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よしだののこのNY日誌No. 208

よしだののこのNY日誌 第1回

text and photos by 吉田野乃子 Nonoko Yoshida

JazzTokyoをご愛読のみなさま、初めまして。ニューヨークでサックスを吹いております、吉田野乃子と申します。

2006年に単身渡米してから、こちらの前衛音楽シーンに入り込んで、現場のミュージシャンから学び、活動して参りました。

私が体験した面白いイベントなどを紹介していけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

<The Stoneと大友良英さんのレジデンシー>

マンハッタン、ロウアーイーストサイドにある、ジョン・ゾーンの経営するThe Stoneというライヴハウスは、客席と同じ高さのステージと、椅子があるだけで、飲み物などの販売はなし、入場料は100%ミュージシャンにバックされる、前衛音楽を演奏、堪能するには最高の場所です。ドアのところで入場料を集めるのは、このシーンに関わっているミュージシャンや音楽関係者で、すべてボランティアです。私もここで2008年から働いていて、出演者のセットアップを手伝ったり、リハを見たり、話をすることで、いろいろなことを学んできました。ボランティアのクルーは現在15人程いて、1人が月2、3回働けば良いので、みんな、自分の見たいライヴの日にサインアップしたりしています。店の家賃や経費は基本的に、かつては月に1度、今は不定期に行われているゾーン氏と仲間の即興ライヴでの入場料と、店で販売しているCDの売り上げでまかなわれています。(足りない分はゾーン氏のポケットマネーから出ているはずです。いやはや頭が上がりません)

The Stoneは元々、ゾーン氏から任命されたキュレーターが2週間~1ヶ月ブッキングをするシステムで、キュレーターによって毎月違ったシーンの出演者が楽しめました。現代クラシック、フリージャズ、インプロビゼーション、エレクトロニクス、インディーロックやパンク寄り‥‥共通しているのは、どの出演者も前衛的、創造的であるということでした。

2013年4月からは、1人のミュージシャンが1週間、毎晩演奏をするという、レジデンシーシステムに変わりました。ヴィレッジ・ヴァンガードやブルーノートといった、ジャズのライヴハウスなどでは、一つのバンドが数日連続で演奏するということがよく行われていますが、前衛シーンのアーティスト達にはなかなかそのような機会がない、ということでの、ゾーン氏の計らいです。ただ、上記のようなジャズのライヴハウスとの違いは、出演者は毎晩、違うバンド、違うプロジェクトで出演することを求められるということです。

2015年4月の第3週は、大友良英さんのレジデンシーが行われました。大友さんのターンテーブルとSachiko Mさんのエレクトロニクスによる、緊張感のある微音系の美しいノイズのデュオを皮切りに、毎晩、様々なミュージシャンとのコラボレーションが繰り広げられました。最終日、4月19日(日)のファーストセットは、私がサックスを吹いているカルテット、『ペットボトル人間』と大友さんの共演でした。バンドのオリジナル曲を私たちがノンストップで演奏し、大友さんには、好きな時に好きなように即興をしていただくことになり、大友さんのギターにインスパイアされ、いつもの私たちの曲が何十倍もパワーアップしました。「もし途中で『これは良い!』という展開になったら、元々の曲の構成はどんどん無視して行こう」ということにし、曲中の即興の部分を引き延ばしたり、エンディングをわざと削って次の曲へなだれ込んだりと、縦横無尽に駆け回りました。最終日のセカンドセットは、大友さんの貫禄のソロギターで締めくくられ、素晴らしい一週間を見せていただきました。

大友さんご自身のブログでも、レジデンシーの様子をご覧いただけます。
>> 大友良英JAMJAM日記

<即興シーンの先輩、友人達の活躍>

今月も、他にも面白いライヴをたくさん見ましたが、即興系のイベントを二つピックアップします。

4月20日(月)
Briggan Krauss’ H-Alpha @ Roulette, Brooklyn

Briggan Krauss (alto saxophone), Ikue Mori (laptop), Jim Black (drums and percussion)
Special Guest: Brandon Seabrok (guitar), Kato Hideki (bass)

シーンの重鎮ミュージシャンによるトリオH-Alphaに、ベーシストのKato Hideki氏、ギタリストのBrandon Seabrok氏が参加。凄腕インプロバイザーが5人も集まると、多様なシーンに富んだ長編映画をみているような、壮大なインプロが行われます。サックスのBrigganはよく、“不自由にすること”をボキャブラリーにしているように感じます。わざと吹きにくそうな体勢、くわえ方、運指で演奏をしたり、ベルにタオルのようなものを詰めて曇った音を出したりなど、故意にサックスの開放的な音を制限するのですが、そうすることで、他の楽器の音質と相性良くブレンドされているように聞こえます。複数名による即興を聴く時、「あれ、この音は誰が出しているんだろう?」と思う瞬間がとても面白いのです。

>> 参考音源 Briggan Krauss’ H-Alpha

4月22日(水)
Henry Kaiser/Weasel Walter Large Ensemble @ JACK, Brooklyn

Henry Kaiser (guitar), Weasel Walter (drums)

Alan Licht (guitar), Tim Dahl (bass), Brandon Lopez (bass), Jim Sauter (saxophone), Chris Pitsiokos (saxophone), Matt Nelson (saxophone), Michael Foster (saxophone), Peter Evans (trumpet), Dan Peck (tuba), Steve Swell (trombone)

恐らく一夜限りのアンサンブル。出演者は揃いも揃って、マッチョなパワー全開のインプロが持ち味の、前衛音楽シーンの“悪い奴ら”ばかりです。これはとんでもない爆音ライヴになること間違いなしと、誰もが思って会場に向かったはずです。ステージ上に電子時計をセットし、ドラムのWeaselが書き出したスコアに沿って即興が行われます。スコアには(本当はネタバレしちゃいけないので見てはいけなかったそうなのですが)時間と(何分何秒から何分何秒まで)誰が(ソロだったりデュオだったりもっと大勢だったり)何をするか(自由にソロ、ロングトーン、八分音符、静か目、爆音など)といった指示が書かれています。指揮者が合図するわけでもなく、こちらからは時計もスコアも見えないため、変化が一瞬にして、突発的に起こり、ものすごいスピードで曲が展開して行くのです。1時間ちょうどの曲が、休憩を挟んで2度演奏され、音の洪水で、やたらとハイな状態になったり、逆にぐったり疲労したり、精神に異常をきたしたオーディエンスも少なくなかったように思われます。さすが極悪インプロ集団でした。(笑)

吉田 野乃子

1987年生まれ。北海道岩見沢市出身。10歳からサックスを始め、高校時代、小樽在住のサックス奏者、奥野義典氏に師事。2006年夏、単身ニューヨークに渡る。NY市立大学音楽科卒業。ジョン・ゾーンとの出会いにより、前衛音楽の世界に惹かれる。マルチリードプレイヤー、ネッド・ローゼンバーグに師事。2009年、前衛ノイズジャズロックバンド"Pet Bottle Ningen(ペットボトル人間)"を結成し、Tzadikレーベルより2枚のアルバムをリリース。4度の日本ツアーを行う。2014年よりソロプロジェクトを始動。2015年10月、ソロアルバム『Lotus』をリリース。現在、活動拠点を北海道に移す。

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