JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 9,652 回

Concerts/Live ShowsNo. 310

#1288 パット・メセニー「ドリーム・ボックス・ソロ・ツアー」札幌公演

2024年1月14日 17:00開演 札幌文化芸術劇場 hitaru

text by Tomoyuki Kubo 久保 智之
photo by Naoki Harada 原田直樹 (n-foto)

Pat Metheny (guitars)


 パット・メセニーの5年ぶりの来日!

「パット・メセニー来日」のニュースが日本に飛び込んで来たのは2023年10月だったが、その時の驚きはとても大きかった。公演の大部分は「ソロ」で行われる予定で、しかも一ヶ月近く続く長期間のツアーだという。

ツアーを得意とするイメージのパット・メセニーだが、これまでソロでの公演はなかった。最新作の『Dream Box』は、パット・メセニーが一人でギターを多重録音して制作したアルバムではあるが、公演はこのアルバムのような内容なのだろうか… ただ、いくらパット・メセニーといえども、このアルバムのような静かな演奏で、一つのコンサートが成り立つようにはなかなか思えない。「静かなコンサートになるのだろうか…」「でもあのパット・メセニーのことだから、きっと…」 ファンの間では、そんな「モヤモヤ」と「ワクワク」が入り混じったような会話が交わされていた。

発表されたツアーの内容

今回、発表されたツアーの内容は、次のようなものであった。
・「各地のホールでのソロ公演」
・「ブルーノート東京でのロン・カーターとのトリオ公演」
・「ブルーノート東京でのソロ公演」
ホール公演については、東京では開催されず、東京以外の各地を廻る内容とのことだった。「札幌→新潟→高崎→名古屋→大阪(※後に盛岡が追加された)」というコースだと発表されていた。

久しぶりの来日はとても嬉しいニュースだった。しかも今回は前代未聞の長期間の公演で、「ソロ」形式と「トリオ」形式が並行して行われる。またソロ公演には「ホール公演」と「クラブ公演」という選択肢もある。
すべての公演を観に行くということも難しいため、鑑賞にあたってどの公演を優先させるか… ファンを悩ませることとなった。発表当初は、ネット上の様子を見ていると、一番人気は「ロン・カーターとのトリオ公演」のように見えた。

筆者は、札幌公演がツアー初日で日曜日の開催でもあったことから、思い切って札幌まで飛ぶことにした。

札幌会場の様子

札幌公演は、札幌市内の「札幌文化芸術劇場 hitaru」で行われた。「hitaru」は、札幌市の中心にある文化施設の中にあるとても美しいホールだ。開場の少し前に到着すると、入場を待つ列がすでに長く作られていた。
ホール横のロビーには、パット・メセニーのこれまでの活動を振り返るパネル展示があり、開場後の開演を待つまでの間、来場者の多くがそのパネルに見入っていた。筆者も、いくつも並ぶパネルを観て様々なことを思い出し、いっそうの気持ちの高まりを感じながら座席についた。

いよいよ開演!

開場のベルが鳴った。その直後、珍しい演出があった。パット・メセニーからの簡単な挨拶の音声メッセージが会場に流れたのである。
パットの声による英語の挨拶のあと、パットのメッセージを日本語に訳した形で、日本語ナレーションで、これから演奏される内容に関する説明が流れた。その概要は「これからソロ・コンサートを始めるということ」「自分がアコースティック・ギターでの演奏をするようになるきっかけとなった、チャーリー・ヘイデンとの出会い」「バリトン・ギターで2枚のアルバムを出してきたこと」「今日は、いま模索していることも披露する予定であること」といった内容だった。この冒頭のナレーションは、これまでにない演出だったが、それだけに「今回のツアーで自分のやろうとしていることを、確実に観客に伝えたい」というパットの強い想いが伝わってきた。観客側としても、このナレーションによって、これから始まるコンサート内容に集中できるように、気持ちがリセットされたような気がした。

一曲めは、ナイロン弦のアコースティック・ギターによるメドレー。これはパット・メセニー・ユニティ・バンドのツアーなどでも披露されていた内容に近いスタイルであった。〈フェイズ・ダンス~ミヌアノ~プレイズ…〉と、これまでの名曲が滑らかに連なっていった。

photo:原田直樹 (n-foto)

以降、冒頭に説明のあったチャーリー・ヘイデンとの想い出から、『ミズーリの空高く』のアルバムからのメドレーや、力強いストローク音が心地好いバリトン・ギターによる演奏が続いた。スティール弦のアコースティック・ギターでは、〈ゼロ・トレランス・フォー・サイレンス〉を思わせるアバンギャルドな演奏もあった。ライブでこのスタイルの演奏を聴くのはなかなかの体験だ。ピカソ・ギターのキラキラとした美しい音、再びバリトン・ギターによる、『ワン・クワイエット・ナイト』『ホワッツ・イット・オール・アバウト』からの曲もあった。新たに制作されたというナイロン弦のバリトン・ギターで、新曲も披露された。

後半は、アイバニーズのPMシグネチャー・モデルと、ルーパー(その場で演奏した音を録音し重ねることのできる装置)を使った演奏が続いた。まずベースラインをワンコーラス演奏し、次のコード・パートを重ねる。ベースラインは、ギターの音と思えぬ低い音程だったが、オクターバーを使うなど電気的に音程を変化させるわけではなく、6弦を実際にベース弦に張り替えていたようだった。同じギターを使ったブルース、また新曲と思われる曲も披露された。

そしていよいよクライマックス。ボディの薄いギターPM-120を手にすると、チャカ・チャカと賑やかな音がホール内を駆けめぐった。これは、あの大型の演奏装置の音だ! ステージ上は何箇所か黒いベールで覆われたセットがあったが、そのベールがはがされると、ステージ後方の大型の演奏装置と、ステージの上手と下手に一台ずつスタンドに固定されたギター2台が姿を表した。上手側のギターでベース音を弾き、次の下手側のギターに移ってコードが演奏され、それぞれの音が重ねられてループされていった。伴奏がひととおりルーパーに録音されたところでパットが手にしたのは、あのおなじみのギターシンセ・コントローラー! パットを象徴するあのギター・シンセサイザーの泣きのサウンドが朗々とホールを満たしていった。まさにパット・メセニーのすべてが詰まったサウンド! そのすべての音を、ステージ上のパット・メセニー一人が、いまここでつくりあげている! なんという夢のような世界! まさにDream Boxだ!

ギターシンセの熱い熱いソロが終わる。会場から湧き上がる大歓声! 実はこの曲はコンサートの最後の曲であった。
パットは、うなずきながら客席の拍手と歓声に応えた。大きく手を広げ、舞台の上の多くの楽器にも感謝の気持ちを伝えるような仕草を見せながら、袖に引き上げた。様々な形でパット・メセニーの音楽を、そして演奏を表現してくれた。凄まじく高いクオリティの「ソロ・コンサート」であった。

そしてアンコール

満席のホール、2300名の観客からの鳴り止まぬ拍手に応え、最終的には3回のアンコールに応えたパット。

休憩もなく、MCもほとんど無く、トータルで2時間あまりのノンストップの渾身の演奏を終えたパットは、両手を広げ、ニコニコとしながら深くお辞儀をすると、昔からホールでのコンサートでいつもやっていたように、肘を曲げ両腕を脇に揃えるようにして、走りながら舞台の袖へと引き上げていった。

今年70歳を迎える中でも、まだまだ新しいことにトライし続けるスーパー・アーティスト。次回はいったいどんなことを私たちに見せてくれるのだろうか。本当に楽しみだ!

久保智之

久保智之(Tomoyuki Kubo) 東京生まれ 早大卒 patweek (Pat Metheny Fanpage) 主宰  記事執筆実績等:ジャズライフ, ジャズ・ギター・マガジン, ヤング・ギター, ADLIB, ブルーノート・ジャパン(イベント), 慶應義塾大学アート・センター , ライナーノーツ(Pat Metheny)等

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください