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Jazz and Far Beyond

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Concerts/Live ShowsNo. 302

#1265 Robert Glasper @ Billboard Live Tokyo
ロバート・グラスパー@ビルボード・ライヴ 東京

text by Hideyuki Kiuchi 木内秀行
photo: cherry chill will.@cherrychillwill

2023年5月29日 Billboard Live Tokyo

Robert Glasper / ロバート・グラスパー (Keyboards)
Burniss Travis Ⅱ / バーニス・トラヴィスⅡ (Bass)
Justin Tyson / ジャスティン・タイソン (Drums)
DJ Jahi Sundance / DJ ジャヒ・サンダンス (DJ)


Robert Glasperは、ジャズのみならずヒップホップやR&Bなど多種多様な音楽の要素を取り入れ、かつDJを交えた編成で、変幻自在のパフォーマンスを行う。この日のBillboard Live TokyoのライヴもピアノトリオにDJを入れた編成。この編成でのライヴを見るのは、昨年秩父で行われた野外フェスのLove Supreme Jazz Festival 以来。なお今年の5月には、やはりLove Supreme Jazz Festival で、Kamasi Washington や Terrace Martinと組んだ Dinner Party というユニットに参加したRobert Glasper を見ている。
Billboard Live Tokyo の客席は当然満員御礼巨人軍。しかも客層は極端にオッサンばかりとか、極端にシニアが多いという感じではなく、老若男女バランスの取れた感じである。この人が時代を呼吸して現代ジャズの中心になっていることを反映してか、この人が大勢の、しかも多種多様な人々から支持を得ていることがよくわかる。

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かつてジャズはモダンジャズだけでは生き延びて来られず、ある時はボサノバなどのラテン音楽を導入、ある時はロックと結合してフュージョン、ある時はR&Bと結合してスピリチュアルというように、多種多様な音楽と混血することによって新たな命を授かり、そして生き延びてきた。
Robert Glasperもまさにそれを体現するかの如く、ジャズにHip HopやR&Bなど、様々な音楽を融合させたパフォーマンスをこの日も展開する。こうしたパフォーマンスを見ると、やはりRobert Glasperは現代ジャズのイノベーターなのだなぁとの思いを新たにする。
また、このバンドのドラムスのJustin Tysonがすばらしい。Robert Glasperの様々な音楽をハイブリッドさせるアプローチに呼応して、Hip Hop、R&B、ジャズ等、特定のジャンルの音楽に拘泥することなく、様々なビートを駆使して切れ味鋭く変幻自在にドラムスを展開し、Robert Glasperのパフォーマンスと混然一体となって独自の音世界を醸し出す。

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Robert Glasperのパフォーマンスに特徴的なのは、HipHopやR&B等、様々な音楽の影響を受けつつも、黒さを前面にゴリゴリと出さずにRobert Glasper自身の音楽として自然に流出させている点である。ここでのパフォーマンスでは時にHip Hop のリズムが使われ、DJのサンプリングでもブラックミュージックが使われているのだが、この人のピアノから流れ出る音は粒よりで美しくクラシックのそれに近い繊細な音であり、そのパフォーマンスも、例えばシンコペーションを多用したりして粘っこい、いかにもアフロ系ジャズピアニスト特有の音という感じではない。無論時折R&BやHip Hop風の演奏となるときに黒光りを感じさせるときはあるが、それもこの人の広範な音楽世界の一側面に過ぎず、その全貌を示すものではない。
Robert Glasperの音楽はジャズ、Hip HopやR&B等、様々な音楽を自身の中で消化した上で換骨奪胎し、自身の美意識で洗練されたもので、それをストレートに観衆に提示するのではなく、火であぶったり煮込んだりとCookし、そして変化球で投げつけてくるというものであると思っている。
また、Robert Glasperのユニットにはジャズミュージシャンによく見られるような「俺が俺が俺が!!!」というような強烈な自己主張は見られず、むしろピアノ、ベース、ドラムス及びDJの四者の、自然体での調和的演奏がその特色であると思った。Robert Glasperの指先からツルツルと流水のように流れ出るキラキラして美しい粒よりのフレーズ、リズムセクションの繰り出す変幻自在のリズム、そしてDJの繰り出す効果的なサンプリングといった、それぞれのプレイヤーのパフォーマンスが混然一体となり、いわば「流水不争先」ともいうべき自然体で、魅力的な音魔術・音世界を構築し、聴き手はそこに吸い込まれていくのである。

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先日ワタシは秩父で行われたLove Supreme Jazz Festivalに行って、Dinner Partyの一員としてパフォーマンスしていたRobert Glasperを聴いてきたが、やはりこの時にもKamasi WashingtonやTerrace Martinとともになされたパフォーマンスから、変幻自在の音世界が「流水不争先」とばかりにツルツルと自然体で紡ぎだされ、あれよあれよという間にそこに吸い込まれたのを覚えている。そこでの演奏には「俺が俺が俺が俺が!!」といったイノシシみたいな趣はなく、円熟と老練すら感じるような手練手管が繰り出す豪華絢爛たる金襴緞子、という趣であった。この日の演奏にもそれを感じた。
この日の演奏もピアノ、ベース、ドラムス、そしてDJから成る自然体で変幻自在のパフォーマンス。その中で時にHip Hopが、時にR&Bが、時にジャズが、そして時にその組み合わせとかそのいずれでもないものが、浮かんでは消え消えては浮かぶ。その中にはHerbie Hancockの<Chameleon>のフレーズも引用されたりして遊び心に富む。
無論時に彼らのパフォーマンスはアグレッシブだったりもするし、実に刺激的なのだけれど、究極的には彼らのプレイは自然体で混然一体となって最後「流水不争先」という感じでまろやかに調和して客を夢見心地に誘引する。そしてスッと音が消え、客がハッと我に返り、「あれはいったい何だったんだろう」という感慨を客に残してパフォーマンスが終わる。

Robert Glasperの、ジャズ、R&B、Hip Hopといった様々な音楽要素をハイブリッドさせつつも、そのいずれでもない音楽。こういうものを聴いていると、ジャズとかR&BとかHip Hopとかの音楽のジャンル分けがいかに無力であるかがよくわかる。これがまさに現代ジャズ(音楽のジャンル分けが無力であると言っておきながら恐縮であるが)の到達点の一つを示すものだと思った。今後もRobert Glasperは現代ジャズをけん引するイノベーターのひとりとして有力なプレイヤーであろう。そして、こうした動きには、近時のBlue Noteの社長がDon Wasであることがかなり大きいと思っている。
ひょっとしたらMiles Davisもこういうことをやりたかったのかもしれない。Easy Mo BeeにDJをやらせ、Marcus Millerに伴奏のカラオケを作らせ、Milesはその中で存分に吹きまくる。もっとも、Milesの場合は「ジャ~~~ン!!俺がマイルス・デューイ・デイヴィス三世!!!何が新しいって?それは俺しか知らない。どうだ、クールだろう。参ったか。」みたいな感じで、「自然体」「流水不争先」のRobert Glasperとは大分趣は異なるだろう。

そんなこんなで5月に秩父のLove Supreme Jazz FestivalとギロッポンのBillboard Live Tokyoの2回もRobert Glasperを堪能した。あー面白かった。

*本稿は、2023年6月1日付けFacebookに発表した内容を改稿したものです。


木内秀行 Hideyuki Kiuchi
1965年群馬県高崎市生まれ。1989年中央大学法学部卒業。 1993年早稲田大学大学院法学研究科修了。 1999年ペンシルヴェニア大学ロースクール修了。弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)。中学生の頃 YMOを聴いて音楽に開眼し、その流れでフュージョンに親しんだ後、大学2年生の時 Bill Evans を聴いて一生ジャズを聴いていこうと決意する。ジャズに親しんで司法試験合格が遅れるが、「ジャズなくして何の人生かな」と一片の反省もない。現在もジャズや R&B など幅広く日常的に聴いている。

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