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音質マイスター萩原光男のサウンドチェックNo. 339

#24 『冨永悟 /虎岩 Toraiwa』

text: Mitsuo Hagaiwara  萩原光男

STM Records  STM001 ¥3,000(税込)

冨永悟(tb)
片山士駿(fl)
福島誠(p)
菊池光太郎(b)
江田匠汰(perc, vib)

1. Dawn Waltz
2. Baby Pygmy Hippo’s Yawn
3. 高田城址 — 蓮
4. Hiyori-kaze
5. 組曲《長瀞岩畳抄》I. Tectonic Pulse — 地殻の拍動
6. 組曲《長瀞岩畳抄》II. 赤壁の陰で — Where the Wind Passes
7. 組曲《長瀞岩畳抄》III. 虎岩 — In the River’s Pulse
8. The Highway

Recorded at TAGO Studio, Takasaki, Gumma


高品位の音でよくまとまっているアルバムですが、聴きどころはピアノにありました。

昨今人気のピアノ、ファツィオリを使って (筆者類推) このピアノならではの響き・余韻の美しさは聴きどころです。もう一つは、ファンキー・ジャズのホレス・シルヴァーを知ってジャズに熱中するようになったというピアニスト福島誠氏の演奏です。弾き手が楽しんで繰り出す、誰でも口ずさめるシンプルで多彩な音の粒立ちが魅力です。
勿論、リーダー冨永悟氏のトロンボーンの力量も確かで、分厚い音を楽しめます。彼の初作品集でありながら、冨永氏のベテラン奏者を率いて音楽をまとめているコーディネート力も見逃せません。

1.このアルバムの理解のための予備知識

①謎のピアニスト・福島誠
このアルバムはピアノを中心に楽しみましたが、ピアニスト福島誠氏はわからないことが多く、謎のピアニストです。年齢も不詳です。
福島誠氏は以下のように紹介されています。
・幼少期からエレクトーンを習っていたが、ジャズ・ピアニストのホレス・シルヴァーの曲を知ったのをきっかけにジャズに熱中するようになり、ピアノを始めた。大学ではジャズ研究会に所属し、在学中から演奏活動を行う。伝統的なスタイルから現代的なアプローチまで幅広く模索している。現在都内で演奏活動中 (TACHIKAWA JAZZ NIGHT:8月22日の出演者紹介による)。
・精神科医で二足のわらじであることも、彼の音楽の大きな部分を形作っています。

②ホレス・シルヴァー (1928~2014)
福島誠氏の音と音楽を理解するために、大きな影響を受けている、ホレス・シルヴァーのピアノから始めましょう。
ホレス・シルヴァーはバド・パウエルに強い影響を受けていて、ジャンルはファンキー・ジャズ、ソウル・ジャズ、ハード・バップなど演奏しています。
ホレス・シルヴァーのピアノは、超絶技巧演奏ではありませんが、彼にしか出せない強烈な個性と魅力があり、知的で複雑になりすぎていたビバップに対し、彼は「聴き手が自然に身体を揺らしたくなるようなグルーヴ」を提示しました。音の数を減らし、シンプルで誰もが口ずさめるような分かりやすいフレーズを選んで演奏していたのも彼の特徴です。
福島誠氏の演奏も、小粋なフレーズで聴く人を惹きつけ、ファツィオリのピアノのもつ豊かな響きが味わえます。(Wikipediaによる)

2.ファツィオリというピアノ(このアルバムを楽しむためのもう一つのポイント)

ショパン・コンクールと言えばスタインウェイの独壇場だった時代が過ぎて、ファツィオリというイタリア製のピアノが出現しました。前回や今回の優勝者などにも使われました。
スタインウェイに置き換わる存在と言えるように、ファツィオリはスタインウェイの華やかさを持ちながら、よくコントロールされた音で、ピアニストの意図をよく表現するピアノです。
オーディオ的に表現すると.ワイドレンジかつ広ダイナミックでありながら繊細で美しい響き、のピアノです。

今回のアルバム「TORA IW A」の録音された群馬県高崎市のTAGO studio takasakiはこのファツィオリを所有していて、プロモーション・ビデオからも、このピアノが使われていることが読み取れます。

3.各トラックの試聴記

1曲目、トロンボーンものびのびしてトロンボーンとピアノの掛け合い的な音楽にまとめられていて、そこにフルートが乗ってくる感じです。
ピアノは多彩な表現をしています。トロンボーンとの掛け合いがあると思えば、後半のソロでは、ピアノの良さを充分感じさせる演奏です。
2曲目のピアノはシンコペーションしてリラックス感があります。
3曲目は華麗なピアノのソロから始まる。ほんとにこのピアノは表現力があり、音色も多彩なので聴いてて飽きない。単調になりがちな音楽のところどころにファツィオリのピアノが出現して、素敵な音色で単調さを払拭します。3分54秒のアドリブは、まずピアノの音色が耳を楽しませ、気がつけばピアノで音楽ができてしまっているのがわかります。
4曲目は2曲目に続いて、ピアノの楽しいリズムで音楽が始まる。このピアノ、なかなか楽しい音楽を作ります。時に繊細な響きを聴かせ、テンポを取れば音楽を楽しくまとめています。「ピアニスト・バンザイ」と言いたくなる楽しさです。
5曲目 、バスドラはキレ良く、音楽的バランスもよく取れていて、このトラックの音楽を締めています。。ここでも、ピアノの音に耳が行きます。良いピアノです。響きの反射音や響きが美しい。バスドラが元気で調子がいいので、音価が楽しく出来上がっています。トロンボーンものびのびと、演奏。
これに比べると6曲目は力が入っていて楽しくない。6曲目は各プレヤーが慎重に音を出している。
7曲目は「虎岩」のテーマ曲でもあり、ベースの低音もクリアで訴えるものがあります。続くトロンボーンも分厚い。筆者はどうしても、音は低音から入るのでこのCDではベースが気になります。このトラックはフルートもピアノものびのびとしていて、聴いていて楽しい。ピアノは豊かな音色に聴き惚れます。多彩な音がよく捉えられています。
8曲目は、「もうエンディングですよ!」という演奏で全演奏者が楽しく演奏しています。トロンボーンもこのトラックがリラックスしているので、音楽表現も豊かになっていて良い感じです。フルート、ドラムもすっかりリラックスして楽しい音楽になっています。

4.このアルバムの音

このアルバムの音は、高い品位で、中庸に綺麗にまとめられた音、と言えるでしょう。これは、CD試聴とプロモーション・ビデオの群馬県高崎市のTAGOスタジオの風景からの印象です。

・このアルバムの音は、リーダーの冨永さんの性格からか、高域はウィーン・フィルやムジーク・フェライン・ザールの音のように品位高く、低音は、これみよがしに帯域を伸ばしたり膨らませず節度ある音です。このアルバムの音と音楽的な深みを味わうにはピアノの音に注目したいもので、上記の通りです。

・ピアノの音
もし、スタインウェイで弾いていたらハンブルグ・スタインウェイでも明るくなりすぎ、あるいは硬くなりすぎるところを、ある種の渋みを持たせながら、スタインウェイのようにやたらと前に出るのではない音です。もしかしたらヤマハには少し感じられる控えめな品位あるところかもしれません。(4曲目で)
続く5曲目では、単調な和音の打弦の中にも柔らかさ・響きの豊かさを感じます。
高域は出しゃばらないけれども軽やかで豪華な響きがあり、中域は切々と音楽を語り、低音はニューヨーク・スタインウェイのもつ奔放さもみせることのできるピアノです。

5.あとがき

改めてこのアルバムの音ですが、帯域を欲張らず、高域も滑らかで品位豊かに、低音もパンチ力をつけるところはしっかり押さえて音作りされています。アナログの音をデジタルで作った品位の高い音、というところでしょうか。

萩原光男

萩原 光男 1971年、国立長野工業高等専門学校を経て、トリオ株式会社(現・JVCケンウッド株式会社)入社。アンプ開発から、スピーカ、カーオーディオ、ホームオーディオと、一貫してオーディオの音作りを担い、後に「音質マイスター」としてホームオーディオの音質を立て直す。2010年、定年退職。2018年、柔道整復師の資格を得て整骨院開設、JBL D130をメインにフルレンジシステムをBGMに施術を行う。著書に『ビンテージ JBLのすべて』。

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