ラ・フォル・ジュルネ 2019 公式本「旅する作曲家たち」4/25発売
Corinne Schneider: La musique des voyages
旅する作曲家たち (西 久美子 訳)
アルテスパブリッシング 2019年4月25日発売
2019年5月3日〜5日に開催される、ラ・フォル・ジュルネ TOKYO「ボヤージュ〜旅から生まれた音楽(ものがたり)」と、1月末〜2月上旬にフランス・ナントで開催されたラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント「Carnet de Voyage」の共通公式本が、なんと!直前だが4月25日にアルテスパブリッシングから発売された。”公式本”はこれまでも毎年作られてきた。特に2018年の『「亡命」の音楽文化史』については、2019年のテーマが2018年のオリジナルテーマ「新しい世界へ」(原案「亡命」)からの拡張となっている上に著者が異なるので、現時点でもLFJ 2019に向けて読む価値がある。著者は毎年変わるが日本語訳は、東京藝術大学楽理科を経てリヨン第二大学大学院に学んだ、西 久美子が継続して担当しており、西はこの数年、LFJのアーティスティック・ディレクター ルネ・マルタンの日本滞在中ずっと通訳とアテンドなどを務めてきたので、原作著者の目を通してだけでなく、直接ルネの人柄と思考、LFJの空気感を最も知る一人だ。
2019年テーマは、「旅」「乗り物」がテーマではなく、「旅をした作曲家が創った音楽」になっているため、直感的に理解する(たとえば、「自然」テーマにおける、海の情景表現のように)ことが難しく、ルネがピックアップしてきた作曲家のストーリーの解説、理解が必要になるので特に予習が生きてくる。「修行のため400kmを徒歩で旅した大バッハ、ヨーロッパ中を狂乱させたパガニーニの楽旅、バルトークの民族音楽研究旅行、豪華客船や鉄道に熱狂したタンスマンやオネゲル、山をこよなく愛したマーラー、転地療法に望みをかけたショパン……、旅はいかに作曲家たちの想像力を刺激したのか」(アルテスパブリッシング紹介文より)。
他方、LFJ TOKYOでは目が向けられていない、またクラシックでは比較的珍しい、「乗り物」にまつわる曲とエピソードにも踏み込んでいるのがありがたい。(ちなみにナントでは、Meredith Monk の Railroad (Travel Song)は演奏された)
テーマの背景にある旅する音楽家たちのストーリーを理解することでよりLFJ 2019を楽しめるので一読をお勧めしたい。
現代も、現代こそ、音楽の仕事は旅とは切り離せない。余談になるが、ジャズの演奏という観点にしても『Keith Jarrett / Koln Concert』、も『Chick Corea / In Concert, Zürich, October 28』もヨーロッパの旅の途中のたまたま良くないコンディション下で「せっかくだからテープ回しとけや〜」から生まれたというのも興味深い。他方、東京在住のミュージシャンは、欧米のミュージシャンに比べると旅の機会は比較的少ない。上原ひろみの凄みも年間200日に及ぶワールドツアーのパワーとサヴァイヴァルにある気がする。大友良英もヨーロッパ、アジア、南米でその場の出会いで音を創る。武満徹もニューヨークで憧れのデューク・エリントンを聴き”その凄さに失望”して創作が動き出した。日本発の「旅から生まれる音楽」がもっと生まれることを期待したい。