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Monthly EditorialConcerts/Live ShowsEinen Moment bitte! 横井一江No. 303

#38 第52回メールス・フェスティヴァル 2023
52. Moers Festival 2023

text & photo by Kazue Yokoi  横井一江

 

第52回目となったメールス・フェスティヴァル、今回も本会場、屋外ステージ、アネックスとしてセッションが行われた学校、教会やメールス市内でのライヴなどを含めると軽く100を超えるコンサートが開催された。他にワークショップ、子供向けのプログラムも行われ、また渋さ知らズで登場するようなオブジェを操る人が現れたり、軽トラックのような車の荷台にアップライトピアノをのせ、その上でミュージシャンが演奏するピアノモバイルが街中を移動していた。会場周りには例年通り露店が出て、音楽フェスティヴァルとは関係なく精霊降臨祭の休日をここで楽しもうとする人々が多数集まり、賑わっている。この風景は何十年も変わらない。残念だったのは、今年は僅かな例外を除いてライヴ・ストリーミングがなかったこと。日本でもよく知られているフェスティヴァルで、聴衆は世界各地にいると思われるのだけに、ストリーミングは復活してほしい。

このフェスティヴァルは「インターナショナル・ニュー・ジャズ・フェスティヴァル・メールス」としてスタートしたが、その名称は「メールス・フェスティヴァル」に変更になり、昨年はあらためて「ジャズ・フェスティヴァルではない」という一文を掲げていた。それはまた「ジャズ・フェスティヴァルでもある」ということをも意味する。今年はREVOLUTION 、?AFRICA 、KYLWIRIA 、VALUE 、LIBERATION という複数のテーマが設定されていた。そして、さらにそれらを繋いでいこうという目論見なのだろう。そこに気が付いたのは、各所で使用されていたフェスティヴァルのイメージ画像を眺めていた時だった。神経回路が描かれたイメージは、フェスティヴァルの全体像を上手く視覚化している。とはいえ、フェスティヴァルの全て観るにはあと少なくともクローン2人が必要だ。ゆえに観ることの出来た、把握することが出来た範囲内でのレポートとなることをご了承願いたい。

今回特筆すべきことは、ジェルジュ・リゲティ生誕100年を記念するプログラム「キルヴィリア KYLWIRIA」が、独自の視点から組まれていたことだ。これには息子であるルーカス・リゲティとの協働があったことも大きかったと推察する。ルーカス・リゲティは作曲家であるだけではなく、ドラム/パーカッション奏者で即興演奏も行い、ニューヨーク・ダウンタウン・シーンとの人脈もある。そしてまた、アフリカの音楽への造詣も深いことから、多角的なプログラムが可能だったのだろう。「キルヴィリア」とはリゲティが少年時代に作り上げた架空のユートピアのことである。それをテーマに、6人の作曲家に依頼した(その中にはネイト・ウーリーの名前も)「ミュージック・フォー・キルヴィリア」をスザンネ・ブルメンタール Susanne Blumenthal が指揮し、ケルン音楽舞踊大学の学生のグループ ColLAB Cologne に作曲家も加わった編成で初演。100歳の誕生日にあたる5月29日には、リゲティ唯一のオペラ<ル・グラン・マカーブル>を連想させる<プチ・マカーブル>というタイトルのルーカス・ドーラー Lukas Döhler (コンポーザー・キッズ/メールスター・キッズ*)が新たにリゲティ作品をアレンジした楽曲を初演した。演奏したのは、子供達やデュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽大学の学生、そしてまたエディ・クォン (vln)、イーサン・アイバーソン (p)、ジルケ・エバーハルト (sax) で編成されたオーケストラである。このように若い世代を取り込んだプロジェクトを行うことは意味深い。また、トロンハイム・ヴォイスの「フォルクローレ」はリゲティの音楽言語、エレクトロニクス、そしてライトを効果的に用いた印象に残るステージ・パフォーマンスだった。教会での公演ではSWRヴォーカル・アンサンブルが<ルクス・エテルナ>、トロンハイム・ヴォイスが<ルクス・エテルナ・リミックス>を聴かせた(→YouTubeへのリンク)。また、ルーカス・リゲティがブルキナファソのミュージシャンと結成したエレクトロニック・ミュージック・グループ「ブルキナ・エレクトリック」はグループでのステージだけではなく、現代音楽を演奏する「アンサンブルBRuCH」との共演も行なった。この他に、アレクセイ・クルグロフ (sax)/カリーナ・コジェフニコワKarina Kozhevnikova (p, vo)/サイモン・カマッタ (ds) のステージでは、リゲティ生誕100年ということからエチュードの4番を編曲した作品を演奏するということも。「KYLWIRIA」はこのフェスティヴァルの全体像を表象するテーマでもあったように私は思う。
(*メールス・フェスティヴァルでは18歳以下の若い音楽家を招聘し、フェスティヴァルで演奏する曲を作曲してもらう制度がある)

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?AFRICA、アフリカという言葉の前につけらえた?マークがミソである。このテーマでのステージとしては、まず「ブルキナ・エレクトリック」や「ブルキナ・エレクトリック+アンサンブルBRuCH」が挙げられる。エヴ・リセール Eve Risser による「レッド・デザート・オーケストラ」もテーマ的に繋がるだろう。オーケストラのメンバーはフランス人とアフリカにルーツにあるミュージシャンで、有機的なサウンドを展開させ、観客を惹きつけていた。彼女を知ったのはプリペアード・ピアノ・ソロ・アルバム『des pas sur la neige』(clean feed) (→リンク)、その後2016年のベルリンジャズ祭でスタンディング・オベーションとなった「ホワイト・デザート・オーケストラ」を見たことから(→リンク)、以前より着目していた。エヴ・リセールにはインタビューしているので、次号以降であらためて取り上げたい。プロジェクトのテーマ性ということでは、ケニー・ギャレット (sax, key) によるジュジュやヨルバの流れを汲む音楽を用いて西アフリカ音楽の起源を考察するプロジェクト「ザ・サウンド・フロム・ザ・アンセスターズ」も繋がってくる。その公演は、サウンドがもたらすグルーヴ感からか多くの観客がダンスを始め、それに煽られたドラマーがいつまでも叩き続けたことから、メインホールのトリだったこともあったことも幸いして、予定よりも40分ぐらい長く演奏していたように思う。また、このところ毎年アフリカからミュージシャンを招聘しているが、今年は赤道ギニアからシンガー・ソングライターのネリダ・カーが出演していた。

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リジェンドやキャリアの長いミュージシャンを紹介するプログラムVALUEは充実していた。旧ソ連のフリージャズを語る時にまず名前が出てくるヴャチェスラフ・ガネーリン(イスラエル在住)、ウラジーミル・チェカーシン (sax) とウラジーミル・タラーソフ (ds) とのガネーリン・トリオ(→リンク)で知られるパイオニアである。メールスにはリトアニアの逸材ピャトラス・ヴィスニャウスカス(sax)、ドイツ人のクラウス・クーゲル (ds)とのガネーリン・トリオ・プライオリティーで出演した。ガネーリンはピアノの上にシンセサイザーを置き、ドラムも使用。完全即興演奏だったが、豊かな音色と音響、多様な音楽要素によって、西欧の即興演奏とは一味違う音楽世界を構築していた。彼についても次号以降であらためて取り上げたいと考えている。フランクリン・キアマイアー (ds) がリーダーで若手のデイヴィス・ウィットフィールド (p) が音楽監督を務める「SCATTER THE ATOMS THAT REMAIN」にはゲイリー・バーツ (sax) がゲストとして参加。まさかこのような形でゲイリー・バーツを観ることになるとは思わなかった。おそらく出演者の中では最年長だろう。コルトレーンやファラオ・サンダースといった先達の音楽性を引き継ぎ、いわゆるスピリチュアルな演奏をするバンドだが、ゲイリー・バーツが入り、映像を取り入れた「奴隷解放組曲 Emancipation Suite」は歴史を振り返るプロジェクトで、LIBERATIONというテーマにも繋がっていた。マリリン・マズールもソロで多彩なパーカッション・サウンドを聴かせた他、デンマークの女性グループ「セルヘンター Selvhenter」と共演。そして、今年80歳になるギュンター・ベビー・ゾマー (ds) はバンド名からクリス・マクレガー「ブラザーフット・オブ・ブレス」へのオマージュだと想像がつく独英の世代を超えたミュージシャンを集めたビッグバンド「ブラザーフット&シスターフッド」で、ギャビン・ブライヤーズ (b) はアンサンブルで<タイタニック号の沈没>を演奏、またビリー・ハート・クインテットも出演していた。

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REVOLUTIONというテーマでは、2会場で2組または2人のミュージシャンが互いの演奏をヘッドフォンで聴きながら演奏、それを融合させたサウンドをオンエアするという試みも行われた。ルーカス・リゲティの作品<Em Meme Temps>を演奏したステージ(本会場+屋外ステージ)、見た目はチェンバロに似た Omniwerkという楽器を弾くアキ・リッサネン(本会場)とジョー・ワーク(ペダル・スティール・ギター、屋外ステージ)がそうだ。会場にいる観客はサウンドの全貌を捉えることが出来ない。ゆえに聞き手としてはもやもやした気持ちになってしまったが、後日 Moers Festival のサイトにあるバーチャル空間 moersland でそれを観ることが出来たようだ。見方を変えれば、この試み自体が現代を表象しているようにも思えて興味深い。バーチャル空間 moersland を取り込む発想自体は面白いが、まだまだ工夫の余地がありそうである。カナダのジェイソン・シャープ (bs, elec, comp) による音楽と映像そしてテキストによるプロジェクト「FYEAR」は、アコースティック楽器とエレクトロニクス、言語とヴォイスによって織りなされる世界と映像が絡み合うステージ。ともすると寄せ集めになりかねないが上手くそれを回避、映像などから示唆されるものからLIBERATIONというテーマにも繋がっているように受け取れた。また、今年のアーティスト・イン・インプロヴァイザーであるサウンド・アーティスト、クリストファー・レッツ Christopher Retz、スティーヴン・コッホ Steven Koch、ヤン・クラウゼ Jan Krause による「リカージョン RECURSION 」はエレクトロニクスが発する実験的なサウンドは暗く重く、多くの問題を抱えて停滞している現代を象徴しているようだった。

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政治的なことでは、ウクライナとロシアが戦争中であり、NATOがウクライナを支援しているにも関わらず、ロシアからアレクセイ・クルグロフ(2020年1月に来日している→リンク)とカリーナ・コジェフニコワを招いたことは記しておかねばなるまい。現在ロシアとの航空路は閉ざされているので、彼らはトルコ経由でやってきたという。残念ながらもう一人ロシアからくる予定だったピョートル・タラライはビザが発給されず来ることが出来ず、代わりにサイモン・カマッタ (ds) が出演していた。クルグロフはビッグ・ジェイ・マクニーリーを思わせるような寝転んでサックスを吹くパフォーマンスを行うなど、シアター性が強いと言われるロシア的なステージも垣間見せていた。最後に演奏した<ロンリー・ウーマン>がなんとも心に響く。クルグロフとコジェフニコワは他にセッション、ワークショップ、ピアノモバイルでの演奏などであちこちに出没していた。今回コジェフニコワは主にピアノを弾いていたため、クルグロフが最高の歌手というコジェフニコワの歌を少ししか聞けなかったことが残念だった。ロシアからミュージシャンを招いたことに批判的な声があったと聞いたが、こういう時代だからこそ扉は開けておかねばなるまい。ましてや音楽である。これについてはメールスの姿勢を私は評価したい。また、イランからもテンバー・アンサンブルが出演、ネイやサントゥールといった伝統楽器とエレクトロニクスのコラボレーションで伝統に根ざしながらも現代的なサウンドを創出していた。

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また、テーマとは別にこのフェスティヴァルを特徴づけている即興演奏では、ロンドンのCafe OTOとのコラボレーション・プログラムが行われた。ドイツのジョエル・グリップ (b)、イギリスのエルヴィン・ブランディ (voc, electronics)、そしてタベラ・ララ・ンゴズィ・ブリックス Tabea Lara Ngozi Briggs  (vo, harp, electronics)が出演。Cafe OTOとのコラボレーションに際しては、オンラインでリハーサルをしたとのこと。それ以外にも即興音楽のステージが幾つもあり、シーブルック・トリオ(ブランドン・シーブルック (g)、ジェラルド・クリーヴァー (ds)、クーパー・ムーア (Diddley Bow))や、2001年に故ジョン・ラッセル(→リンク)と来日しているエヴァン・パーカーもそのサックス演奏を高く評価していたシュテファン・コイネを始めとする多数のミュージシャンが出演していたばかりか、ブーカルト・ヘネン音楽監督時代の「スペシャル・プロジェクト」の流れを汲むセッションが別会場では早い時間から行われ、盛況だったことも付記しておこう。

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本稿に取り掛かっている最中にペーター・ブロッツマンの訃報が入ってきた。彼がFMP (Free Music Production) を立ち上げた一人であることは夙に知られているが、メールス・フェスティヴァル立ち上げにも実は大きく寄与していたことはあまり知られていない。彼が住むブッパータールとメールスは同じノルト・ライン=ヴェストファーレン州にあり、距離的にもそう遠くはない。ブーカルト・ヘネンのクラブ、レーレ Die Röhre に時々出演していたブロッツマンはヘネンと共にメールスにある古城の庭でフェスティヴァルを行うことを思いつく。1971年に行ったそのフェスティヴァルが成功したことで、翌1972年からメールス市文化部の主催となった。ブロッツマンやペーター・コヴァルトはメールス・フェステヴァル初期の数年、フェステヴァルに関わっていた。そして、運営から外れた後も度々出演しており、通算18回出演、最後は2018年だった。ブロッツマンは、50回を記念して出版された『[re] visiting Moers Festival』(Wolke Verlag, 2021) に寄せた文章で、規模が拡大した現在のフェスティヴァルについて「音楽そのものは後景に追いやられ、フェスティバルは単なるエンターテインメントに堕していった」とクリティカルな言葉を投げかけていた。私はメールス・フェスティヴァルが単なるショーケースになってしまったとは思わない。もしそうなら20時間かけて日本からわざわざ行く意味はないだろう。とはいえ、このフェスティヴァル立ち上げ時のスピリットは尊重されるべきだと考える。それでこそ、メールス・フェスティヴァルの存在意義がある。以前、現音楽監督ティム・イスフォートは「フェスティヴァルを当初の精神を持って続けていきたい」と語っていた。それは、当初と同じということとは全く違う。かつてブーカルト・ヘネンにインタビューした時に「大規模なフェスティヴァルは妥協の産物だ」と言っていたように(→リンク)、有志が立ち上げた頃と違い、規模的に大きくなり、公的な資金も入り、スポンサーもいる関係で一筋縄ではいかないことは理解できる。デジタル時代の功罪が相半ばする現代に見合ったフェスティヴァルのあり方を探索している最中のようにも思える。今年のビジュアル・イメージには神経回路の軸索を行く帆船が描かれていた。メールス・フェスティヴァルという帆船の次なる航路を期待しよう。

Moers Festival website:
https://www.moers-festival.de/

 


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#39 アレクセイ・クルグロフに聞く
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〜コロナ時代を経たフェスティヴァルのあり方を問う
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Moers Festival 2019 ~ Photo Document Part 3
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横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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