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音質マイスター萩原光男のサウンドチェックNo. 335

#20 『大友良英 Special Big Band/そらとみらいと』

text by Mitsuo Hagiwara 萩原光男

Little Stone Records  ¥3,000

災害復興における「ハレの場」としての祭りの音楽

本アルバムは災害復興における「ハレの場」としての「祭り」の音楽です。
ここにある鎮魂・祭礼・神事としての、静寂、祭としての賑わいに参加し楽しむと共に、しかしその根底にある「張りつめたもの」、透明感、音の形を味わって欲しいと思います。
「祭り」は娯楽や伝統行事の継承を超え、被災した地域社会を精神的・社会的に再生させるための重要な「ハレの場 (非日常的な場)」としての役目を果たします (「ハレとケ」については解説を参照してください)。災害という日常の生活 (ケ) が破壊された状態からそれを取り戻すため、住民はじめ関係者が一体となって神事を行い、亡き人々への鎮魂、建築物の再生だけでなく崩壊した伝統的芸能、地域の一体感を取り戻す活動を行います。
その文脈で作られていているこのアルバム、祭礼・神事における音楽と音のあり方で展開されます。

このアルバムは、そのようにして2011年に起きた東日本大震災のあと、その復興のために活動してきた音楽関係者が、ビッグ・バンドの形で作り上げた、ジャズ・アルバムです。

1. このアルバムの音

このアルバムは、祭り、あるいは神事の様式に従って、起承転結で作られています。
ここにある音は、神への捧げ物として、常に祈りと敬虔さがあり、静かに張り詰めている透明感と抑制は他では得られない味わい深いものがあります。

(1)「透明感」「高い緊張感の静寂」の味わいについて
まず、1曲目は透明感のある静寂の中、小音量で仏前の鐘 (オリンという) から始まり、各楽器の響きが、響きすぎず、音作りが楽器本来の音を重視していて、饒舌な響きや付帯音が削除されています。
静寂にある透明感は高い緊張の中での独特の特にバスドラでも感じることができます。
2曲目でもバスドラが出てきますがパフパフという、バスドラを間近で聴く圧迫空気として演奏されます。ズーンとかドーンという長い滞空時間の音楽的な音とは違います。そのため、大型の低音再生能力の高いスピーカーでは聴けますが、手頃なオーディオシステムでは感じられない低音になっています。
そのバスドラが3曲目からは、存在感を感じられる音になります。「転」に当たるこのトラックでは、ダンダンダンとリズムを刻み力強く音楽を進行させます。

(2) 控えめだが生音を感じる低音はこのアルバムの命
ひと通り、筆者のリーズナブル・オーディオで聴いて「こういう感じか!」と理解したのでした。
しかし、そのあと、大型スピーカー JBL4320 で聴いた低音は大きな感動でした。
それまでのシステムでは音楽としては楽しめるものの、音の深み厚みや迫力は感じませんでした。
JBL4320 では、それまで聴こえなかったバスドラの空気の圧迫やエレキベースが聴こえます。
その音は、バスドラの生音を楽器の近くで聴いた音、それは「パフパフという風圧」です。
エレキベースもさりげなく太く厚みがあり、着目して聴けば感動ものです。
その音は一般的なオーディオでも聴けて感じられるような倍音で構成された音でなく、基音がほとんどで、その基音の帯域が周波数的に出ていないと感じられない音です。
音の表現としては理解していただくのが難しいですが、小さなラジカセでも感じられるベースやバスドラの音作りもあるのですが、このアルバムは、そのようには音作りされていません。
音作りには、低音楽器の倍音で聴かせてしまう「わざ」の音作り、ではなく、あくまで楽器の基音で聴かせることにこだわった音作りです。
安易な聴きやすさではない音作りには、神事としての緊張感のある音作りを感じるところです。

(3) アルバム全体が構成的に楽しめる音作り
起承転結で聴いていきます。
冒頭は、仏前の鐘 (オリンという )の響きでスタート、まさに鎮魂で「起」の世界です。自然に音に引き込まれます。
2曲目のフルートが牧歌的に響き、鎮魂の緊張をほぐします。「承」です。
3、4曲目では「転」で荒々しく全奏。前衛的メロディー、エレキギターの咆哮もあり盛り上がります。
7曲目エピローグは祭囃子が遠ざかって、アルバムが終わります。

起承転結で、徐々にリスナーの気分を高めていって、転で盛り上げて、最後のエピローグで祭囃子が遠ざかっていく音楽の構成はなかなか楽しめて、よくできています。
ポイントは、スピーカーのバスドラ、ベースの再生能力にあります。

2.あとがき

「音楽は、より大きな方がよい。1人より2人、2人よりもっとたくさんの人が集まって作る音楽は良い」と言ったオーディオ評論家がいました。彼は、小編成の曲も勿論聴いていましたが、いつも大型スピーカーで、オペラやオーケストラなどを好んで聴いていました。

今回のアルバムはそのように作られていて、ライナーノートにある写真のように多くの音楽家で作られています。その成果はアルバムの隅々にあらわれていて、大型スピーカー JBL4320 で聴いた時は、おおいに感激しました。特に3曲目の前衛的な部分、4曲目の賑わいは沢山の音楽家ならではの迫力があります。

聴きごたえでは、2曲目の牧歌的なフルート、5曲目では、祭りの賑わいから一転して妖艶で、魔界を感じた部分は記憶に残りました。災害復興支援を目的としたこのアルバム、しかし、正しく聴いて味わえば、飾らない中に驚くべき音の深みがありました。

注記:
「ハレとケ」は、民俗学者・柳田國男が見出した日本人の伝統的な世界観・生活様式を表す極めて日本的な概念ですが、その根源は、1603年の『日葡辞書』にも記載が見られる古くからある概念で、日本の伝統的な生活・文化の基盤となっています。
ハレは祭礼や祝い事などの「非日常」で、冠婚葬祭、祭り、年中行事(お正月など)と言った改まった「特別」な時間・空間のことです。晴れ着、晴れ舞台、晴れに通じます。
ケは普段の「日常」を指し、 日々の労働や日常的な生活のことです。
このハレとケのメリハリが心身のバランスや生活リズムを保っているといえます。
《参考文献》
インターネットWikipediaから引用しています

萩原光男

萩原 光男 1971年、国立長野工業高等専門学校を経て、トリオ株式会社(現・JVCケンウッド株式会社)入社。アンプ開発から、スピーカ、カーオーディオ、ホームオーディオと、一貫してオーディオの音作りを担い、後に「音質マイスター」としてホームオーディオの音質を立て直す。2010年、定年退職。2018年、柔道整復師の資格を得て整骨院開設、JBL D130をメインにフルレンジシステムをBGMに施術を行う。著書に『ビンテージ JBLのすべて』。

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