JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 41,425 回

R.I.P. / 追悼R.I.P. リー・コニッツNo. 265

リー・コニッツさんの思い出 by 芳垣安洋

Text by Yasuhiro Yoshigaki 芳垣安洋
Photo: from private collection of Kazuhisa Uchihashi

1996年秋、リー・コニッツさんがツアーをするので、その中でセッションをしないかという話をいただいた。ギタリスト、内橋和久が主催していたFBI (Festival Beyond Innosence)というイベントでの企画で、メンバーは、内橋、同じくギタリストの山本精一、そして私にリーさんが加わっての、ジャズとしては変則的な編成のセッションでした。その時のリーさんのジャパン・ツアーは他にも、彼のソロ、井上敬三さん、灰野敬二さん、豊住芳三郎さん、渋谷毅さん達とのデュオなどのラインナップで、当時私は「リー・コニッツさんってジャズ以外の即興もするの?」って少々驚いた覚えがあります。渋谷さんとはジャズの曲をやる可能性もあるだろうけど、他のセッション、どうなるのだろうか、と思ったのです。当時、私の中でのリーさんのイメージは「リー・コニッツ&ウォーン・マーシュ」やビル・エバンス、レニー・トリスターノらとの共演者というクール・ジャズの旗手的な印象のままだったから仕方がない。ツアーの企画者、田中氏は「彼は今ジャズだけでなく即興演奏にもエネルギーを向けていて、いろんな人とやりたがっているので大丈夫ですよ。」と言ってくれたのだが、私にとってリーさんはジャズ史の中での巨人であることには変わりなく、緊張したまま本番を迎えることになってしまった。

コンサートの細かいことは思い出せないのですが、未だに忘れられない出来事が一つ。コンサートの始まりで、リーさんは、きっと生の音を届けたかったのだろうと思うのですが、ステージの一番前の方を、オフマイクで、歩きながらサックスを吹き始めました。確か「飾りのついた四輪馬車」のメロディーだったと思います。私は「ジャズの曲吹くのですね。でも内橋も、山本も合わせはしないんだろうなあ。まあでも私はそこからスタートしましょう」と思いながら、カリプソ的なリズムでそれに合わせて叩いてました。内橋は当然彼のサイクルで次々にテンションのあるコードを当てていました。そこに突然、山本が驚くような大轟音で切り込んできたのです。リーさんは思わず飛び上がったように見えました。そのまま後ずさりしながらステージ最後方まで行って、今度はそこでやはりオフマイクで吹き続けていました。このちょっとキュートな出来事に私の緊張は相当緩められました。そのあとどう展開したのかはあまり記憶がないのですが、私もゴリゴリとした演奏に切り替わったことだけは覚えています。このオフマイクのリーさんの音と、ギターの轟音と私の演奏が表でバランスが取れていたのかはわかりません。ただステージ内でのリーさんのサックスの音は、非常に鋭く大きかった。

亡くなってから彼の演奏を聴き返してみると、改めて音の強さに驚かされます。クールジャズと言われた’50年代から、近年までのECMやENJAなどのヨーロッパのレーベルに残した作品、どれもから、ただ美しいだけでなく強い力を持ったサックスの音色が聞こえてきます。独自の、彼にしか出せない音ですよね。改めて、彼のあまりに多い作品数、幅広い世界観、どれもに共通した素晴らしい音色、に敬服しました。やはり巨人でしたね。


芳垣安洋 Yasuhiro Yoshigaki: Drums,Percussion,Composer
ジャンルを飛び越えてビートとメロディーを紡ぐ打楽器奏者!!!
1980年代、学生時代に関西のジャズシーンで活動を始めたのち、サルサ、アフリカ音楽、民族音楽など幅広いエリアで演奏を行うようになり、1990年代に入ると、Art Ensemble Of ChicagoやJohn Zornなどの影響を受け、しだいにメインストリートのジャズだけでなく、ロックや即興演奏やノイズ音楽などへも活動の場を広げる。
1990年代中ば、東京に移住し、内橋和久とのAltered States、不破大輔の渋さ知らズ、大友良英Ground Zero、 大友良英ONJQ〜ONJO、勝井祐二、山本精一とのROVO、菊地成孔DCPRGなどのジャズ〜アヴァン・ポップを牽引したバンドのメンバーとして活動。他にも、山下洋輔や坂田明、渋谷 毅、板橋文夫、梅津和時、片山広明、をはじめとするジャズ、UA、おおはた雄一、カヒミ・カリィ、元ちとせ、ハナレグミなどのポップス、「いだてん」「あまちゃん」など大友良英などの作曲家たちが制作するTVや映画の音楽、文学座などの舞台音楽、Co.山田うんなどのコンテンポラリーダンスの音楽など、さまざまなエリアで演奏活動を行うようになる。大友良英のグラウンドゼロや渋さ知らズオーケストラなどをきっかけに、アメリカやヨーロッパのフェスティバルなどに出演するようになる。
グルーブのある音楽から即興まで、幅広い音楽性を持つ打楽器奏者として、現在も「Orquesta Libre 」「Orquesta Nudge! Nudge!」「On The Mountain」「MoGoToYoYo」「Vincent Atmicus」等多様なグループを主宰し東京を中心に演奏活動を行う。
中でもOrquesta Libreでは、ROLLY、柳原陽一郎、スガダイローなどの独特のサウンドを持つアーティストたちとのコラボレーションも行う。
打楽器を中心としたアンサンブルのワークショップリーダーとしての活動も、Orquesta Nudge! Nudge!などとともに継続して行っている。近年、東京都の主催企画「アンサンブルズ東京」日本財団の「True Colers Festival」などにもこの活動が繋がるようになっている。
日本のみならず、ヨーロッパやアメリカ、南米の音楽家との共同制作も行い、Lester Bowie、Don Moye、John Zorn、Bill Laswell、Enrico Rava、Barre Phillips、Lee Konitz、Rod Williams、Billy Martin、Cyro Baptista、Santiago Vasquezらと共演を重ねてきた。特に近年、Kasper Tranberg、Simon Toldam、Mark Solborg、Adam Pultz Melbyeらのデンマークの音楽家たちとの国境を超えた活動も続けている。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください