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Concerts/Live ShowsNo. 305

#1271『そらのおと うみのいろ 作曲家 平野一郎の世界 2023』

2023年8月12日(土)@東京銀座ヤマハホール
Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代

出演:
ヴァイオリン:成田達輝 NARITA Tatsuki
ジドレ Zydre
對馬佳祐 TSUSHIMA Keisuke
ヴィオラ:安達真理 ADACHI Mari
チェロ:山澤慧 YAMAZAWA Kei
ピアノ:佐藤卓史 SATO Takashi

プログラム:
平野一郎
1. 空野 (2001)[無伴奏ヴァイオリン]KUUYA for Unaccompanied Violin
2. 二つの海景 Two Seascapes
♀祈りの浜 (2004)[ピアノ] INORI NO HAMA[Prayer on the Seashore]for Piano
♂怒れる海民の夜 (2007/2011) IKARERU KAIMIN NO YORU[The Night of Angry Seamen]for Piano
3. ウラノマレビト (2003)[弦楽四重奏]URA NO MAREBITO for String Quartet
4. 双子の鳥 二つのヴァイオリンによる祀りと遊び (2022) [ヴァイオリン二重奏]FUTAGO NO TORI (Twin-soul Birds) Rites & Games for 2 Violins 二十二の二重奏*22 Duos
5. アマビヱ ヤポネシア民謡集 no.2 (2020/2023) [ヴィオラ&ピアノ]AMABIYE Yaponesian Folk Songs no. 2 for Viola & Piano
6. 獏の舟 無伴奏チェロの為の舟歌 (2022) [無伴奏チェロ]BAKU NO FUNE Barcarolle for unaccompanied Cello
7. 鱗宮 (2006) [ピアノ&弦楽四重奏]IROKO NO MIYA for Piano & String Quartet


「現代音楽」や「前衛」という言葉にまとわりつく近寄り難さや小難しさは何だろう。概念先行、新しさとは何かの追及-そうした初動の距離感を払拭する存在が平野一郎である。分かりやすいとか親しみやすい、というのではない。音楽に「実体」があるのだ。歴史の襞(ひだ)を押さえた深大なるナラティヴ。耳を聳てるだけではなく、視覚をリンクさせて総合的に時空間を把握してこそ立体的な体験となる。「個展」と題するのも理に適う。平野一郎の名を知ったのは2016年。館野泉とヤンネ館野へ献呈された『二重協奏曲〈星巡ノ夜〉』に遡る。大地の騒めきに絡めとられるような興奮が忘れられない。五感と記憶、想像力がフル稼働されるのだ。7年ぶりとなったこの日も例にたがわず。音楽の背後に控える濃厚な土着性が瞬時に皮膚から沁み込んでゆく。即効、タイムラグなし。概念に音が従属するのではなく、実在をともなう真に高い演奏効果が求められるその音楽は、楽器の限界値や奏者の本性に肉迫し、仮面を被る隙を与えない。またそうした露見のスリルと相反しつつ相乗するノスタルジックな情緒の連鎖が、動と静、未知と既知、憧憬と懐古、との狭間で不可思議な拮抗をもたらす。

緊迫と磊落(らいらく)のあいだを大きく振り切る羅針盤のような3時間。

異なる奏者の身体を媒体として一期一会の「具現」を経てきた楽曲たちが、この日もジャンルの縛りを要しないトップクラスの演奏家たちによって新たな肉体を得る。刹那の一音が内包するミクロコスモス、その鮮やかさを最大限に浮き彫りにしながら、アンサンブルとしても凄まじい求心力を発揮する。磁石に吸い寄せられる砂鉄のような運動性。音色の概念を押し拡げる、身体全体による多彩なノイズ。とりわけ、個展の中核を成し東京初演となった『双子の鳥 二つのヴァイオリンによる祀りと遊び』は、まさにパフォーミング・アーツ。リトアニア人ヴァイオリニスト・ジドレと日本人ヴァイオリニスト・成田達輝によるデュオは、その入場から退場までのすべての時空を二羽の自由で対等な鳥そのものとなって切り取った(平野自身の言葉を借りれば「憑代」である)。

作曲者本人による独特な文体が散りばめられたプログラムノートを見返す度に、音楽の息遣いが再生される。それほどに、音と言葉が近い。決して易しくはない言葉選びは、我々のDNAに無意識に刻印されながら未だに知覚できぬ世界へいざなう扉だ。
(*文中敬称略)


関連リンク:
https://hiranoichiro.jimdofree.com/%E7%95%A5%E6%AD%B4-shortbiography/
https://www.japanarts.co.jp/artist/tatsukinarita/
https://artscouncil-kanazawa.jp/artists/322/
https://dukesoftware.appspot.com/violinist/Keisuke_Tsushima/
https://www.mariadachi.com/
https://www.yamazawakei.com/
http://www.takashi-sato.jp/

関連レヴュー:
https://jazztokyo.org/issue-number/no-225/post-11283/
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-4972/

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学教育学部卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに親しむ。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。ギャラリスト。拠点は東京都。

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