#23 『Han H / Silent Wisdom』
『ハン H. / サイレント・ウィズダム』
text: Mitsuo Hagiwara 萩原光男
地底レコード B115F ¥2,500(税別)6月21日発売予定
Han H guitar
海堀弘太 piano
清水昭好 bass
秋元修太郎 drums
松村拓海 flute
1. Kamakura
2. Ici et maintenant
3. Niwa
4. Silent Wisdom
5. Sugamo
録音日:2023年2月21日
スタジオ:Orpheus Studio 小岩 東京
エンジニアー:菅原なおと
マスタリング:飯塚明宏 studio Chatori
イラストレーション:阿部智子
Produced by Han H
一聴して、音楽的にも音的にもステキなまとまりがあり、その世界に浸れます。
冒頭のピアノの音色は甘美で、これから展開される音楽の味わいを期待してしまいます。4曲目のフルートも同様に秀逸です。
ベース、ドラムも軽く聴き流せないものを感じて、各演奏家の熟達に至る経歴に想いを馳せました。
それもそのはず、以下にネットの引用で紹介するように、パーソネルは世界的にも活動経験のある奏者であることが分かります。
ここでの音楽は、時に聴く者を情感の世界に誘い、しかし心地よさを感じていると、突き放すように異なる展開も現れます。
ここまで比較的手頃なオーディオシステム (ラジカセではない) で聴いたのですが、どうやらさらに深く聴くには超低音までカバーする必要がある、と、スピーカーシステムをJBL4320に変えて聴きました。
ここで、新たな世界がひらけて、例えばドラムがペダルで、音量低くも超低音で時を刻むように打つと、心を心地よい情感の世界から引き戻し、乾いた、言ってみれば「禅」の世界を思わせるように展開します。
そうして5曲でまとめたアルバムは、最後に香港ミュージシャンのファズを使ったロックのエレキギターで盛り上がりエンディングとなります。
味わいのポイントは、ドラム、ベースの超低音にあるようです。もしくは、フュージョンといった軽い音楽として聴き流すのも良いでしょう。
1.このアルバムのメンバーについて
今月の このCDを渡された時、「最近の目新しい日本ジャズを聴いてみてほしい」と言われたのですが、日本ジャズ界新進気鋭と言った人たちで作られています。
海外経験豊富で、日常的にライブ・セッションでも交流があり、そうした場で磨き上げたジャズでした。
ベースの清水、ドラムの秋元、フルート松村の各氏は、日常的にはそれぞれ自分のグループを率いて活動していて、今回のアルバムの演奏にもそこで鍛えられた大局観がジャズを非凡なものにしています。
参考までに各氏のプロフィールから演奏の特性を、ネットからみてみましょう。
ベース清水昭好さんは、確かなテクニックと抜群の安定感、そして独創的なソング・ライティングで数多くのミュージシャンから熱い信頼を寄せられているプレヤー、とあります。14歳からエレキベースを始め、ウッドベースは独学で習得とあります。普通ではない型にはまらない演奏と音作りを感じましたが、そんなところから来ているのでしょうか。低音楽器は、部屋のアコースティックとの関わりが音作りのポイントですが、彼の特異な空間把握は聴きどころです。
ドラマー秋元修さんも、日本のジャズシーンの最前線、そして最尖端で異彩を放っている超実力派ドラマーとあります。デスメタルや最先端のポップスでもトップクラスの足跡を持ってるとのことです。デスメタルとは、ヘヴィメタルから派生した極端に攻撃的で過激な音楽ジャンルです。重厚なギターリフ、超高速のブラストビート、そして「グロウル」と呼ばれる野獣のような低音デスボイスが大きな特徴とのこと、本アルバムのドラムが非凡なところを感じるのは、そんな「異端からの参加」だからでしようか。
フルートの松村拓海さんはクラシックの確かな素養を持ち、ジャズ、ブラジル音楽、即興 (インプロビゼーション) でも活躍する、現代的で色彩豊かなアプローチが特徴とのことで、4曲目の冒頭から聴かせてくれるのですが充分にその実力を見せている、と言えるでしょう。
ある面、確かに「Ici et maintenant」(2曲目タイトル、フランス語で「今ここで」) の現代日本のジャズの最先端なのでしようか。各プレヤーが気負いなく、各自の本来のものを軽く見せながらの好演、と言ったところでしょう。
香港からのHanさんと海堀さんはネットでは記載が見られませんでした。
海堀さんのピアノは、一曲目冒頭から甘い音でインパクトがありました。ギターのHanさんもいい味をだしていて、最後5曲目で炸裂しています。
2.各曲をこう聴きました
未知のものへのアプローチには、無心で音楽と音を耳から導き入れて、心が何を思うか聴いた方がいい、というのが筆者の信条です。
今回はそんな気持ちで聴きました。
1)一曲目はローマ字で Kamakura(鎌倉)とのタイトル、確かにエンディングで流れるカモメの鳴き声は七里ヶ浜か。サービス精神に富んでいます。
冒頭のピアノをゆっくり聴きたいところですが、バスドラの超低音が音量は低くてもドスドスとリズムを刻み通奏低音的。このトラックはピアノとともにギターの響きにも堪能できます。
2)二曲目は フランス語でIci et maintenant 訳すと「ここ、そして今」、日本語では一般的に「今、ここ」や「現時点、この場所」**と翻訳されます。フランス語だから翻訳するのにちょっと時間がかかります。いい音楽を理解するのにこのくらいの手間は必要、という論法もありでしようか。音楽全体もこのくらいの、謎解き・仕掛けがあってもいい。
音の方は、1曲目のカモメの鳴き声が遠ざかると、ギターのメランコリックな旋律、それをしばし堪能。と思うと、ベースのアドリブなかなか良い。そこからピアノに旋律を渡して、ギターも交えて盛り上がる。ピアノもギターも、アダージョのテンポで残響の消え入る消息を追う。メロディも良いが、音の響きの消え入る端、エッジが聴きどころ。
しかし、このバスドラの超低域のペダルは、音量低いながらなんという存在感か!当方では、JBL4320とマッキントッシュアンプで味わいましたが、どうやらこのアルバム、この超低域を聴かないと平凡なフュージョンに終わってしまう。この超低音、ぜひ聴いて味わってほしいところ。
3)三曲目 春のような、ギターとピアノの掛け合い。うららかさを味わう。
4)4曲目 冒頭のフルート、我が家では、サブシステム(タンノイスリーエルゼット)では甘い音色でなかなか良い。JBLでは、ややドライで何をか言わんやの雰囲気。3分からのベースが、部屋の響きをうまく使い、フルートの音楽を支える。ベースの余韻の長さがそう感じさせるか。ドラムも小音量ながらドスドスと響き、インパクトあり。そこに牧歌的なフルート、この人のクラシックの素養見て取れる。6分00秒のバスドラムをペダルで低く静かに響く
5)5曲目 ギターとバスドラの低いドスドスで始まり、次は、ベースとバスドラで超低音の饗宴というところか。ピアノも出てくるがバスドラの音量低いが、高い存在感。やがてエレキギターのファズを軽く使った、ロックギターの盛り上がり。音の世界。H a nさんはこれがやりたかったのか、と、納得。
3.この CDの音
近年日本ジャズの最前線で活躍しているアーティストによる気鋭のアルバムです。ライブ・セッションに慣れているメンバーでのジャズは、聴きやすさにややもすると、軽く楽しく聴き逃してしまいそうです。しかし、ベース・バスドラの超低域をカバーするために大型のスピーカーシステムで聴いてほしいところです。ベースとバスドラの超低域の響きを音楽の一部として構成して聴けるほどのシステムが欲しいところです。そう言った意味では、この低音を理解すると、製作者の狙いの高さがわかります。
ピアノ、ギター、フルートと言ったメロディ楽器の味わいは一般的なシステムでも容易に楽しめるのですが、そこで終わってほしくない、音作りです。そこのメロディで聴き流せば、イージーリスニングかフュージョンの世界。
しかし、超低域をカバーしてベースとバスドラの胎動を聴くことができれば、「禅」の世界でしょう。甘美なメロディ楽器に聴き惚れれば心は豊かな情念に満たされますが、バスドラの超低音の時を刻む打音が乾いてアナーキーな世界に呼び戻し「頭で理解せず、体感せよ」と言っています。(1曲目)
繰り返しますが、ベースとバスドラの超低音は大きなポイントです。
*補足
今回の筆者の試聴スピーカーシステムは、小型スピーカーとして、タンノイ IIILZ(通称、スリーエルゼット)
大型スピーカーにはいつものJBL4320を使いました。
4.後記
何回も書いてしまいますが、ベース、ドラムの超低音をキチッと聴取できるかどうかに、このアルバムの理解がかかっています。超低音の存在は聴けたとしても、音楽の構成要素として、音のピラミッドの底辺を構成して聴けること、ピアノ、フルートと同じ音量レベルで聴いて欲しいと思います。この超低音をジャズ的に評価して聴ければ、音楽的に高いレベルにあります。そうでなければ、聴きやすいフュージョンのアルバムです。
ところで、製作者はその超低音についてどう考えて、このアルバムをリリースしたのでしょう。どう考えても、JBL4320のような大型スピーカーは一般的ではないのですから。通常のアルバムのマスタリングでは、ラジカセでも音確認するので、確かに拙宅のラジカセでも心地よいフュージョンでも聴くことはできました。
