおいて求心力を持ち、柔軟なサウンドの形を組成している。日本において知名度が高いのはドラムスのケヴィン・シェイであり、Mostly Other People Do The Killingをはじめとした先鋭的なミュージシャンとの活動が注目を集めてきた。マット・モッテルとのデュオユニットTalibam!での痛快な日本ツアー(2019年)も記憶に新しいところだ。

ここでは、関東での4回の演奏について報告する(これ以外に、関東ではひかりのうまにおいてzzzpeakerと共演した)。

なってるハウス with 今西紅雪

テナーのネックにはピックアップとプリアンプ、足もとにはさまざまなエフェクター。このスタイルで、石当あゆみはさまざまな音を発する。テナーの生音がダイレクトに発せられなくてもバンドサウンドに埋もれることはなく、むしろその多彩さが聴く者に悦びを与えていることはちょっとした驚きだ。観客席を見ると多くの愉悦の表情。

ネイムンワースは8歳のときから使っているというリコーダーからはじめた。ギターはもちろん弦楽器でありながら、サックス+エフェクトにも、箏にも、すばらしくマッチングする。ケヴィン・シェイはつねに演奏の愉しさ爆発の人。かれらの音は各々が出たり引き立てたりして常に主役が変わり続ける。そして箏の今西紅雪はバンドサウンドとずっと慣れ親しんでいたかのように遊泳し、間隙でふわりふわりと浮かび上がる。

Photo Gallery (taken by m.yoshihisa)

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Jazz Spot Candy with 巻上公一

巻上公一の名前はニューヨークでもよく知られているところであり、今回メンバーのたっての希望で共演が実現した。巻上が持ち込んだのはテルミン、コルネット、口琴、もちろん声帯。あらゆるものに化ける唯一無二のサウンドだが、特筆すべきは本人のインプロヴァイザーとしての力量だけではない。ときにじっと座り、大人のバランス感をもってトリオに演奏の隙間を与え、ときに大きく刺激し、トリオのダダイスティックな魅力を何倍にも増幅した。

ネイムンワースは自作の詩を朗読し、また演劇的に笑い声を立てたりもして、ギターだけでないかれのおもしろさを発散した。石当は初日よりも音をカラフルにして、ネイムンワース、シェイ、そして巻上が愉しみながら繰り出し続ける音とともに場を刺激し包み込みもする。そしてシェイは飽くことなく場を揺らし続ける。

Photo Gallery (taken by Akira Saito)

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No Room for Squares with レオナ、本藤美咲

レオナが全身で放つ音がシェイとともに快感的な喧噪の場を創り出し、リズムも質も多様であるだけにそれらが重なりあって全体を包み込んだ。しかし、それがノイズ・ミュージックのみならずアンビエント・ミュージックたらしめているのは石当と本藤がいてこそだ。埋没することなく、無意味に我を出すことなく、誰がどの音を出しているのかわからなくなる音空間。その雲にばりばりと雷を落としもする本藤のクラリネット、ネイムンワースのギター、レオナの打撃と摩擦。そして全員の哄笑。

観る者の脳には、これがずっと続いてほしいという脳内麻薬が生み出されたにちがいない。

Photo Gallery (taken by m.yoshihisa)

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OTOOTO with 中村としまる

中村としまるは唯一無二のノイズ発生者だが、もはやことさらに自身の音を前面に押し出すことはしない。それどころかいつもの生活の延長で、まるで囲碁を愉しんでいるかのようであり、これがサウンドに含み笑いと覚醒をもたらした。みごとである。

そして濁ったノイズが重ね合わされ、その軽やかなずれが快感を呼び起こす。雲の切れ間からあらわれるのはネイムンワースの叫びと硬質に光るギター。シェイはここでは雲の一部として内部から絶えず振動を与えた。

このように、Entropic Hopはゲストに応じて異なるサウンドカラーを出した。これはかれらのミュージシャンとしての成熟ぶりを示すものにほかならない。

Photo Gallery (taken by Akira Saito)

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(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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